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24話


「タイガさん、これ。残りのお金です」


 地上に戻って冒険者ギルドでグルーが薬草を納品したあとのことだった。

 グルーがテーブルの上に大銀貨四枚を置いた。


「いいのか? アイアン(・・・・)ゴーレムを換金するのに暫く時間がかかるからそれまで苦しいだろ。お前等の取り分から差し引いての支払いでもいいんだぞ」


 今回の事件で、俺たちはミスリルゴーレムを狩ったということは伏せておくことにした。

 そんなことが周囲に知られたら、俺はともかくグルーたちが悪い奴らに襲われかねないからな。


「いいえ、タイガさんにはこの仕事が終わったら残りのお金を支払うと約束しましたから」


 そうか。それなら受け取っておくか。

 俺がグルーの置いた大銀貨に手を伸ばそうとした時だった。


「さっきから話を聞いていたら、アイアンゴーレムを倒したんだって?」


 そう言って近づいてきたのは、キーゲン男爵の部下のバレットだった。 


「それがどうした?」

「どうだ? 俺と組まないか? こんなチンケな奴らと一緒に仕事をしても邪魔になるだけだろ。たった4000ゴールド稼ぐのに苦労している冒険者なんて放っておこうぜ――俺と組めばこの数十倍は稼がせてやるよ」


 バレットはそう言ってグルーの手から大銀貨四枚のうち一枚を取ると、笑いながら放り投げた。大銀貨は放物線の軌道を描き、グルーの飲んでいたグラスの中に入った。


「どうだ、悪い話じゃ――」


 その後の言葉は続かない。俺の拳が男の顔面を捉えたからだ。


「な、何しやがる?」

「何をするって、それはこっちの台詞だ。金を粗末にしやがって」


 俺はそう言って、グルーのグラスの中から大銀貨を取り出し、袖で水気を拭きとる。


「たった1000ゴールドだろうが」

「たった1000ゴールドだ? ふざけるな。お前にとってはたかが1000ゴールドかもしれないが、グルーにとっては俺との約束を果たすために汗水垂らして得た金だ」

「んなもん関係あるかっ! 俺を殴りやがって! このことは憲兵に伝え、罪を償って」

「《ヒール》」


 バレットの話の腰を折るかのように、彼の頬に回復魔法がかけられた。

 ユマだ。

 口の端にソースがついているから、どうやら教会の清掃を終えて、食事を取っていたらしい。すっかり冒険者ギルドに馴染んでいるので、いたことに気付かなかった。


「あ、ありがとうよ、修道女さん」

「怪我なんてどこにもありませんよ?」


 ユマはバレットの頬を見て、不思議そうな顔をする。


「え? それは今あんたが治療したから」

「治療ですか? しましたかね、私? 私が見たのは、あなたがグルーさんからお金を奪って放り投げたところだけです。ねぇ、皆様。そうでしょう?」


 ユマが周囲の冒険者たちに尋ねたら、


「そうだ、ユマの嬢ちゃんの言う通りだ」

「今回はタイガは何も悪いことをしていないぞ」

「俺も見ていたぞ! そいつが金を奪うところ」


 俺たちの様子を見ていた冒険者たちがそう言って立ち上がった。

 冒険者たちに囲まれたバレットは顔を真っ青にした。


「問題にして困るのはどちらでしょうか?」


 ユマが笑顔で尋ねた。

 そして、当然、この冒険者ギルドを取り仕切っている受付嬢、セリカも顔を出す。


「冒険者ギルドとしては、これ以上騒ぎを大きくするのであれば取り調べを行わないといけなくなりますよ? 勿論周囲の人からも話を聞いて」


 それが決め手だったらしい。


「くそっ、お前等この俺をコケにしたこと、後悔させてやるっ!」


 バレットは最後まで小物丸出しで、逃げ出していった。


「ユマ、いいのかよ。修道女が嘘をついて」

「私は治療していないなんて言っていませんよ。聞きましたよね? 治療しましたか? と。タイガさんの愛を感じることができたので私は満足です。まぁ、暴力を振るうのは感心できませんが」

「愛じゃねぇよ。あいつが金をバカにしたからムシャクシャしただけだ。それに、こいつらにはまだやってもらわないといけないことがあるからな」


 俺はそう言ってセリカに例の依頼書をグルーに渡すように言った。


「そうですね――タイガさんに聞いて本当に感謝しています。グルーさん、コロナさん。下水路のスライム退治、よろしくお願いしますね」

「はい、タイガさんとの約束ですから」


 俺がゴーレムを倒す条件として出したのは、ふたりに下水路のスライム退治をしてもらうことだった。


「タイガさん、セリカさんの言っていた下水路の掃除の依頼、気にしていたんですね」

「スライムが溢れたら俺も困るからな――」


 俺はそう呟き、そして知った。

 ……グルー妹の名前、コロナって言うのか。

 そういえば、名前を訊くのを忘れていたな。



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