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35話

 遺跡の近く、以前ハンを観察していた場所から、遺跡の様子を探る。

 すると、遺跡の中央に巨大な黒い竜が寝ていた。

 本当に巨大だ。ゴジ○程じゃないけれど。

 日本にいた頃、ゴジ○を倒せるんじゃないかと合法な(殺人罪を犯しているけれど)金融業さんに言ったことがあるけど、訂正する。プファイファー・ツェリスカを使ってもゴジ○は倒せない。目の前のブラックドラゴンすら倒せそうにない。そういう次元の敵ではない。

 尻尾付近には、以前来た時には無事だった柱が粉々に砕けている。


「また遺跡を壊しやがって。ユマが見てたら怒鳴りつけてるぞ」


 そうぼやきながら、俺はブラックドラゴンの前に立っている男を見た。

 あれ? あいつ、どこかで見たような。

 そうだ、思い出した。

 リザードマンの依頼を持ってきたり、ミスリルゴーレムを倒したあとにグルーの銀貨を粗末に扱ったりした小物の男じゃないか。そういえばバレットって言う名前だった。

 あんな小物が今回の悪役だっていうのか?

 さっきゼニードとの話題に上がった某RPGに例えるなら、竜の王を倒したあとに真のラスボスとしてスライムが出てくるようなものだ。


 唯一、以前に見たバレットと違うことがあるとしたら、着ている服が頭まで覆った真っ黒なローブということか。

 ここから神を穿つ矢(ロンギヌスアロー)でバレットを狙うこともできるが、バレットを殺すだけならそんなことをしなくても近づいていけばいい。

 俺はブラックドラゴンを起こさないように、だが、バレットには気付かれてもいいという感じで堂々と正面から歩いていく。

 バレットはすぐに俺に気付いた。


「――タイガ・ゴールド。そうか、ここまでやってきたか」

「その服、似合ってるじゃないか。そういえば疑問だったな――なんでお前みたいな小物が精神魔法でキーゲンを操るだけでなく、ブラックドラゴンなんて超大物を操れたのか――」


 俺はそう言って石を投げた。

 俺の投げた石はバレットの頭のローブを掠め、それを露わにした。

 バレットの頭に生えた山羊のような角。

  

「お前、魔族に――魔神に魂を売ったのか」

「そうだ。俺の魔物を操る力が、魔神様を信奉するようになって、力が増した。最初に操ったのは魔族が連れてきたワイバーンだった。あの狂暴なワイバ―ンがまるで子犬のように俺に従うのだ。その後、ワイバーンの背に乗り、飛竜山に向かい、ブラックドラゴンを操ることにも成功した。とても簡単な仕事だったよ。ただ奴隷の体内に従魔石を埋め込み、ブラックドラゴンの前に落とすだけだったのだからな」


 バレットは邪悪な笑みを浮かべて言った。


「魔族と何の取引をしたんだ? 永遠の命でも貰ったのか?」

「永遠の命――それもいい。だがそんなものではない。魔族がこの国を支配した暁には、俺はこの国の国主となれる。そう魔族と契約を交わした。貴様も愚かだな。あの時、俺と契約を交わしておけば、貴様も軍隊長くらいには雇ってやったのだが」

 本当に小物だな。

 世の中には世界の半分をくれてやろうという王もいるというのに。

 まぁ、世界の半分を貰っても、こんな小物の部下になるなんて御免被るが。

「その様子を見ると、俺がこのブラックドラゴンの主だということにも気付いていたようだな。どこで気付いた?」

「残念だが、その答え合わせは男爵と済ませたんだが――もうひとつだけ聞きたいことがある」

「なにかね? 俺は今すこぶる機嫌がいい。教えられることなら教えてやろう」

「ミスリルゴーレムを召喚しただろ」

「ほう、ダンジョンにいるのがシルバーゴーレムではなくミスリルゴーレムだと気付いたか。どこで気付いたのかはわからないが、あれには特定の人間が近づけば殺すように命令している。シルバーゴーレムと勘違いした愚かなキーゲンの部下共は今頃血の海を作っているだろう」


 バレットはそう言って高笑いをした。

 どうやらこの小物は俺がミスリルゴーレムを倒したことに気付いていないようだ。


「んなことはどうでもいい。魔族が魔物を召喚するには代価が必要になる。お前、ミスリルゴーレムを召喚するための命をどこで用意した?」

「そのことか。俺は用意していない――用意したのは貴様だ、タイガ・ゴールド」

「ちっ」 


 俺は思わず舌打ちをした。

 やはりそうか。

 俺はハンの言葉を思い出した。

 ハンの弟子たちは、キーゲン男爵の使いの者が連れていったと。


「お前、ミスリルゴーレムを召喚するためにハンの弟子を全員殺しやがったのか」


 ハンの弟子は国有の鉱山に送るためにキーゲン男爵が買い取ったと言っていた。

 その時に動いたのがバレットだったのか。


「そうだ、その通りだ。ダンジョンで死ぬ時の奴らの泣き叫ぶ声、今でも思い出すだけで笑いがこみ上げてくる。奴らがタイラン神の名を叫ぶのは滑稽だった。奴隷には神に祈る権利すら与えられないことを知らぬバカは死んで当然だ! ハハハハハっ!」


 バカ笑いをしたバレットは、俺に尋ねる。


「他に質問はあるか?」 

「いや、もうないよ。ここからの時間は探偵アニメじゃない――バトルアニメだ」


 俺はそう言うと一瞬にしてバレットとの距離を詰め、ミスリルソードでその胴を横薙ぎにした。

 高笑いをしていたバレットが上下に分断される。

 普通の剣では魔族は倒せないが、ミスリルの剣なら話は別だ。

 ガンツにこの剣を貰っておいてよかった。


「これでとりあえずブラックドラゴンの呪縛は解かれたか」


 これでブラックドラゴンが大人しく飛竜山に戻ってくれたらいいのだが。


「何が解かれたと?」


 背後から聞こえるはずのない声が聞こえた。

 振り返ると、さっき倒したはずのバレットがいた。

 まさか、さっき倒したのは幻影だったのかと思ったが、そうではない。奴の着ている服は裂けている。 


「ハハハっ、驚いたか! 今の俺はブラックドラゴンと一心同体。生命力がこのドラゴンと繋がっている。ブラックドラゴンが死なない限り俺は死なない」

「お前の受けるダメージがブラックドラゴンに肩代わりされているということか?」

「愚かなお前の頭でも気付いたようだな。ブラックドラゴンの生命力は人間の千倍以上――俺の怪我を治すくらいドラゴンにとっては鱗一枚が剥がされる程度のダメージしかいかない。魔族に永遠の命を望んだのかと言ったよな? だが、既に俺は永遠の命を手に入れている。既にある物など望まない」


 そうか、そういうことか。

 これは――


 愉快だ。


 俺は思わず笑いだした。


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