37話
「嘘だろ――まだ生きているのか」
「どうだ、ブラックドラゴンの生命力は! やれ、ブラックドラゴンっ! こいつらを――」
バレットが手を挙げた――その時だった。
「なんだこの腕はっ!?」
バレットの手が砂のように崩れ落ちていく。
「お前とドラゴンは一心同体――ドラゴンの失われた体力を回復するためにお前の力を使っているのか」
「そんな……俺は最強の――」
バレットはその言葉を最期に、完全な砂となって散っていった。
服や剣などがその場に残る。
そして、呪縛から解かれたドラゴンは俺を一瞥すると、まるで眠るように目を閉じた。
「魔族と取引なんてするからだ――奴らの力は人間が簡単に操れるもんじゃないんだよ」
俺はそう言って、奴の遺留品を全てインベントリに収納した。
「ラピス様、どうかこの憐れな魂を青き世へと誘いください」
「とにかく、これで一件落着だな」
そして、東の朝を見る。
ちょうど太陽が昇り始めた。
どうやら夜が明けたようだ。
「さて、あとはドラゴンにとどめを刺さすか」
「殺すのですか? このドラゴンさんは悪い人に操られていただけで」
「殺すに決まってるだろ。そのために戦ったんだからな。野生の竜もそれはそれで危ないだろ」
とどめを刺ささないとインベントリに収納できない。
さて、どうやって殺せばいいんだ?
燃料袋付近がまだガス臭い。燃料袋の中身がまだ残っているのだろう。もう一度くらい爆発しそうだが、威力は先ほどまでにはならないから同じ方法ではこのドラゴンは殺せない。
ドラゴンの首の後ろあたりの鱗が砕けている。
「ここを剣で突き刺せば倒せるんじゃないか?」
ガイツから貰ったミスリルの剣を取り出し、俺はそこに突き刺した。
その時だ。
ブラックドラゴンが痛みで雄たけびを上げ、翼を羽ばたかせた。
「うおぉぉ、飛んでるっ」
「タイガさーーーん」
ユマの声が遠ざかっていく。
一瞬で高度百メートル(ドラゴンの限界空域と言われている高度)付近にまで上がった。
そして、西へと飛んでいく。
この方角はノスティアの方角っ!?
まだ命令が残っているのか? いや、こいつは最後に俺たちを攻撃するように命令されているはずだ。命令が有効ならそれを無視して飛ぶはずがない。
バレットの命令を実行しないということは、完全にバレットの呪縛からは解放されているはずだ。
となれば、何故、ノスティアに向かっているのか?
「まさか――操られている間につけたマーキングの場所に――」
だとすれば、こいつが向かっているのはノスティアのキーゲン男爵の屋敷だ。
朝日の熱を背に浴びながら、俺はブラックドラゴンの上で剣にしがみついていた。
こんな空の上だと剣にしがみついていなければ振り落とされてしまう。
そして、すぐにそれは見えてきた。
ノスティアの町が。
そして、町を取り囲む壁の上に、矢を構えた冒険者が見えた。
ドラゴンはキーゲン男爵の屋敷に向かうべく高度を下げた。
「矢を撃つなっ!」
俺が叫ぶがそんな声は聞こえるはずもなく、冒険者たちが矢を放つ。
が、鋼鉄の剣をも弾くと言われた鱗がある。
矢なんて通じるわけがない。
それでも攻撃をされたことはわかったらしく、ブラックドラゴンが急降下し、その尻尾で城壁を砕いた。
冒険者たちの悲鳴が俺の鼓膜に響いてくる。
「くそっ!」
城壁を砕いた時の衝撃に耐えながら、俺は悪態をつく。
「このまま町で暴れられたら――あの大技さえ使えたら」
しかし、金が足りな――いや、金ならあるじゃないか。
「神を穿つ矢」
俺は高度が下がってきたところでそしてキーゲン男爵の屋敷が近づいてきたところを見計らい、ミスリルの剣を抜き、神を穿つ矢をブラックドラゴンの翼の付け根にむかって放った。
片翼が傷ついたことでバランスを崩したブラックドラゴンはそのままキーゲン男爵の屋敷の中へと突っ込んだ。
そこにあったのは――
「へへ、狙い通り」
目の前には巨大な金庫があった。
「こい、トカゲ野郎っ!」
俺はミスリルの剣をドラゴンに向け、挑発した。
ドラゴンは雄たけびを上げ、俺に白金の盾をも砕くという爪を振り下ろした。
俺は咄嗟に金庫の上に跳び乗った。
そして――金庫の扉が砕け散る。
「さすがブラックドラゴン――これで――」
俺は扉に空いた穴からその中に入る。
金庫の中には権利書だとか借用書だとかいろいろと入っているが、俺の目当てはこれだけ。
「あった――金貨の詰まった銭袋」
持っただけでわかる。
総額はぴったり、
「1億ゴールド――」
俺はそのお金を一本の剣へと変える。
金に物を言わせる剣へと。
金に物を言わせる剣は、使ったゴールドによりその威力を上げる。
1万ゴールドを越えたら鉄をも砕き、100万ゴールドを越えたらミスリルをも切り裂く。
そして――1億ゴールドの剣は――
「金に物を言わせる剣」
1億ゴールドを使った時、俺の手の中に全てを切り裂く剣が生まれる。
俺は七色に光る剣を握った。
制限時間は三分。それで倒せなければ完全に詰みだ。




