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40話

 ブラックドラゴンを退治した俺はブラックドラゴンの死体をインベントリに収納。

 卵は生物なのでインベントリに収納できないから、鞄の中に入れて宿の部屋に戻り、ベッドに腰かけた。

 ブラックドラゴンが退治されたという話は既に町中に広がっており、バルコニーの向こう側から人々の喜び合う声が聞こえてくる。

 ゼニードも俺が部屋に戻った数分後には部屋に戻ってきており、杏子飴を食べてくつろいでいた。

 昨日は結局一睡もできなかったからな――本当に眠い。セリカからドラゴン討伐に関する詳しい経緯を報告するようにと言われたが、それは午後にしてもらうことにした。


「しかし、お前は全然変わらないんだな」


 宿で杏子飴を食べるゼニードを見て、俺は嘆息とともにそんな言葉を漏らした。


「なにがじゃ?」

「いや、1億ゴールドも使ったから、大人に戻るのは無理だとしても、せめて中学生くらいにはなっているかと思ったんだが――」


 ゼニードは神としての力をかなり失っている。彼女の力を取り戻す方法は二つ。

 信者を増やすこと。そして、信者が金を使ってスキルを行使することだ。


「あぁ、うむ。確かに1億ゴールド分の力を得て、かなりの力を得たの」

「そうなのか? 全然そうは見えないが」

「うむ、既にもらった力のほとんどを、タイニャーの治療に使ったからの」

「マジかよっ! そんな荒い金の使い方、人生すごろくのマスですら見たことねぇよ」


 怪我をした野良猫の治療をする。1億ゴールド払う。


 まぁ、正確には1億ゴールド分の力を使ったわけで、実際に1億ゴールド支払ったわけではないのだが、しかしこんなマスがあったら、製作者の金銭感覚がどうかしていると思われてしまうだろう。

 トイレに紙がないから紙幣で尻を拭いて何千ドルと払うマスが普通に存在する人生すごろくにおいて、ありえないとかよっぽどだ。


「タイガの方はありそうじゃの。ドラゴンを退治し必要経費がかかりすぎた。1億ゴールド払う。うむ、人生すごろく【ファンタジー版】にはありそうじゃ」

「人生すごろく【ファンタジー版】って、あのゲームは現代版でも普通にファンタジー要素が入ってるぞ?」

「では、人生すごろく【異世界チートファンタジー小説版】とでも言い直そうか」

 嫌だ、そんなゲームはしたくない。


 女神様からお金を自由に生み出す力をもらった。銀行から好きなだけお金をもらうことができる。


 なんてマスが普通にありそうだから。しかも序盤に。

 人生すごろくのくせに人生を舐めていると思えてくる。

 異世界転生って実際にやってみたらそんな甘いもんじゃないぞ?

 俺なんて日本の記憶を取り戻してから五年間、本当に苦労の連続だ。


「怒っておるのか?」

「怒ってる――が仕方ないだろ、放っておいたら死んじゃうのなら」

「そうか、それはよかった。タイニャーの方はあれから妾を見るたびに逃げ出していくから、やるせない気持ちでいっぱいじゃったからの」

「それはやるせない……」


 明後日の方を向くゼニードに対し、俺は涙が出そうになった。

 報われないにもほどがある。


「異世界チートファンタジー小説なんて、命を助けられただけで主人公に恋に落ちるヒロインなんてざらなのにな。やっぱり現実は厳しいな」

「まぁ、それは普通ではないのかの? 吊り橋効果もあるじゃろうし」

「いやいや、それが本当にあるのなら、俺は今頃百人くらい嫁がいてもおかしくないぞ?」

「それは、タイガがおなごを助けるたびに金銭を要求しているからではないのか?」

「それだ!」

「それだ! ではあるまい――まぁ、それでも主に惚れてる者は何人かおるかもしれんがの」


 ゼニードがそう言った時、タイミングがいいのか悪いのか、ユマが部屋に入ってきた。


「タイガさんっ! 無事だったんですねっ! 本当に心配したんですからっ!」


 ユマは涙を流して俺に抱き着いてきた。微かな胸のふくらみが当たる。

 まったく、こんなタイミングで抱き着いてこられたら、ユマが俺に惚れているんじゃないかと勘違いするじゃないか。


「落ち着け、ユマ。興奮しているのはわかるが――」

「スー」

「お前、よくこんな状況で寝れるなっ!?」


 ここまで緊張の連続だったから、その緊張の糸が切れたのはわかる。

 だが、ダメだ、こいつ、絶対俺に惚れてなんていない。

 普通、惚れている男に抱き着いたまま、涎を垂らして眠れるわけないからな。


 結局、ユマはこのまま俺のベッドに寝かせることにし、俺は床で寝ることになった。ゼニードのベッドは子供用だから俺には眠れないからな。

 そんな俺に、ゼニードは笑いながら言った。


「モテる男はつらいの、タイガ。結婚マスに止まったら祝儀を支払ってやるからの」


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