旧地下鉄探索2
熱心に武器解説する社長を急かして階段を降りて行く。
通り過ぎていく魔術師たちの装備を一つ一つ上げていくときりが無いが、彼らに共通して言えることがあった。
どれもこれも古い武器を使っているのだ。
これはたぶん新品の魔武器を買うことができる金が無いのだろう。
ここは魔術結社にも入れない新入りたちが集う場所なのだ。
そうして歩いていると広い場所にでた。駅だ。
駅の看板は掠れていて読むことが出来ないことから長いこと手入れがされていない駅だということがわかった。。
それなのに電気がついていて、駅構内は明るくなっていた。
明るい光は暗闇になれた目には駅内の光りはまぶしく感じる。
並んでいる椅子に腰を下ろして休んでいる魔術師達が多く見えた。みな休んではいるが武器を手の届く範囲に置いている。
こいつらは暗闇から明るいところへの狙撃を警戒してないのだろうか。
地竜は魔族だ。術式を使う。音も無く近寄られ、一網打尽にされる可能性もあるはずだ。
「ぜんぜん駄目だな」
ぼそっと小さく社長が呟く。
「先を急ぐぞ」
再び俺たちは薄暗い線路の上を歩く。
手に持った魔力灯の光が闇を切り裂き正面を照らす。
「魚人は魔族の一種だから、魔術を使う。遠く離れていても油断するなよ」
「見つけたら問答無用で雷ブッパなします」
「そうしてくれ」
線路の壁は硬いコンクリート製だ。雷を当ててもいきなり崩れたりはしないだろう。
物質破壊に優れている破壊属性だがやはり相性というものがある。
社長のような純粋な『破壊』なら壁を豆腐のように砕けただろうが俺の俺の『破壊』は雷の形で発現するから建造物破壊に向いていない。
だが、社長と違って破壊属性を乗せた攻撃を遠くまで飛ばせるのが利点だ。
手のひらに砂鉄を浮かべて調子を確かめる。
手の中に生まれた砂鉄の小嵐が空気を裂き風切音を奏でた。
今日はいつもより調子がいい気がする。
これなら地竜に囲まれても返り討ちに出来るはずだ。
社長の拳にも白い光りがついたり消えたり、瞬いていた。
どうやら社長も暇を持て余しているようだ。
暇を持て余しながら進むこと30分。事態が動いた。
光の端を何かが通った。
「社長」
「なんだ?」
「なんかいます」
「なるほど」
社長が腰に下げているカンテラの光度を上げる。
強くなった明かりに照らされて怪物の姿があらわになった。
「タコ…?」
現れたのは巨大なタコの腕、それも根元が見えないほど大きな腕だった。
腕が動き、俺達を絡めとろうと動き出す!
「気持ち悪いなぁ…」
「これ食べられるんですかね?」
「ミチヒデ、お前これ食うのか?私はオススメしないな」
社長の拳が、俺の雷が巨大タコの腕を迎撃する。
タコの腕が負傷した痛みに反応してか狭い線路の上を縦横無尽に暴れ回る。
コンクリートの壁を削り線路のレールを剥がした。
そうだ、社長から学んだ術式を試してみよう。
長苦無に術式を構築。
一気に咲け。爆発の花!
「【爆発って楽しいよな】ァ!」
「あ、馬鹿!閉所でやるな!」
展開された術式は巨大な爆発と鉄片を生成。暴れるタコの腕をズタズタに引き裂いた。ついでに壁もぶち壊してしまった。
「閉所で使うなっていったよな?」
「スイマセン」
「あ?なんだ?誠意がたりねえぞ?」
「ゴメンナサイ」
「これで天井が崩落して生き埋めになったらどうするつもりだった?」
「カンガエテマセンデシタ」
「崩れなかったから良かったものを」
崩れた壁の向こう側には新たな道があった。
その道を一瞥して社長は俺に向き直った。
「あの、タコは追いかけなくてもいいんですか?」
「あ?あれは本体をたたかないとどうしようも無いやつだから今は放っておいていいんだよ」
すさまじく不機嫌そうな社長は懐から携帯端末を取り出しどこかの誰かと連絡を取り始めた。
「私だ。伏姫だ。新しい道を部下が見つけてしまった。あぁ、たぶん新しく生成された道だと思われる。ビーコンを打っておくから確認してくれ。あぁ、ではな」
社長は端末の電源を切り、ゆっくりと俺のほうに向き直って言った。
「次、狭い空間内で爆発術式を使ったら原子の塵に変えるから覚悟しておけよ」
「はい」
「私が魔術を教えるとき言ったことを覚えているよな?」
「はい」
「言ってみろ」
「はい」
痛ッ、やめて、右腕を分解しないでッ、ちゃんとまじめに聞いてましたッ聞いてましたからッ。
「閉所空間で火炎、爆発術式を使わない。使うときは仲間の位置を確認するッです!」
「そうだ、よく覚えてたな。えらいぞ。ご褒美に左腕も消してやろう!」
体を分解されているのに意識が無くならない。これが不死者のタフネスか。
社長は俺の体が治癒されるのをじっと指の骨を鳴らしながら待っていた。
社長はニヤニヤ笑いながら拳を光らせている。
まだやるつもりなのか。
俺の腕が完治したのを見届けて、社長は歩き出した。
振り向き一言。
「早く着いて来い。おいていくぞ?」
俺の腕でストレスを発散したからかその顔にはスッキリとした笑顔があった。
これで味を占めて俺の腕を破壊する癖がつかないといいが。
まぁそこまで社長は子供ではないだろう。
「お前は自分のことをどれだけ知ってる?不死者とはどんな存在なのか、知ってるか?」
暗い地下鉄のなかのせいなのか社長の表情は読み取れない。
不死者のこと、か。
思えば俺は不死者のことをよく知らないな…。
皆、一度死んでいるということだけしかわからない。
そんな俺の心を察したのか言葉を続けた。
「不死者は皆、一度死んでいる。21gの魂が抜けて、抜けた場所に魔法が入る。つまり魔法は魂の代わりだ」
「魔法が、魂の代わり…」
あの時確かに俺は死んだ。
その感覚は確かに覚えている。
何かが抜けていき、体に力が入らなくなっていったあの感覚を俺は忘れることはないだろう。
始まりは一瞬。変化も一瞬だった。
「不死者はその驚異的な治癒能力から不死身と思われがちだが実は違う」
「頭ふっとばすどころか全身に熱光線を浴びて炭化しても復活するのに?」
「あぁ、殺し方がある」
社長は立ち止まり振り返って俺の顔を見た。
その瞳は虹色に輝いていた。
「魔法が魂の代わりなんだ。なら、その魔法を『破壊』すればいい」