流れ行く世界
不穏な空気。
夜が明けようとしている。
私はいきなり送りつけられてきた文書に目を通していた。
「……」
寝起きで動かない脳みそを無理矢理動かして
内容を理解しようと試みる。
いや、そう自分で思いたいだけかもしれない。
また、ヴァンクール…ニコが戦争を始めた。
私の国の隣で、いつ飛び火するか分からない。
そう思い伏せているとコンコン、と私の部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞー?」
「オルオ、入るよ」
オウカだった。
扉からひょこっと顔を覗かせて私を見つめている。」
「文書、見た?」
「うん、今丁度」
不意に力無く、オウカの微笑みが消えた。
「また、戦争が始まるんだね」
「うん…これは、大きそう、だね」
はぁ、と大きくオウカが溜息をついた。
そして私の手にある文書を見つめていた。
「もしかしたら、私達とも、戦争…するかもね」
「そんな、縁起でもないこと言わないでよね」
オルオ・ドルチェ・メレンダ…オルオ国王は顔をしかめた。
オウカは、オーカ・スリジエ・ブロッサムは困った様に苦笑いした。
「じゃあ、私はもう寝るね」
「うん、分かった。おやすみ」
そう言い残し、オウカは部屋を出て行って私は床についた。
***
「…で…エレジーア国の王はなんだって?」
「あぁ、返答によるとー…メレンダ国と同盟を組んで潰してやる。ってよ」
横に居るシグに問うと送り返されてきた文書を読み上げた。
それが面白くって薄く笑った。
メレンダ国…オルオの国だ。
まず…無いだろうな、オルオは昔からコイシと同じ平和主義だ。
「そう、じゃあ受けてたとう、って送っておいてくれぃ」
「はいはい」
「それじゃあ、戦争を始めようじゃないか」
ー戦線布告ー
火花が散り、砲弾を放つ音が響いて命が儚く散っている。
俺は高笑いを響かせながら戦場を見つめた。
横にはミカンが静かに戦場を見つめている。
「やっぱり、オルオ居ないね」
「そりゃそうだろうな、ほら、コイシと同じ平和主義だから」
「なるほどねぇ…」
コイシは、我が国の兵の治療に没頭している。
“戦争は嫌い、でも人が死ぬのはもっと嫌い”
らしい。
俺の国が強いのはこの完全な治療人が居るのもあるだろうな。
「さて…じゃあとりあえずエレジーア国王に会いにでも行こうかなぁ」
「え、本当に行くん?」
「?勿論」
「そっかぁ、じゃあ気をつけて行ってらっしゃい」
ミカンに見送られて戦場のど真ん中を歩いて行く。
俺の周りに一気に敵兵が寄ってくる。
「俺を狩るなんてお前らに出来るはずないだろう」
俺が手を触れれば敵兵が血肉と化した。
肩に敵兵の剣が触れた。
その敵兵も血肉と化した。
悪魔、と呼ばれる理由はこれかもしれない。
「意外と呆気なく着くもんだな」
敵を血肉にして歩いていると、いつに間にかエレジーア国の城の前に着いていた。
無駄にデカい城の扉を開けると戦場に出て居るのか
誰も城には残っていなかった。
「エレジーアは、あんまり良い性格じゃなかった気がするな」
人のことを言えるような性分でも無いが。
廊下を大股歩きで歩く。
「やあ、馬鹿王様」
そういうとコイツは酷く驚いた表情を見せ
段々俺を見る表情が歪みに歪んできた。
「何故、ここまで、どうやって、来たんだ!?」
「煩いな、いきなりヒステリックを起こすんじゃ無い」
そう吐き捨てる様に言い、王の額に銃口を当てた。
そして冷たい声色で問いただす。
「俺の国の地下室の話、誰に聞いた」
「ッ…!な、なんだ、そんなことか」
少し嫌な予感がした気がするが、気にせず早くしろ。と急かす。
「わ、分かった!あれだ、あの…地下室の話は……
リト、という奴に聞いたんだ。
「ッ……!」
嫌な予感が的中した。
なんだ、彼奴は…こちら側では無かったのか。
いや、信頼しきっていた俺が悪かったのだろうか。
そうだ、俺の自業自得なんだ。
「そうか、感謝する」
「あ、あぁ…!」
「じゃあな」
引き金を引くと、大きく見開かれた王の瞳。
大きく仰け反り鈍い音を響かせながら床に突っ伏した。
人の命も、信頼も、儚く散るもんだ。
身に染みて感じられた。
「裏切り者は、掃除しようか」
その場を後にし、俺はまた戦場に飛び出した。
***
「リト、話がある」
「んー?何?」
不思議と戦争は長続きしていた。
嫌な予感はまだ消えてない。
でも、リトの裏切りで頭が正常に動いてない。
「……」
「なにぃ?何が言いたいのー?」
クスクスと面白がる様に微笑むリト。
何が言いたい、と聞くその声色は、瞳は…もう何が言いたいか分かっているようだった。
「リト、お前…裏切っていたんだな」
「……やっぱりあのクソ国王吐いちゃった?」
話を切り出すと瞬く間にリトの表情が消えた。
冷たい色しか残ってない。
そんな気はしてたが…もしかしたらコイシが言った悪い予感はこのことだったのか?
「で、僕をどうすんの?殺す?」
「…それは後に回す、お前は、何処の仲間なんだ?」
「何処の?なぁんだ、分かって無かったの?オルオだよ」
「そうか、そうだな、昔から、お前はずっと其方側だ」
「でしょ?なんで分かんなかったんだろうね」
「さあな」
裏切ったんなら、消すしか無い。
そう思い、銃口を向けるといつの間にか、リトの側にオルオが居た。
横にはオーカも居る。
「リト・トゥレチェリイ・ルーヴを、迎えに来た」
オルオは、静かな声でそう言った。