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33話

「ダンジョンっ!? タイガさん、ダンジョンは魔物が湧き出る危険な場所です。そんなところに一般人を連れていくなんて、彼らを自殺させるのと同じです」

「安心しろ、一階層に現れる敵は大したことはない。各部屋に冒険者ひとりでも置いておけば対処できる。グルーたちでもなんとかなる」


 そしてその広さは東京ドーム一個分。町の人間を全員入れることもできる。

 さらに、ダンジョンの入り口は狭い。巨大なドラゴンは入ってこられない。また亜空間にあるため、ただの地下壕と違い生き埋めになる心配もない。


「食糧の運び入れ、分配と管理は奴隷たちにやらせればいい。あいつらは契約次第では命令に絶対服従。食糧の横領などはできないからな」


 そして、俺はユマと一緒に毛布を配っていた神父を見た。


「聞いていたな、神父さん。あんたはどうする? ここで神に祈るのか? 言っておくが、キーゲン男爵の屋敷にマーキングしている以上、屋敷の近くにあるこの教会は避難所としては最悪だぞ」


 神父が悩んだのは一瞬だった。


「――リリカ、君は冒険者ギルドに行って今の話を伝えて来なさい。ココは奴隷商に行き、奴隷を八人借りて来なさい。教会の倉庫にある食糧をダンジョンに運ばせるのです」

「「はい」」


 ユマと違って真っ黒な修道服を着ているふたりの女性が小走りに走っていった。


「ユマ、あとでゼニードとクイーナも一緒に避難させるつもりだ。あいつらの保護を頼んでいいか?」

「タイガさんはどうなさるんですか?」

「ブラックドラゴンは最強級のドラゴン。その鱗は鋼鉄の剣をも弾き、その牙は白金の盾をも砕くと言われている」


 俺が持っているミスリルの剣でも致命傷を与えられるとは思えない。

 それくらい奴は強敵だ。


「そんなブラックドラゴンを倒したら、素材を売るだけでいったいどれだけ金が入ってくると思う?」


 それこそ天文学的な数字になるのは間違いない。


「タイガさん、こんな時にもお金ですか?」

「怒ってるのか?」

「いいえ、安心しました。動機は不純ですが、それでこそタイガさんです」


 ユマはそう言って笑った。とても楽しそうに。


「もしも全てが終わったら、またタイガさんのネギ焼きを食べたいです」

「高いぞ?」

「高くても食事代くらい払いますよ。ブラックドラゴンを倒すことに比べたらお安い御用です」

「そりゃそうだ」


 俺はそう言って笑った。

 これからブラックドラゴンと戦う人間の者とは思えない、無邪気な笑みだったと自分でも思った。

 どうやら、俺もユマもどうかしている。



 ゼニードにユマと一緒に避難するように伝えるため、一度宿に戻った。

 そして、ゼニードに伝える。


「ということで俺は戦うことにしたよ」

「タイガ、ブラックドラゴンと戦うなぞ、蛮勇を通り越して無謀としか思えんぞ」


 自分でもそう思っていたが、他の人間に言われると、たとえそれがゼニードでも腹が立つな。


「無謀か。ハハッ、普段から無駄に策謀ばかり巡らせておるタイガにはもっともふさわしくない言葉じゃな」


 ゼニードはとても嬉しそうにそんなことを言った。

「して、何故そこまでして戦う?」

「ブラックドラゴンの素材なんて、それこそ億単位の値段が付くからな。それに、俺の計画を実行に移すにはこの町に滅んでもらったら困るというのもある」

「そうじゃの。住居を変えればネギたちの発育に影響がでるかもしれんからの」


 そうだな、この町はネギを育てるのに適した気候をしている。

それに、カモノネギの巣を取りに行くにもこの町を拠点として残しておきたいからな。


「じゃあ、俺は少し仮眠をとるからな。まったく、ワイバーンといい、今回のブラックドラゴンといい、なんでこうもドラゴンと縁があるんだ。ドラゴンと戦うなんて、ゲームじゃあるまいし。まるでドラゴンクエ――」


 俺はそこまで言って、ふと不思議なことに気付いた。


「待てよ……」

「そうじゃな。そのゲームならワシとしては、嫁は実家の金目当てにフロ――」

「そっちの話じゃない。今回のドラゴンの襲来事件、黒幕がわかったかもしれん」


 そうなると、寝ている余裕はない。

 俺はゼニードに再度避難するように念を押す。


「タイガ――死ぬんじゃないぞ」

「当然だ。俺は人間の王になるんだ。竜の王なんかに殺されてたまるか」


 黒幕がいる可能性の高いその場所に向かって駆けていった。


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