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13話


 依頼書にするとしたらこんな感じだ。


***************************

~緊急依頼~

依頼内容:王家の馬車の救出

報酬:20万ゴールド

備考:ワイバーンの撃退。退治した場合、その素材の売却は自由。

***************************


「我も共に」


 ハンが自分も戦うと言い出す。確かにこいつならば戦力になるだろう。

 しかし――


「ダメだ! 言い方が悪いかもしれないが、今のお前は商品だ。傷つかせるわけにはいかないんだよ」


 それが俺の仕事だ。

 だが、ワイバーン相手だとさすがに遊んではいられない。

 いきなり本気で行くぞ。


 俺は1万ゴールドを引き出し、それを燃える剣へと変える。

 俺はそれを持って走った。


「ノーティスの冒険者だっ! ワイバーンを退治するっ!」


 馬車を狙っている強盗と勘違いされたら困るので先に宣言する。


「ご助力感謝するっ!」


 御者席に座っていた老騎士がそう言った。

 そして、老騎士が振り返った先にいたのは金色の髪の少女――まさか彼女は?

 いや、考えている場合じゃない。


 もうワイバーンはすぐそこにまで来ていたのだから。

《ファイヤーソード》――炎でできた剣。

 炎の本質は何も燃やすだけじゃない。そのエネルギーに応じて大きくなる不定形な部分もまた炎の本質である。

 俺は地面に炎の剣を突き刺し、


「2万ゴールド追加投資っ!」


 俺は袖の中に仕込んでいた虎の子の金貨二枚を追加で使用。《ファイヤーソード》は伸びた。

 俺を乗せて。

 

「空を自由に飛びたいな――ってな」


 空を飛べたら、わざわざワイバーンを倒す高度に達するために3万ゴールドも追加で使う必要はなかった。というより、長い棒さえあればよかったのに。

 俺は炎の剣の上に乗り、そして――おそらく一点における威力だけならば俺が持つ中で最強の必殺技を使う。


神を穿つ矢(ロンギヌスアロー)


 神すらも貫くと言われる矢による攻撃。

 これで貫けないものがあるとすれば、世界で最も硬いと言われる神々の金属――オリハルコンくらいのだろう。

 

「やったか!?」


 俺が放った矢は、ワイバーンの胴を捉えた。

 胴を撃ち抜かれたワイバーンは、破れた凧のように落下していく。

 しかし、地面に激突する寸前で翻し、空を舞った。

 自分で失敗フラグを作っておいてなんだが、やっぱりこれが神を穿つ矢(ロンギヌスアロー)の弱点だな。

 「神を穿つ矢(ロンギヌスアロー)」の弱点はふたつ。

 速度や射程が普通の矢とそう変わらない。そして、範囲がとにかく狭い。ピンポイントのダメージしか与えられない。

 そのため、急所を狙っても相手に逸らされてしまう。本当は頭を狙いたかったのだが、胴を撃ったのもそれが理由だ。

 胴なら多少急所から外れてもダメージを与えることができるからだ。


 だが、今回はそれで十分だった。

 地面に落ちたワイバーンなんて、ただのでっかい陸ワニと同じ。

 俺は足の下の剣の柄を握ると、回転させ、


「くらいやがれっ! 合計3万ゴールドの熱さをっ!」


 俺の《ファイヤーソード》が地面付近にいたワイバーンの心臓があるであろう場所を一突きした。

 腐ってもさすがはワイバーン、普通なら心臓から燃え広がるのだが、炎に強い耐性を持っているため鱗が燃えることはなかった。

 これなら、素材を武器や防具の材料として売るほかに、好事家に標本として売りつけることもできそうだ。

 《ファイヤーソード》を徐々に縮めていき、降りていく。


 そして、俺はワイバーンをインベントリに収納する。そして、中身を確認する。

 追加された項目はワイバーンの死骸とあった。

 それと、ある意味『予想通りの物』も入っている。

 中身を確認すると、《ファイヤーソード》が時間切れで消失し、あたりを再び暗闇が支配した。

 俺は《ライトボール》に照らされた馬車の方に戻っていった。


「おお、タイガはん。ご苦労やったな」

「あなたがタイガさんですか。シンミーさんから話を伺いました。ワイバーンを退治してくださり、ありがとうございます」


 老執事と言った感じの男が頭を下げた。

 俺も頭を下げる。


「いえ、私はシンミー様の命令で動いただけです」

「タイガさんの話はシンミー様から伺いました。なんでもノーティスの町でも名の知れた冒険者だとか」


 シンミー、しっかり俺のことを売っておいてくれたのか。

 王家の人間と繋がりが持てることはシンミーにとっても、そして俺にとっても、棚から牡丹餅、瓢箪から駒と言えるぐらいの幸運だ。

 これだけでも十分なのだが、サプライズがあった。

 馬車の中からひとりの女性が降りたのだ。


「お嬢様、なりません」

「いいえ、ここで私が自らでなければ、マイヤースの王家の人間の品性が疑われます」


 そう言って御者席から降りてきたのは十七、八歳くらいの女性。

 赤いポニーテールのような髪に、赤い瞳をした若干釣り目の少女だ。


「はじめまして、シンミー様、タイガ様。アスカリーナ・マイヤース・ユニと申します」


 その言葉に、俺とシンミーは同時にその場に膝をついて屈み、臣下の礼を取った。

 アスカリーナといえば、第二王女、王家の関係者どころか、王家の人間そのものだ。

 棚から牡丹餅どころか、ダイヤモンドが出てきた。

 だが――そうか……彼女があの(・・)アスカリーナか。



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