28話
「そうだ、ガイツ。今回のミスリルでガントレットって作れるか?」
「ガントレットか? 拳闘士でも仲間にするのか?」
「ああ、なかなか面白そうな奴を見つけてな。手に入れたいと思っている。とりあえず、五十程用意しておいてくれ。剣を作るよりは必要なミスリルも少なくて済むだろ?」
「気楽に言ってくれるな。剣よりガントレットのほうがはるかに面倒だというのに」
「ダメか?」
「ふん、任せておけ」
ガイツが少し楽しそうに鼻を鳴らした。普段は剣ばかり鍛えているから、珍しい作業を頼まれたのが嬉しいのだろう。フロンティアスピリッツに溢れた爺さんだからな。
あとは、各地に散らばったサクティス王国の元住民についてなにかわかったことがないかとガイツに聞こうとした時だ。《コール》の呼び出し音が頭に響いた。
ゼニードからだ。
《タイガ、聞こえておるか?》
《ああ、聞こえてるぞ。用件を言え》
《キーゲン男爵が動いた。なんでもダンジョンの中にシルバーゴーレムが現れたという噂が広がっており、昨夜、その退治に部下たちを向かわせたようじゃ》
《シルバーゴーレム?》
もしかして、それは俺が倒したミスリルゴーレムのことじゃないだろうか?
そういえば、キーゲン男爵の部下のいけ好かない男が、俺に仕事をもちかけようとしていたが、シルバーゴーレム退治の仕事の話だったのかもしれないな。
俺がアイアンゴーレムを狩りまくっていたことはグルーですら調べられる話だし。
《本物のシルバーゴーレムがいたとして、あいつらに倒せるのか?》
《心配無用じゃろ。魔術師風の男も一緒にいたからの》
あぁ、見張りの塔に詰めていた魔術師を使ったのか。ミスリルゴーレム相手なら魔術師がいてもほとんど役に立たないが、シルバーゴーレム相手なら俺が普段アイアンゴーレムに使う方法で倒すことができる。
確かに、攻めてこない敵に魔術師を使うより、その方が金になる。
キーゲン男爵も出世のための根回しに金が欲しくなる時期だからな。
「しかし、困ったのぉ」
「どうしたんだ?」
「ミスリルの加工のために炎石を山の頂上付近の洞窟に取りに行きたいのじゃが、実はひと月ほど前に山の頂上にいたブラックドラゴンがどこかにいなくなってしまってな。今は他の竜どもが覇権争いをしていて危険なんじゃ」
「あぁ、それで覇権争いに負けたワイバーンが地上に降りちまったのか」
俺はシンミーから依頼を受けて、奴隷馬車の護衛をしていた時のことを思い出した。
そこをどこかのモンスターテイマーによって操られ、王家の馬車を襲ったのだろう。
「俺に竜たちを全滅させろっていうのか? さすがにそれはやらないぞ」
「うむ、ダメじゃ。竜たちがいなくなれば飛竜山が安全な山になるじゃろ。それはいかん」
「そうだよな」
なにしろ、このマイヤース王国がヘノワール辺境領以外魔族の侵略から逃れているのは、竜神の爪痕だけでなくこの飛竜山の存在が大きい。飛竜山には、今はいないが竜の中でも強力なブラックドラゴンをはじめ、多くのドラゴンが生息している。そんなところに大軍で攻め入れば、ドラゴンの逆鱗に触れて襲われてしまう。
「ワシらドワーフは古よりこの山に住む炎の精霊たちと親交を深めてきたお陰で、ドラゴンたちから襲われることはない。しかしそれはこの村の中だけのこと。さすがに頂上付近に行けば危ない。そこで坊主には、ワシの代わりに炎石を取って来てもらえんか?」
「それって、俺が危ないだけじゃないか。覇権争いが終わるのを待つことはできないのか?」
「待っても良いが、しかしそれじゃと何十年かかることか」
「そんなにかかるのかっ!?」
ガイツが言うには、以前、ブラックドラゴンが飛竜山の長と決まる時にも覇権争いはあったらしく、その時は三十年飛竜山全体が戦場のようになったそうだ。
「じゃあ、覇権争いが早く終わるように一頭の竜に加担するのはダメなのか?」
「竜同士の争いに人間が介入することは許されん。それこそ山中の竜を敵に回すことになるぞ」
「それは御免被るな。となると、一番簡単なのはブラックドラゴンを山に戻すことだが――」
そのブラックドラゴンがどこにいるのかわかれば苦労しない。




