豚の群れ(´・ω・`)
車に乗って三時間。太陽は傾き空が朱色に染まるころ、そして長時間の揺れで腰が痛くなりはじめたときに社長が呟いた。
「待て、車を止めろ」
「…? 何か気になることでもあるんです?」
ロッカ先輩がブレーキを踏み車を止めた。
あたりを見渡してもあるのは一直線にアスファルト舗装された道だけだ。
「前方に豚鬼の群れだ。大きいぞ」
「どうします?殲滅?」
「またそうやってすぐ殲滅したがるのがロッカの悪い癖だと思うぞ。もっと頭を使おう」
「行きは何もなかったのに帰りに急に現れるのっておかしくないですか?しかもくっさい豚共ときた!そりゃあもう殲滅したくなりますよ!それに!社長のほうが困ったらすぐ殴りかかるじゃないですか!暴力は良くないと思います!」
標的は豚鬼か。
見たことない獲物だしちょっと気になるな。
「どんな相手だ?」
「豚鬼はですねえ、魔族の内に分類されるんですがかなーり知能が低いんです。ちんこに脳みそがついているんじゃないかって思うほど下半身に忠実です」
「そうそう。そんで、高い繁殖能力をつかった人海戦術が攻撃手段であり防御手段だ」
つまり脳筋か。
『脳筋豚野郎ですね。肉は食えるのかな?』
「竜も食えるんだし食えるんじゃねえの?」
「肉は食えるぞ。食べようと思えばだけどな」
「それで社長、どうします?」
「直進だ!」
直進?
「直進!?迂回しないのか?」
思わず心の声が口から出てきてしまった。
その声に社長も笑いながら言葉を返した。
「お前は目の前に蟻がいたとしてわざわざ避けて進むのか?」
「豚鬼は蟻だと?」
「そういうことだ」
「やっぱり暴力で解決じゃないですか!」
ロッカが叫び社長が笑う。
「そういえば昔、いろいろとこじらせた不死者がいてな、コイツが獣姦趣味だったもんだからさぁ大変」
「今日一番聞きたくない冗談ですよそれ」
「続き言っていいか?」
「言わないでください」
「最中に首をもがれて一回死んでた。激しすぎたんだろうなあ」
社長のくだらない冗談はさておき今の俺には戦うための武器が無い。
『ミチヒデは今武器を持っていませんよね。砂鉄も大幅に減ってしまいましたし車の中でお留守番ですかね』
「そうだな。お前らは車の中から私達二人が豚鬼共を蹴散らすのを見ておけ」
「楽でいいですねえ」
「いや、だってコイツらには戦うための武器がないんだぜ?許してやれよ」
「それもそうですねえ」
車がゆっくりと前進し始める。
丘を越え、視界が開けると奴等はいた。
眼下に広がる豚の群れを俺達は見下ろしていた。
管理が行き届いていない粗悪な魔剣を振りかざしブゴブゴと鳴き声を上げている。
遠くから爆発音が聞こえた。
その音の方向を見ると群れの中を突っ切る三台の車。
窓から体を出して魔剣を振り、爆煙や雷を出している。
丘のふもとにも横倒しになった車両が一台。
中から物言わぬ死体が体を出していた。
頭部は燃やされたのか炭化し消失。
残る体も火傷のあとで皮膚が焼け爛れていた。
周囲には車を守るように三人の死体。これらも胸に鉄の槍が突き刺さり苦悶の表情を浮かべ絶命している。
舌打ちの音。
見ればロッカ先輩が不機嫌そうな顔をして豚鬼を見下ろしている
腰に帯びた剣を今にも抜きそうだ。
豚鬼の後ろから新たな部隊が現れた。
犬頭をした豚鬼よりも小さな魔獣だ。
「犬鬼?奴等は異種同士で組まないはずだが」
社長の呟きにロッカ先輩はさらに目を細める。
「いいから救助に向かいましょう!」
魔細剣を右手に持ち、左手に魔短剣を構え前進する先輩を先頭に後ろを守るように社長がついていく。
社長は振り返り俺に一本の長苦無を投げてよこした。
「入社祝いだ。取っておけ」
「これは?」
「名前は叢雲66式という。柄はないがそれでも立派な魔武器だ。護身用にもっておけ」
「ありがとう」
「あくまでも護身用だからな。車のなかで待っておけよ」
真ん中を突っ切っていた三台の車がついに横転した。
中から人間が9名、車の下から這い出てきた。
生存者に群がる豚鬼たちに向かって先輩が魔術を発動する。
「【雷撃槍】!」
右手の細剣から紫電の蛇が現れ豚鬼の体を焼き焦がす。
豚鬼の魔剣が輝きを放ち三本の金属の槍が飛来。
体をわずかに傾けることでそれを回避した。
「そんな攻撃じゃ私を殺すことは出来ないよ!」
額の角から紫電が散る。
電磁加速した細剣が豚鬼の武器ごと貫き脳を刺し貫いた。
返す刃で後ろから切りかかろうとした犬鬼に短剣で切りかかる。
大地を踏み抜き姿勢を低くして豚鬼と犬鬼の大降りの横一撃を回避。
追いついた社長が拳を振りぬき2匹を殴り飛ばした。
殴り飛ばされた豚鬼達の顔には驚愕。
もっていた武器、鎧が砂のように崩れていったからだ。
「うーん。まだ本調子じゃないな!」
肩を回し呟く。
「とりあえずあの九人を救出する方向で行きましょう」
「OK。了解した」
「私が先陣を切ります。社長は援護を!」
「はいはい」
「んー…群れをいちいち相手にしていくのはめんどくさいな」
そう言った社長は無手。いや、腰に2本の刀を下げている。
脇差と太刀だ。
太刀を抜き無造作に一振り。
一瞬太刀が輝くと向かってきた犬鬼達が頭からすり潰され血と肉でできた真赤な花へとかわる。
「うぇーばっちいなぁ」
呟きながら太刀を二振り三振りと振っていく。
振るたび豚鬼たちの死体が積み重なっていった。
「なぜ亜人どもがこんなに沢山いる?指定されていた干渉区域からなぜ出てきた!?」
「やめろロッカ。奴等死ぬまでやりあうつもりだ」
社長が太刀で投げられてきた手斧を叩き落す。
「近くに新しい重層領域ができたのかもしれん」
「そうですね。気にしてもしょうがないからまずは目の前の人を救助しましょう!」
先輩が加速し、雷となって豚鬼たちに切り込む。
豚鬼たちが横一列にい隊列を組み投槍術式を展開。
雨のように大量の槍が降り注いだ。
社長が前にでた。
目が虹色に輝き白く輝く球状の防御殻を形成。先輩と自身の身を降り注ぐ槍から身を守った。
「アホだなぁ。隊列を組む脳みそがあるなら戦わないって選択肢も出てくるだろうに」
「社長、生存者です」
九名中七名がすでに死んでおり、二名も重症だった。
一人は頭から血を流し、もう一名は足に槍を受けている。
先輩が懐から救命キットを取り出し治療していく。
社長が横倒しになった車を走れる状態に戻し、エンジンをかけた。
「動く…な。よし。いくぞ!まずはココから離れる」
車を運転し俺の元まで走ってきた。
「生存者救出。街まで突っ切るぞ」
「了解」
「ミチヒデ、お前もその苦無を使って戦ってみろ」
「わかった」