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25話


 俺がインベントリの中に入れてあったワインの中身を確認していると、ゼニードがベランダから入ってきた。

 顔が擦り傷だらけだから、またあのトラネコ――タイニャーと戦ってきたのだろう。

 ゼニードは俺が調べているワイン樽を見ると目を輝かせ、そして猫族のような高笑いをした。


「ニャハハっ、タイガも妾のことを神として敬う気になったようじゃな」

「何をバカなこと言っているんだ?」

「その酒じゃ。古来より神への供物は酒と決まっておるからの。どれ、一献」

「ガキが酒を飲むんじゃねぇよ――これはお前のじゃねぇよ」


 俺はワイン樽をインベントリへと収納する。


「ガキじゃない、妾はこれでも――」

「猫と喧嘩している時点で十分ガキだ。ちょっと遠出するからな。飯はセリカさんに頼んである。それと、なにかあったら《コール》で連絡しろ」

 俺はそう言うと、《コール》にかかるであろう費用として500ゴールドを置いていく。

「やけに用心深いの。普段ならそんなこと言わんじゃろうに」

「最近、ちょっと気になることがあってな。つまらないことで電話するんじゃないぞ。釣りは返してもらうからな」


「して、どこに行くのじゃ? 土産は期待してよいのかの?」

「大量にミスリルが手に入ったからな。ちょっとドワーフ自治区のガイツのところに売りに行ってくる」

「また行商ギルドに目をつけられんか?」


 ゼニードが過去の失敗話を思い出して尋ねた。

 俺の転移魔法、そしてインベントリの能力。

 そのどちらも行商人になるには最適だと思い、ひとりで国中の交易場で売買を続けたことがあった。

 その結果、行商人たちに目をつけられ、結果的に暗殺者につけ狙われることになったことがある。逃げ出して別の場所で商売を続けてもよかったのだが、行商人の互助協会である行商人ギルドは世界中に支部が存在するため、敵に回すと俺が王になった時に厄介なことになるからな。

 俺の目的は祖国を取り戻し王になることだが、王になることがゴールというわけではなく、そこがスタートだと思っている。そのため、王になる前から行商人ギルドのような巨大な組織を敵に回すのは得策でない。

 その後、なんとか行商人ギルドのドンと言われる女と話し合い、行商で儲けた額の七割を差し出し、以後行商ギルドの許可なく商売を行わないことで示談が成立した。

 もちろん、俺も泣き寝入りしたわけでなく、行商人ギルドが手に負えないという仕事を冒険者ギルドで請け負うなど、独自のパイプを作ることができたわけで、時折仕事を斡旋してもらっている。

 この事件はゼニードも把握しているので、そのことを危惧しているのだろう。


「自分で倒した魔物の死体を売りに行く分にはかまわないそうだ。というか、あの女とはあまり関わりたくないからな」

「タイガさん、聞きましたよ! ドワーフ自治区に行くのですよねっ!? 私も連れていってください」


 ノックもせずにユマが入ってきた。

 こいつ、立ち聞きしてやがったのか?


「一応聞いておくが、なんのためだ?」

「ふふふ、聞いてくださいっ! なんとドワーフ自治区には謎の円盤があるのですっ!」


 ユマが一冊の本を広げて言った。


「謎の円盤?」


 ユマが見せてきた本には、まるで昔のレコード盤のようなイラストと、説明が書かれている。

 なんでも、この謎の円盤は坑道の中で発見され、今でもドワーフの族長の家で飾られている。

 本によると、先史文明の魔法の道具であると書かれている。

 もしかして、ゼニードが何か知っているのかと思って見てみる。


「これは……まるで……レコード盤みたいじゃの」

「そんなわけないだろ。本当に役に立たないな」


 俺も同じ感想を持ったことは黙っておこう。


「ドワーフ自治領には転移魔法で行く。俺の転移魔法は距離と人数に依存するからな。ドワーフ自治領に行くなら片道4000ゴールド必要になるが、金無しのお前に払えるのか?」

「これでどうですか?」

「……どうやって稼いだ? まさか、愛を売るという名目で体を――」

「治療院で働いただけですっ! あと、シンミーさんから貰った報酬も残っていますし」


 ユマが怒り口調で言った。

 まぁ、そうだろうな。この世界の娼館は、それこそ貴族が使うような高級娼館を除き、あまり稼げないと聞いたことがある。奴隷制度があるこの世界では、そういう夜の仕事は大抵奴隷が使われるからだ。

 まぁ、金が貰えるなら問題ないだろう。




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