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旧東京地下鉄探索

 「あーどっかで世界滅亡レベルの大事件がおきないかなー!」



 身長155cmほどの小柄な少女が部屋の中で一番大きく、すわり心地がよさそうな椅子に座って大きくため息を吐いた。

 携帯端末をいじり何か事件が起きていないかと探すがニュースになるような事件はそうそう起きない。おきたとしても他の誰かが解決しているだろう。

 だから我等が警備会社が入ることの出来る隙間など無い。

 なにがなんでも社長は事件が欲しいらしく隅から隅まで情報を、電子の海を探索していく。


 それでもこれといったものが見つからないのか不満そうに舌打ちをする。

 

 「あー暴力を振るいたい。合法的に~暴力を~振るいたい~」


 社長の拳が白い輝きを放ちはじめた。

 危険な状態だ。

 はやく何とかしなくては俺の肉体が危ない。

 体が原子分解されてしまう。

 

 「何とかならないかイナバ?」

 『検索してみます』


 イナバが電子の海に直結し情報を解析し始める。

 返事はすぐに返ってきた。


 『連続バラバラ殺人事件が起こっているようです。死体の傷口はかなり酷く乱雑に切られているようです。これなら暴力を振るいつつ社会貢献もできていいのではないですか?』

 「却下だ。却下理由はそうだな…足取りを調べるのが面倒だからだ」


 『ではこれならどうでしょう。ニュートーキョー旧地下鉄迷宮内に重層領域が出現。魔獣が現れたようです。地下迷宮を探索して魔獣と血湧き肉踊る戦いが楽しめるはずです』


 イナバの声に社長はうれしそうに眉を上げ立ち上がる。

 

 「もうこのさいそれでいいや!早速行くぞ!ミチヒデ!準備しろ!」

  

 立ち上がった勢いそのままに装備をつけていく。

 太刀と脇差を腰に下げ都市迷彩の入った上着を羽織る。

 戦闘長靴の靴紐を結びなおし準備万全な状態になった。

  

 そして社長は俺をせかした。

 

 「はやく、はやくしろ。獲物が取られるぞ!」

 「社長。あんまり急かさないでくださいよ」

 「いいから急げ!」


 俺も腰に苦無を下げ出口に向かう社長の小さな背を追いかけた。

  

 今日も一日が始まる。


 ロッカ先輩は先日の豚鬼襲来事件関係の仕事に出ている。

 どうやら逆に向こう側に攻め込んで殲滅する作戦に出るようだ。

 

 ロッカが一人張り切って出て行ったのを二人で見送り。俺たちはゆっくり朝食を取っていた。

 俺は社長が出す術式を見て学び午前中は勉強に費やした。

 独学に近い俺にとって社長の術式は非常にためになった。


 そうして午前中を過ごし時刻が昼を周っていた。

 太陽は明るくニュートーキョーの大地を照らすが空気は肌寒い。

 地下は暖かいといいが。


 「社長」

 「何だ?」

 「ニュートーキョー旧地下鉄ってどんな場所ですか?」

 

 「使われなくなった地下鉄が異界化した場所だ。異世界を観測できるようになってポータル、次元跳躍ができるようになってから飛行機や電車は物資の長距離輸送以外に使われなくなった」

 「車はまだ使われるのはなんでなんだ?」

 「ポータルよりも小回りが利くからだ」

 

 長距離を一瞬でわたることができても車は無くならないのか。

 おもしろい事を聞いた。

 

 駅の階段を降りて行く。

 ここまでは俺のいた世界の駅と同じ風景だ。

 見慣れた改札機が見える。

 

 どれも機械には電気が通っておらず埃が積もっていた。

 改札を抜けると様々な人が集まり、露天を開いていた。


 「第一層はまだ安全だ。人が集まり、露天が開かれる」


 階段をどんどんおりていく。

 

 階層が下がるにつれ露店の数は減っていき、武装した魔術師たちの姿が増えていった。

 魔術師たちは積層甲冑を鳴らしながら急ぎ足で地下鉄内を進んでいく。

 携帯端末から立体映像を出し地下鉄内の場所を確認していた。


 「行くぞ。道は私が覚えている」


 社長の後についていく。

 本当にわかっているのか心配だが、その足取りに迷いがないから信用していこう。


 五階層を通り過ぎ、六階層に入ったとき、ソイツは現れた。


 身長2m50cmはあるであろう巨大な肉体に左右の腕の長さが違う歪な体。

 大男が叫んだ。


 「ウォォォオオ!ううううう動くななななな!金を出せ!うおおおおお!」


 男の通常の二倍ちかい長さの右腕には回転鋸が握られていた。

 回転鋸が煙を吐き出し刃が動き出す。

 

 血走った目がぎょろぎょろと動き口の端からは泡が出ていた。

 

 「金をだせせせせ!」


 男が回転鋸を振り下ろす。

 

 「殺意満天だな」


 社長が笑い前に出る。

 回転鋸が社長に当たると思った瞬間それは起こった。

 当たる寸前、振り下ろされた回転鋸が途中で止まっていた。

 見えない壁に阻まれたように前に進まず、回転している刃がむなしく空を切る。


 「この程度よけるまでもない」


 社長の小さな拳が回転鋸の横腹を殴った。

 殴った所からヒビが入り砂で出来ていたかのようにぼろぼろと崩れていった。

 

 「う、うぉれの武器、武器がぁ!」

 「残念、お前の武器は壊れちゃったんだぁ」

 「うぉ、うぉれの、もう、切れない?」

 「切れないよ」

 「う、うううう」

 「諦めるんだな。強盗さん」


 社長の拳が強盗の腹にめり込み歪な体が爆散した。

 

 「うーん汚い」


 目の前で血を浴びたというのに社長の体には血は一切ついていなかった。

 飛び散る血飛沫はまるで社長を避けているかのように動き、後ろにいた俺にかかっていた。

 

 服が汚れたぞチクショウ。

 なんで後ろから見ていた俺の服が汚れるんだ。


 大男だった肉塊にはすでに虫やネズミなどの小動物が群がっていた。

 抵抗する力が無くなればそれはもう彼らにとってエサと同じなのだ。


 「先に進むぞ。なんだその不満げな顔は?」

 「なんでもないですー」

 「そうか。ならいい」


 洗えば落ちるかな?強盗の血をつけたままにしておくのはいやすぎる。

 そう考えながら社長の後を着いていく。


 「旧地下鉄は現在第30層まで攻略されている。ことになっている」

 「ことになっている?」

 「迷宮内が広がることがある。浅い層では穏やかだが深層では劇的な速度で広がっていく。それに」

 「それに?」

 「現在25~30層では魚人と地竜が勢力争い行っている。めんどうだろ?」

 「何でこんな狭い所で魚人と竜が」

 「どちらも重層領域から雪崩れ込んできた。重層領域は重なり合った世界の入り口だ。そこから様々な物が流れ込んでくる。魔道技術だったり、魔族だったり。色々だ」

 

 巨大なエレベーターを使い、一気に10階層まで降りる。

 エレベーターには20階層まで降りられるようだが社長は地下10階のボタンを押した。

 

 『なぜ20階層に直接行かないんでしょう?』


 イナバの呟きが聞えたのか社長は笑いながら答えた。

 

 「20階層に着かないからだよ。地図どおりに場所に着くのは10階層までで、それ以降はわけわからん場所に到着することが多いんだ」


 東京の地下は迷宮……。

 その迷宮の地図はしっかりと覚えてるんだろうな?

 社長とイナバと俺、二人と一機で遭難なんかいやだぞ。


 俺の心配をよそに社長はしっかりとした足取りで地下鉄の線路の上を歩いていく。

 未だ地竜はおろか魚人も出てこないのは社長のカンがいいのかただの偶然か。

 

 「10階層から人は一気に少なくなる。いるのは世捨て人か隠者か、成り上がりを目指す攻性魔術師志望の連中かだ」


 隣を魔術師と思われる集団が地図を見ながら通り過ぎていった。

 

 彼らは攻性魔術師志望の若手魔術師なのだろう。

 よく手入れされた魔短槍や魔剣が懐中電灯の光を反射して輝いていた。

 立派な装備だと思ったが所々薄汚れていたり布が巻かれていたりしている。

 ”つなぎ”の武器なのだろう。

 

 「あの戦槌はカグツチ重工の『打ち砕くフィラメル』だな。物質破壊に優れた魔術を使うものがよく使う魔武器だ。空間が限られている狭い場所では扱いにくいのが難点だな」


 指差した先には戦槌を背負った魔術師が地図を横から覗き込んでいる。

 戦槌は様々な戦闘を乗り越えてきたのであろうか、傷がたくさんついている。


 「あれはバッファロー社の『ディアブロ』だな。一級魔術弾に対応しているがこの狭い空間のなかでそれは使えないから意味が無いな」


 指差した先には一本の剣を腰に挿した青年がいた。

 地図を指差し何かを確認している。

 

 これ以上ここにいて社長の武器批評を止めなかったらまずい気がする。

 早く先に下りて目標の獲物を狩ろう。

 

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