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38話 ~クイーナ視点~

「クイーナちゃん、避難していなかったの!?」


 冒険者ギルドの裏口から入った私を見つけたセリカ様が、私にそう尋ねました。


「はい、セリカ様。ゼニード様をお連れしてすぐにダンジョンに向かいます。セリカ様こそ避難をしなくていいんですか?」

「私はここで待たないといけないでしょ。ブラックドラゴンから町を守る依頼。その依頼を達成したと報告に来る冒険者の皆様を笑顔で迎えるのが受付嬢たる私の役目なんだから。それより、ゼニードちゃん、避難をしていないの?」

「はい、なんでも町の中を走っているゼニード様を見た人がいたそうですが」

「そう……でもゼニードちゃん、少なくともここには戻ってきていないわよ」

「そうですか――私、もう少し探してみます」

「うん。でもクイーナちゃん、絶対、男爵様の屋敷の方には行ったらだめよ。あっちのほうにドラゴンがいるみたいだから」

「わかりました」


 私は頷き、ゼニード様を捜すため町を走り回りました。

 町はいつもと違い、静かです。誰もいなくなったみたい。


 だからでしょうか?

 ゼニード様を見つけるのには苦労しませんでした。

 町の東部で立ち尽くしているゼニード様を見つけました。


「ゼニード様、外にいたら危ないですっ! 早く中に入ってください」

「問題ない。ブラックドラゴンは間もなくタイガが倒すからの」

「でも、やはり避難したほうが――」 


 私がそう言った時です。

 ゼニード様の目が見開きました。


「おぉ、力が流れ込んでくる」


 ゼニード様がそう言った時、彼女の姿が変わりました。

 まるで時間の流れが変わったかのように、ゼニード様の姿が大人のそれへと変わっていったのです。


「ゼニード様、その姿は――」


 子供だったゼニード様が大人の姿になっただけではありません。

 なんでしょう、オーラというかこの気は―― 


「まさか、あなたは――」


 ゼニードという名前といい、まさか――?


「タイニャー」


 大人になったゼニード様は、先ほどみていた花壇の中を見ました。

 そこには一匹の虎柄の猫が血まみれで倒れていました。

 先ほど、町を囲う壁が壊れた時の破片が当たったのでしょう。


「死んでいるのですか?」

「否、ただこうなったら、もう回復魔法は通用せん」


 ゼニード様は猫を抱え上げると、東へと歩いていきます。

 私は避難をすることも忘れ、ゼニード様についていきました。

 すると、そこで私が見たのは、城壁が壊されたことで傷ついた冒険者たちでした。

 多くの人が傷ついています。


「すぐに神官様を呼びに行かないと」


 私がそう言いますが、ゼニード様は落ち着いた口調で言いました。


「さて――またタイガにどやされてしまうわ」


 ゼニード様はそう言って頭を掻いた時です。

 彼女の体が光、周囲を包み込みました。

 そして、次の瞬間です。


「傷が治っている」

「神の奇跡だ――」

「ラピス神の奇跡じゃ」


 冒険者たちの怪我が治っただけでなく、ゼニード様が抱えていた、死にかけていた猫が息を吹き返したのです。


「たわけ、ラピスの力ではない、妾の力じゃ――いたっ こら、タイニャー、どこへ行くっ!」


 猫はゼニード様の指に噛みついて、緩んだその手の中から逃げ出していきました。

 そして、ゼニード様の姿は、以前の幼女の姿へと戻っていたのです。


「ゼニード様――やはりあなたは――」

「ふふっ、このことは内緒だぞ、クイーナ・ビョードーイン」


 ゼニード様はそう言うと、不敵な笑みを浮かべて言いました。


「さて、あとは任せたぞ。タイガ」


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