第9話 目覚め 1
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ギルドに着いたので、荷物を引き取ってもらう。
「アンネさん、お届け物です。」
ドサ
「あぁ、ベリク君。…お疲れ様。いつもごめんね〜、なんか悪いわ…」
ガシ
「いえいえお構いなく。僕は"運び屋"なので」
「あら、じゃあ、お言葉に甘えて今後ともよろしくね。……と言う訳で」
ギチギチ
「あっでは僕この辺でお暇させていただきますねありがとうございました」
用が済んだので僕は急いで戦線離脱する、ギルド受付嬢のアンネさんから距離を取るべく。
アンネさん、チャージアンドファイア。
「ノーーーンっっ!!!いつまで寝ぼけてんのーー!!起きなさーーーい!!!!!」
「ぅぁああっ、アンネ何故ここにっ?」
「なんでって、ここギルドよっ!さっきベリク君が運んで来てくれたわ」
「なん…だと…あいつめ…俺を売ったなぁ。ウプッ、また吐きそ…」
「ここで吐くなっ!」
ポグッ
「いや、それで腹パンすな…、、、う゛っ゛」
〜〜しばらくお待ちください。〜〜
アレに首を突っ込んではいけない。
見事ノーンのゲロシーンからの逃走を果たした後、僕は一度宿の厩舎に止めておいたギルド貸し出し馬と馬車を取りに戻った。
彼女が様子を見に行ったが、目覚める様子はなく、不安が少しずつ募っていく。
一応彼女がまた魔力暴走を起こさないように、擬似結界を張っていて、僕の感覚野とリンクさせている。何か変化があればすぐにわかるようになっているので心配は無いと言えば無いのだが。
ギルドの厩舎に馬を届け、手続きの為にギルドにもう一度入る。
そこには毅然とした様子で佇む受付嬢ことアンネさんと掃除の人にモップでゲシゲシとつつかれている、簀巻き状態のノーンと、後胃液の匂いがほんのり、、、…気にせず行こう。
「アンネさん、出席をお願いします。」
「はい。今日は昨日言ってた通り活動はしないのね?」
「そうです。この町の中で休もうかと。明日も多分そうなります。」
「了解っと。ちょっと待っててね。」
奥で作業をするためカウンターから離れたアンネさんに、所用を任せてギルドの様子を見る。
他の都市のギルドに比べると少し小さいが、町の中ではなかなかの規模を持つ建物なだけあって、酒場や交換所は人だかりが出来ている。
今日は遅くに出てきてもう昼になってしまい、依頼を終えた人や昼食をとろうとする人が多い時間帯だ。
「そんな中で、簀巻き公開処刑される気分ってどんな感じなんだろうな…」
「嫌味で言ってんのか…?」
「おお、ノーン、居たのか。気づかなかったよ。」
「絶対気づいてたな、わざとだな、それはっ!」
許さんぞ〜と茹だれているノーンは、アンネさんのファンクラブの方の見張りで誰にも解放される事はない。
見て下さい。酒場や壁際からの監視の視線。ざっと十数本あるよ…
加えてギルドに入ってきた時の某受付嬢の眼力。
誰にも彼を解放することなど出来ない。出来やしない。
「お待たせしました。…何かあった?」
アンネさんの鋭い眼光
「ナンデモナイデス」
「そうよね。出席確認終わったわ。」
「ありがとうこざいます。」
さてと、用も終わったから遅めの昼食を食べよう。
ギルド内にある酒場でランチを頼むと、丁度アンネさんも昼食らしい。自前の弁当を手にこちらによって来た。
「ところで聞いた?」
「?」
と切り出しつつテーブルの相席に着席。
と同時にファンクラブの皆さんからの恐ろしい視線!
怨嗟の怨念がこもった視線だが、こっちは慣れてるので気にしない。
親衛隊の方々は、お互いに不干渉を掲げていて、その掟を破る者には女神の制裁が降るそうだ。ーー僕は完全に弟扱いを受けているし、僕もアンネさんはお姉さんとしか思えないので、セーフらしい。ーーとそこへ簀巻き男が、芋虫の如く這い寄って来た。
「アンネ〜いい加減この縄解けよ〜」
「ノーンがしっかり反省したらね」
「したって。なっ」(早く解けよ。恥ずかしいわ)
ジーーーーー
「却下」
「あぁっ!なんだとこのぺちゃぱいがっ!」
「ななななななんてこと言うのよっ!気にしてるのにっ!!小さくないしっ!しっかりあるしっ!カップだってビー……ともかく小さい言うなぁっ!!!」
「どうせなんか詰めてんだろ。」
「〜〜〜〜っっっっっっっ!!」
痴話喧嘩したら〜、と僕は傍観の構えを通していると、
「アンネ様、この物、我々に預けて頂いてもよろしいでしょうか。」
と、親衛隊の一人が近寄って来た。
「なんて?こいつはわたしかころすはっとなんかつかってないもんちいさくないもん」
アンネさんから濁点と半濁点、漢字が抜けた。このネタには弱いようだ。
「アンネ様、言葉遣いが。ことの由としましてはこの物男の条約に反しました故に、許可を。」
「知らない知らない勝手にしてっ!」
「恐悦至極。おい!」
親衛隊に集合がかかった。
「はっ!こっちに来いっ!」
「なっ!お前ら何しやがるっ!」
「お前は罪人だ!抵抗するなっ!」
「俺は今そこのぺちゃぱい女と…」
ここまで言った時だった。一瞬彼らの動きが止まった。
「…ん?どうしたんだお前ら…」
「「「「「…………………また我等の女神様を愚弄するか」」」」」
「は?」
魂の抜けた声に間抜けな声しか出ないノーン。
「条約に反しアンネ様に気安く話しかけ」
「失礼を表し、あまつさえ愚弄し」
「更に愚弄に愚弄を重ねるか。」
「許さん。処刑だ。」
「「「「「ギルティ」」」」」
ぎゃ〜〜〜〜〜〜
せめて彼に安らかなる眠りを。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「えっと、どこまで話したっけ?」
高速で昼食を食べた僕に、途中で復活し少量の昼食を食べたアンネさんが、会話を再開した。
「何か知ってるか知らないかの所まで。」
「そうだったわね。ベリク君たしか[魔境]について調べてたわよね。」
「っ!何かありましたか!?」
さっきの会話の記憶が消えるほどのワードが出て来た。
[魔境]とは、十年前からついたその土地の通り名である。僕の故郷の事だ。
そこは十年前の大災害以降、魔物が住む、文字通りの魔界と化してしまった為、そう呼ばれている。
無論調べている事と無関係ではない。
「何かって言うと、最近[魔境]の魔物の動きが活発だったじゃない?それで王国軍の『軍神』が軍隊を動かして、大規模討伐を成すんだって、出発したって今朝ね。」
「今から行っても間に合わないですよね。」
「進行に追いつくけど討伐には参加出来ないでしょうね。」
「そうですか…教えて頂いてありがとうこざいます。」
「いいのよ。それで、どうするの?」
アンネさんのその質問に僕はすぐに答えられなかった。
あの地は僕の故郷だ。いつまでも[魔境]のままにしておくのは嫌だ。かと言って即座に解決する物ではない。いくつもの国とその軍、生ける伝説と謳われる英雄達が挑んで、挑んで、挑んでも、十年も解決してない、そう言った代物だ。僕にどうこう出来る問題ではない。
それに、
「……うーん、この際、ちょっと学園に行こうかなぁと。」
「えっ?前に少しだけ話してたやつ?なんで今な訳?」
「いや、お金は貯めれたし、他にも調べたいことがあるからなぁ、と思って。」
それにあの子の症状、僕だと少し力不足で治らないかもしれない。専門治療を受けた方がいい。基本的にはそのつもりで行く。
「なので僕の預金口座の残高を確認したいですね。仕事の履歴も。」
「分かったわ。でも仕事の履歴を確認するにはギルド長の許可が必要よ。明日まで待ってもらえる?」
「分かりました。じゃあ明日まとめてください。」
「了解。じゃあ仕事戻るわね。バイバイ。」
「はい、資料、お願いします。」
アンネさんが仕事に戻るのを見送って、僕は夕食の買い物に行った。病人にはお粥かなぁ……
そうして買い物が大体終わった昼下がり、彼女の意識が覚醒に近づき、もうすぐに起きると知覚したので帰路に着いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……っあ…えっと……ごめんなさい。」
そうして、夕食の準備をして待っていて、起きそうなタイミングで椅子に座り待ち構えていた、だけだったのだが、どこか間違えていたらしい。
まさかの初対面で物扱い。
これで喜ぶのはノーンと親衛隊の皆さんだけだ。とりあえず何か喋らないと。
「……………
……………」
どうしよう、会話が、無い。
「……………
……………」
どうしよう、会話が、出来ない。
アンネさんが沢山ポ○モン風の技を使う件について