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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

訪ねてきた幸せ ①

作者: どんC

 リンリン


 とベルを鳴らす音がした。


「ハーイ」


 私は暖炉の前のロッキングチェアから立ち上がり網掛けのストールを椅子に置く。


 ガチャリ


 ドアを開けると一人の神官と少年が立っていた。


「ベルツ」


 少年の顔を見るなり思わず言葉が漏れた。

 黒い髪・緑の瞳。華奢な体。小さなカバンを持ったやせた手。

 それほど少年は、彼の子供時代にそっくりだった。


「あの……メリッサ・ダナウェンさんですか? 私はボレアスと言います」


 彫像のように美しい神官が尋ねた。

 声も美しかった。

 まるでこの世のものではないような神話やおとぎ話の王子様のようだと思った。

 ベルツもそうだったが、美貌も美声も与えられるなんて狡いし不公平だ。

 二物も三物も与えられた私の妹を思い出す。

 神様は決して平等じゃないと知ったのは子供の時だ。

 何もかも持っているくせに、私から全てを奪った。

 憎い妹。

 嫌な予感がした。


「今は爵位はありません。ただのメリッサです」


 兎に角ここは寒いですから中にどうぞと私は暖炉の前の椅子を勧めて紅茶とミルクとクッキーを用意する。

 二人の前のテーブルに置く。


「いただきなさい」


 少年はちらりと神官を見ると頷きクッキーをかじりミルクを飲んだ。


「所でどんなご用件でしょう?」


「私はザラストロ地区で神官をしている者ですが、この子の両親が亡くなりまして。で親戚を探して王都に来ました」


「まさか……」


「はい。貴方の妹のエレクトラさんとベルツ・フォーレンさんが亡くなりまして」


「エレクトラが死んだ?」


「はい。ベルツさんは三年前にエレクトラさんは一月前に……」


「フォーレン伯爵家には……」


 私はちらりと少年の方を見る。

 少年はコクリコクリと船を漕いでいる。


「このままでは風邪をひいてしまうわ。客室に寝かせましょう」


「分かりました」


 私は少年を抱っこした神官を狭い客室に案内した。

 ベットに靴を脱がせて少年を寝かせる。鞄はベットの側に置く。

 そして客室に戻り再び話し込む。


「あの……フォーレン伯爵家はなんと……」


「今は長男のヨゼフ・フォーレン伯爵が後を継いでいるのですが、関わりたく無いとのことです」


「でしょうね……無理もありませんわ。ダナウェン・スキャンダルをご存知でしょうか?」


「ダナウェン? 十年前に随分騒がれましたね」


「妹とベルツはその当事者です」


「訳ありだとは思っていましたが……まさか……」


「ベルツは私の婚約者でもありました」


「えっ?」


「結婚式当日。妹とベルツは駆け落ちしました。私は何も知らず祭壇の前で待ちぼうけでしたわ。ふふ……」


 私は紅茶を飲んだ。神官様は絶句したようだ。

 紅茶は冷めて不味かった。

 私の人生と同じ苦い味だ。


「……」


「笑いものになるだけでしたら良かったんですが……私は全てを失いました」




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 神官様が帰られるのを見送って私はドアを閉めるた。

 風が冷たい。もうそろそろ冬将軍がやって来る。

 ガチャリと鍵をかけ私は少年が寝むる客室に入った。


 スースー


 寝息を立てて寝るっている。

 ズキリと胸が痛んだ。

 彼と私が結婚していたらこれぐらいの子供がいただろう。

 私は跳ね除けられた布団をかぶせると部屋を出て自分の寝室に入るとベットの上に座り込む。

 そしてサイドテーブルの引き出しから古い日記帳を出した。

 十年前の日記帳だ。

 この十年私は日記を書いていない。

 余りにも辛すぎたから。


 カチャリ


 小さな鍵で日記帳を開ける。

 封印していた記憶が甦る。


 ベルツ・フォーレン伯爵子息と私が婚約したのは彼が十二歳、私が十歳の時だった。

 ベルツは伯爵家の三男で女の子しかいない我が男爵家に婿養子で入る予定だった。

 妹はカーター・オッセル侯爵嫡男の所に嫁ぐはずだった。

 なのに……


 妹も十歳の時婚約が決まった。

 カーター・オッセル侯爵家だ。

 両親は有頂天だった。

 金はあるが新興貴族だ。新参者は何かと肩身が狭い。

 両親は張り切って妹の教育に神血を注いだ。

 勉強もマナーもダンスも絵や音楽の教養やらもかなりのお金を使った。

 私の教育費は……妹の十分の一さえも使わなかっただろう。

 男爵家を継ぐベルツは学園にも行かせてもらっていたが……

 私は、お前には必要ないと行かせてもらえなかった。

 妹が他の家庭教師と勉強している間に妹の本やノートをこっそり見て勉強した。

 私の教育係はメイド長のミリーだった。

 それなりに優秀な人で勉強や礼儀作法や刺繡を教えてくれた。

 父も母も妹にかまけ私は余りかまって貰えなかった。

 オッセル侯爵家で行われるお茶会やダンスパーティーにも一度も呼ばれたことがない。

 妹のエレクトラは頭もよく美しかったが、私は普通の顔立ちで何もかも地味だった。

 妹は輝くブロンドに紫の瞳だったが、私は髪は白く瞳は赤い。

 口の悪い子供達には、白蛇とか幽霊とか言われている。


 両親は私のことが恥ずかしいと思ったのか余り外に出して貰えなかった。

 デビュタントでやっとパーティーに出してもらえたが、両親は私の事は身体が弱いと世間に触れ回っていた。

 だから私に来たお茶会や夜会の招待状を握りつぶしていた。

 それでもベルツ様が訪ねて来て下さった時は楽しかった。

 月に二・三度の訪問だ。

 学園の寮に入り騎士科の訓練は大変だと思うけど、嬉しかった。

 二人だけのお茶会にいつからか妹が居ることが多くなった。


 ベルツ様を見つめる妹の瞳……

 妹を見つめるベルツ様の瞳……

 私は気付かない振りをした。


 私はウエディングドレスを手作りする。

 一針一針夢を込めて、一針一針愛を込めて。

 ベールは白い薔薇の髪飾りを付ける。

 そして赤ちゃんのおくるみや靴下や帽子も男女別々に作る。

 いくつもいくつもひつ(かぶせ蓋が付いた箱)に愛を込めて詰め込む。


「きれいなベールね」


 結婚式の前日妹が私の部屋にやって来た。

 花の刺繡が入ったベールを撫でながら妹が言った。


「なに言っているの? あなたにはお父様が素晴らしいウエディングドレスを用意してくださるじゃないの。王都でも一番のマダム・イソルデが作ったドレスなんて女の子の憧れじゃない」


「そうね。普通はね……」


 押し黙る妹。


「貴方は幸せね。男爵令嬢が侯爵家に輿入れするなんてちょっとした【灰被り】ね。両親に愛されて、カーター様に愛されておとぎ話のようなウエディングドレスを着てお嫁に行くなんて」


「……お姉様。カーター様にお会いしたことがある?」


「いいえ……あなたたちの結婚式より私達の結婚式が先だから、貴女の結婚式の時にお会いすることになるわね」


「……変ね。今まで一度もお会いしないなんて」


「……そうね。ほら私は身体が弱い事になってるし……」


 本当なら私にかけるお金を貴女が食いつぶしているのよ。

 学園に行くお金も、お茶会やパーティーに行く為のドレスや靴や帽子のお金……

 そんな言葉を握りつぶす。

 まあいいわ。私はベルツ様が好きだから。

 政略結婚が当たり前の貴族社会で好きな人の所にお嫁に行ける私は幸せ者ね。

 私はウエディングドレスを見て微笑する。


「……あら?可愛い靴下。これもお姉様の手作り? 本当にお姉様は裁縫や編み物が得意なのね」


「あら? あなたの方が得意でしょ」


 私はベールにほつれがないか点検する。


「私よりも何でもできて、何でも持ってる」


「……お姉様……ごめんね……」


「えっ?」


 パタン


 妹は私の部屋から出ていった。

 妹を見たのはそれが最後だった。



 祭壇の前で私はベルツ様を待っていた。

 ざわざわと少ない招待客がざわめく。


「ベルツの奴はどうしたんだ?」


「僕たちより先に出たんだが……父さんちょっと見てくるよ」


「少し遅くない?」


「そうね。どうしたのかしら?」


「新郎が来ていないの?」


「そうみたい」


 その時、彼と妹はほかの場所にいた。


 ばん!!


 ドアを開けて男が一人入ってきた。


「ベルツ?」


 私は笑顔で振り返る。

 しかし知らない男だ。


「カーター様?」


 お父様が言った。

 この方がカーター様?

 私はイボガエルのような男を見る。

 金髪碧眼のイボガエルは喚き立てる。


「エレクトラはどこだ!!」


「? えっ? さっきまでここにいたのに……」


 彼は握りしめた手紙をお父様に突き出す。


「エレクトラはベルツとかいう男と駆け落ちした!!」


「そんな……噓です……あの子がそんなこと!! ああ……神様!!」


「お母様!!」


 お父様は慌ててお母様を抱きとめる。お母様は気絶した。


「そんな……嘘……嘘です。ベルツ様がエレクトラと駆け落ちなんて!!」


「ならベルツとか言う男はどこにいる!!」


「そ……それは……」


「ああ!! 見るからに貧相な女だな!! なるほど男に捨てられるはずだ!!」


 イボガエルは、くしゃくしゃになった手紙を私に投げ捨てる。

 イボガエルは散々喚くと教会から出ていった。

 お父様は頭を抱える。

 私は手紙を拾い握りしめる。


「皆様お騒がせしました。つつましいものですが、ホテルに宴の用意をしています。とりあえずホテルに移動しませんか?」


 私は背を伸ばし皆に微笑んだ。

 さぞや皆には堂々とした態度に見えただろう。

 その実、私の頭は真っ白だった。

 兎に角メイド長と一緒にお母様を馬車まで運び家まで運ばせた。

 お父様にはお客様をホテルに案内してもらった。

 ホテルに食事と宿泊の準備がしてあるが、皆そそくさと帰ったようだ。

 それから神官様に結婚式の代金を執事に払わせた。

 聖歌隊の子供達を帰らせてウエディングドレスのまま駆け回る。


「メリッサ……」


 ベルツの兄のイサクが声を掛ける。


「一体どういう事だ?」


 ベルツの父親も側による。

 私は妹の手紙を広げる。


『ベルツ様と駆け落ちします。ごめんなさい。  エレクトラ・ダナウェン』


 と簡素に書かれていた。

 ベルツの兄と父親に私は散々責められた。


「君がしっかりしていないから!! こんな事になるんだ!!」


「お前の妹がベルツを誑かしたんだ!! 阿婆擦れの姉め!!」


「お二人ともお辞め下さい!! ここは神聖な教会です!!」


 あまりな言い草に、神官様が二人を止める。


「ぐっ……兎に角お前の家から縁を切らせてもらう!!」


 普通ならベルツのしたことを謝るのが筋だが。

 後から考えると侯爵家を敵に回したくなかったんだろう。

 散々怒鳴ると彼らも去っていった。

 ふと気が付くと執事のセバスチャンが肩に手を置いている。


「お嬢様帰りましょう」


 聖歌隊もピアノを弾く楽士もいない。

 祭壇の蠟燭も消えた。

 神官様が心配そうにこちらを見ている。


「そうね。もうここには、用はないわね」


 私は泣く気力もないまま教会を後にした。

 それから後のことはぼんやりとしか覚えていない。


「エレクトラ嬢ベルツと駆け落ちしたんだって」


「あ~やっぱり無理してたんだ」


「イボガエルじゃいくら侯爵家でも嫌か~」


「それだけじゃないよ。彼女の家男爵だから散々馬鹿にされたらしい」


「金目当てのくせにプライドばかりは高いからな~」


「それにしてもエレクトラ酷くない? 姉の婚約者と駆け落ちするなんて~」


「流石に侯爵家を敵に回す勇者はいないわ~」


「騎士道精神? ただの馬鹿? 騎士科の学費はダナウェン男爵家が出してたんだろ?」


「それにしても姉を捨てて妹を取るなんて……姉もカーター殿並みに不細工だったのか?」


「いや。普通だ。しかし妹と比べるとな~」


「あ~かわいそうだよ。薔薇とすみれじゃ」


「菫に失礼だ!!」


「シロバナヘビイチゴか?」


「なんだそれ~酷い!!」


「それよりもさ~」


「ああ。あの噂だろ」


「エレクトラを王に愛人として差し出すんじゃないかって」


「愛人に差し出して王から便宜を図ってもらうつもりだってやつだろ。噂じゃかなりやばいことしてるって」


「ほんとかね~」


「女好きだからね~うちの王様」


「ホントならひどい話だ」


「いつからオッセル侯爵家は女衒になったんだ?」


 世間ではそんな噂が流れていたらしい。

 随分とゴシップ新聞が売れて、親切な人(?)がわざわざ送り付けてきた。

 両親はカーター侯爵に平謝りで多額の違約金を取られた。

 後で分かった事だが、妹はかなりの宝石を持ち出していた。

 違約金を払うため土地を売り館を売り商会を売り爵位まで売った。

 使用人たちは紹介状を書いて辞めてもらった。

 母はカーター侯爵家に謝罪に出かけた後倒れた。

 元々心臓が弱く。

 娘たちの結婚を早めに済まそうとした訳は、母の心臓がもたないせいだった。

 母は亡くなり。父は共同墓地の母の墓の前で自殺した。


 こうしてダナウェン一族は没落した。


 私はしばらく教会でお世話になっていた。

 私とベルツが式を上げる予定だった、教会のモリス神官様が助けて下さった。

 同情されたのだろう。

 私はウエディングドレスを売ったお金で小さな店を借りて洋服屋を始めた。

 丁度この国の王太子様の結婚式が起こなわれ、結婚ラッシュとベビーラッシュが起きた。

 私が作ったおくるみや赤ちゃんの服がよく売れた。

 平民用に作った妊婦服も飛ぶように売れ。

 子供服も動きやすいと人気になった。

 貴族御用達ではないが、そこそこ裕福な人達に人気で売り上げも伸び。

 今度は大きめの店を借りた。

 一階は店舗で二階が住居だ。

 小さな台所と居間と二部屋、後は大きな作業部屋だ。

 教会で厄介になっている孤児や未亡人が服を作る。

 店の名は『ワイルド・ストロベリー』だ。

 シロバナへビイチゴの別名。

 私に付けられた渾名。

 なんて……嫌味かしら……


 花言葉は『幸福な家庭』『無邪気』『敬慕』


 ベルツ様と『幸福な家庭』を作る事を『無邪気』に夢見て。

 でもベルツ様に対する『敬慕』は無残に打ち砕かれた。

 彼は私に別れの言葉も手紙も残さなかった。

 全てを失った私は、笑うしかない。


 あれから10年。

 やっとやっと過去を吹っ切れたと思ったのに……

 過去から悪夢がやって来た。

 私はクローゼットから箱を取り出し。

 箱のふたを開けて、薔薇の花の付いたベールを取り出す。

 未練たらしい。と我ながら思っていた。

 薔薇の花もベールも染みだらけだ。

 私の涙を吸って……

 ベルツに棄てられた時も両親が死んだ時も泣かなかった。

 いや、泣けなかった。

 心が凍り付いて。

 でも一人ぼっちで教会の狭い部屋の中で……

 初めて泣いた。

 お前は誰にも愛されなかったんだ。

 両親にも婚約者にも妹にも。

 見ないようにしてきた。気付かない振りをしていた。

 でももう気づいてしまった!!

 分かってしまった!!

 零れる涙をとどめることが出来なかった。

 でもこれが最後だ。

 自分のために泣くのは、これが最後だ!!

 私は薔薇のベールに誓った。

 なのに……

 私は神様に嫌われているらしい。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「彼を引き取ってはもらえないでしょうか?」


「……考えさせて貰えないでしょうか。突然のことですし。色々お聞きしたい事もありますので」


 昨日訪ねてきた神官様は昔私がお世話になっていた教会に泊まるとの事だった。

 私は一晩考えた。

 取り敢えず二人の事を聞くのが先だろう。


「おはよう。ごはん出来てるわ」


 小さなキッチンのテーブルに野菜スープとパンがホカホカと湯気をたている。

 ごくりと少年が唾を飲み込む。


「あ……おはよう……ござい……ます」


 おどおどとドアを開けて顔を出す少年。


「ところで名前を聞いていなかったわね。私はメリッサ。君の名は?」


「シオン……です」


「そうシオン。ご飯を食べたら教会に行くわよ」


「は……い」


 シオンの瞳には年に似合わぬ諦念があった。

 フォーレン家で何があったのか?

 予想はつくが、まあそれも含めて神官様に聞こう。

 私は店員のララに店番を任せると教会にシオンを連れて行った。



「ボレアス神官様はいらっしゃりますか?」


「ああ。メリッサよく来たね」


「ご無沙汰しております。モリス神官様」


「シオン、メリッサと話があるからそこの庭で子供達と遊んでいなさい」


 教会は孤児院も運営していて庭には十二人ほどの子供が遊んでいる。

 シオンはうなずくと子供達の所に歩いて行く。

 神官様と私は教会の別棟にある応接室に向かった。

 応接室には既にボレアス神官が居て窓から子供達を見ていた。


「お待たせしました。ボレアス神官」


「いえ。どうぞお座りください」


「ありがとうございます。」


 教会に使える下女がお茶を置いて下がる。


「エレクトラとベルツの事が聞きたいのですが」


「約十年前に二人は私が担当するザラストロ地区にやって来ました。一目で訳ありだとわかりました」


「ザラストロ地区と言うと【霧のダンジョン】がある所ですね。シテム皇国の西の端にある」


「はい。そうです。訳ありの二人が潜り込むには丁度いい場所です。一獲千金を夢見た者たちが集う場所。そこでベルツ殿は冒険者をしていました。学園で騎士科にいたせいか強かったそうです。しかし三年前にダンジョンで亡くなりました。エレクトラ殿は一人でシオン君を育てていましたが、無理が祟って亡くなりました」


「それでボレアス神官様がシオンを連れてフォーレン家に行ったのですね」


 ボレアス神官は頷いた。

 まさかあれほどまでに拒絶されるとは思わなかった。


『なんでその餓鬼をここに連れて来た!!』


『迷惑なんだよ!!』


『どれだけ家名に泥を塗れば気がすむんだ!!』


『貴族の結婚なんて政略結婚だ!! 真実の愛をみつけた!! 結構な事だな!!』


『尻拭いをこっちに押し付けて!!』


『ああ。そうだ。まだあの女が生きているはずだ。エレクトラの姉。メリッサ・ダナウェンの所に連れて行けばいい!! お人好しの馬鹿女なら引き取ってくれるさ』


 フォーレン家は代々有能な騎士を輩出している。


「フォーレン家も度々カーター・オッセル侯爵に嫌がらせされたみたいですわ。ダナウェン家を潰し、お父様とお母様を死に追いやっただけでは気が済まなかったのでしょう。本来ならば断るはずの魔物討伐で次男のポール様と四男のキッド様がなくなっております」


「今、オッセル侯爵は?」


「この間結婚されたと聞きました。やっと侯爵の嫌がらせが止むと思ったらふたりの子供を引き取れって言われたら、侯爵の嫌がらせが復活しますものね。プライドだけは高いですからオッセル侯爵は……」


「そうですか……ではシオンはこちらの孤児院で引き取ります」


「いえ。私が引き取ります」


「えっ? しかしよろしいのですか? あの子はあなたを裏切った二人の子供ですよ」


「あら? そこは子供には罪はないという所では? 両親も妹も亡くなりました。血が繋がっているのはシオンだけになりました。フォーレン家では縁を切られていますし、あの子も天涯孤独です」


「驚きました。本当によろしいのですか? こう言っては失礼ですがてっきり断られるかと思いました」


「私も最初断るつもりでした。でも……もういいのではないでしょうか? 許しても。婚約者や妹を許してもいいのでは無いでしょうか。彼等のためでなく私の為に……墓場まで恨みを持っていく必要はないのでは? 今朝あの子と朝食を取りました。誰かと一緒に食事をするのは何年ぶりだろうと気が付きました。温かい食事でした。頼りない保護者ですがあの子の親になりたいです」


 私は微笑んだ。

 眩しいものを見るようにボレアス神官は目を細める。


「シオンをここまで連れて来ていただいてありがとうございました」


 私は頭を下げた。



「シオンお話はすんだわ。帰るわよ」


 孤児院の子と遊んでいたシオンが驚いて振り返る。


「えっ?」


 シオンは驚いた。


「僕は……孤児院ここに置いて行かれるんじゃないのか?」


「いいえ。荷物は家に置いて来たでしょう」


「僕は居てもいいの? 邪魔じゃないの?」


「私に貴方は必要だわ」


「お……僕は……僕は……えっ……うぇええ……」


 泣き出したシオンを私は優しく抱きしめる。


「さぁ帰りましよ」


 何度も何度もシオンは頷いた。


「帰りにシオンのブーツを買って帰りましょう。もうじき冬将軍が来るから、帽子とマフラーと手袋を編まなくちゃ服はお店の物でいいわね。シオンは何色が好き?」


「メリッサの瞳の色の赤がいい。ワイルド・ストロベリーみたいに赤くて甘い。僕大好き。なんだ」


 彼の涙をハンカチで拭いて、私は微笑んだ。

 私達は手をつないで帰った。

 それをボレアス神官とモリス神官が見つめていた。


「素晴らしい女性ですね。美しいだけじゃなくて気品もある。ザラストロ地区の場所も、ダンジョンがあることも知っていた。知識もかなりのものですね」


「ふぉほほ……そうじゃろう。そうじゃろう。嫁にもらうか?」


「恋人がいるでしょう」


「いや。おらんよ。男性不信が酷くてな~美人なのにもったいない」


「王都の男は節穴ぞろいですか?」


「言ってやるな。不落城じゃよ。守りが硬すぎるんじゃ。やり損ねたあのの結婚式を今度はちゃんと挙げたいんじゃが。ガンバ♪」


「師匠は相変わらず軽いですね。今度、王都に転勤になりました。シオンを出汁にゆっくり口説きますよ」



そんな二人の会話を知らない、二つの影は手をつないで楽しそうに家路についた。





        ~ Fin ~


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 登場人物紹介


 ★ メリッサ・ダナウェン  (27歳)

   没落令嬢。妹が彼女の婚約者と駆け落ちしたせいで全てを失う。

   白い髪。赤い瞳。透き通るような白い肌。

   両親は身体が弱いと外に出さなかった。

   実は彼女は【カメラアイ】で凄まじい記億力と計算力の持ち主。


 ★ エレクトラ・ダナウェン  (享年26歳)

   メリッサの妹。ブロンドで紫の瞳。

   姉にコンプレクスを持つ。実は姉の方が全ての事に出来が良かった。

   両親にその事は口止めされていた。

   駆け落ちした時かなりな宝石を持ち出す。

   ベルツが冒険者になるための装備やメイドを雇ったりで使い果たす。

   ベルツの死後。娼婦になり病死。

   シオンの母親。


 ★ マルス・ダナウェン男爵  (享年41歳)

   メリッサの才能に気が付き病弱と言って軟禁させる。

   出来の悪い妹を嫁にやり、メリッサにかまおうと計画するがエレクトラが駆け落ちして没落。

   その上愛する妻が亡くなり、絶望して妻の墓の前で自殺する。


 ★ ミア・ダナウェン  (享年37歳)

   メリッサとエレクトラの母親。

   心臓が悪く。その為早く娘たちの花嫁姿を見たいと思い嫁がそうとするが。

   エレクトラは駆け落ちする。心労がかさなり病死。



 ★ ベルツ・フォーレン  (享年27歳)

   メリッサの婚約者。エレクトラと駆け落ちする。

   ザラストロ地区まで逃げて冒険者になりダンジョンで死亡。


 ★ シオン・フォーレン  (9歳)

   ベルツとエレクトラの子供。

   孤児になりボレアス神官に王都まで連れてきてもらう。


 ★ イサク・フォーレン伯爵  (33歳)

   ベルツの兄。シオンの伯父。

   ベルツのせいで迷惑している人。軍人の家系。口が悪い。


 ★ カーター・オッセル侯爵  (35歳)

   エレクトラの婚約者。デブのイボガエル。

   エレクトラの事は恋していた。

   しかし不細工で金のない貴族で血筋しか誇れるものが無かった。

   そのため血筋を誇ったらエレクトラに嫌われた。

   腹いせにダナウェン家に当たったら没落し、フォーレン家に当たったら次男と四男が死んだ。

   やることなすこと悪い方向に向かう。頭を抱える小心者。


 ★ ボレアス神官  (30歳)

   美形でイケボの神官。メリッサに惹かれる。

   シオンを王都に連れて来る。


 ★ モリス神官  (56歳)

   メリッサの結婚式を上げるはずだった教会の神官。

   没落したメリッサを教会に呼び助けてくれた。

   メリッサが、天才であることに気が付く。

   ボレアス神官とメリッサを引っ付けようと工作中。


 ★ カメラアイ

   カメラで撮影したように鮮明に記憶できる。

   実はメリッサの父親の兄がカメラアイでそのために王城に使え。過労死する。

  (本当は犯人が犯行がばれる事を恐れ暗殺された)

   父親はメリッサが伯父と同じ才能を持っているのに気が付いた。

   病弱として外に出さなかった。








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 2018/5/18 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。


*2018・5・20 日間異世界(恋愛)5位

皆様のおかげです、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何も知らないまま境遇をバネに前を向いた主人公に対して 搾取子で若死にの妹と八つ当たりで亡くなった次男四男のほうが悲惨だなぁと思っちゃいました。 しれっとイボガエル扱いしてる男に妹が嫁ぐ予定…
[一言] 話の切り方からタイトル想起、で余韻がいいですね …とか思ってたら、最後の登場人物紹介で脱力w 親父…(母親もだけど) 報連相大事!! コミュニケーション・意思疎通は必須項目!! 妹の縁組見…
[一言] 楽しく読ませていただきました その後の話が読みたくなりました では失礼します
感想一覧
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