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ハントカタログ

 強い風が吹く中俺は伏姫綜合警備保障本社ビルへと向かっていた。

 新調した携帯端末を弄りながら足を動かしていた。

 

 『見慣れないアプリがありますねえ』

 「これか。何々……ハントカタログ?」

 『説明書は…ありました!これです!』

 

 イナバが説明書を取り出してくれた。 

 立体映像で空中に投影された説明を噛み砕いて読み上げる。

 

 『インターネットの何でも相談所みたいなものですね。困っている人が依頼をだして、達成できそうな人がそれを受ける。みたいですねえ』

 「たとえばどんな依頼がある?」

 『簡単そうなものだと迷子犬の捜索とか観光案内とかありますね。攻性魔術師向けの依頼だと弾丸生物?とかいう生物の討伐等がありますね』

 

 なるほど。討伐依頼とかも受けることができるのか

 できそうな依頼があったら受けて見るのもいいかもしれないな。

 緊急度が低い順に依頼が並べられている。

 

 一番下に大きな赤文字で書かれた依頼があった。竜が郊外に姿を現した。と。依頼主はニュートキョー都庁警備課だ。

 暇があったら行って見るのもいいだろう。

 

 ハントカタログを眺めつつ帰える。

 タブには討伐依頼、非討伐依頼、と大まかに分けられていてまぁまぁ見やすい。

 依頼は頻繁に更新されているのか新しい依頼が出たり消えたりしている。


 依頼は早い者勝ちのようだ。

 

 『楽に解決できそうな依頼はすぐに消えますねえ』


 イナバの言葉に苦笑。

 それもそうだ。なんってたって命の危険が無く、楽に金を貰える依頼なら誰だってすぐにやるはずだ。

 

 その証拠に竜討伐の依頼はいつまでたっても消えることは無かった。

 これ誰も受けなかったらどうするんだろ。

 指名依頼とかになったりするのかな。

 

 いやだなあ、面倒な依頼を指名されるのは。


 登録しなけりゃよかった

 端末を片手にため息を吐く。

  


 ■□■


 

 伏姫総合警備保障に着いた。

 道を塞ぐように竜の死骸が置かれている。

 そして一階のシャッターが完全に開いていた。

 中には軽装の社長がハンマーを振るっていた。

 炉から金属を取り出し、カンカンと叩いていた。硬い金属音が会社の前の通りに鳴り響く。

 社長はなにか道具を作っているようだった。

 

 「社長!ただいま帰りました!」

 

 大声で怒鳴るも聞えていないようだ。

 一心不乱にハンマーを振り続けている。

 社長は放っておいて、事務所にいるはずのロッカ先輩に会いにいこう。

 階段を上り、二階の事務所へ。


 扉を開けると先輩がコーヒーを淹れていた。

 俺の姿に気がつき目礼。おれも挨拶を返しながら事務所に入る。


 しばらくするとコーヒーカップを二つ、俺の前に一つおいてくれた。ありがたい。

 

 「今、社長はあなたの武器を作るためのウォーミングアップをしているの」

 「ちょうど社長に武器を作ってもらおうと思っていたところなんですよ」

 「そういうと思った」 

 「社長にどういう武器が欲しいかいっておいたほうがいいかも」 


 なるほど確かにそうだな。

 武器は刃物より鈍器が好きだ。

 ソレを伝えに行くか。


 「じゃ、ちょっと社長に伝えに行ってきますね」

 「行ってらっしゃい」


 先輩の言葉を背中に受けながら一階の工房に向かう。

 社長は休んでいた。

 汗を拭い、水分を補給している。

 

 「おーミチヒデ、帰っていたか」

 「ちょうどさっきさっき帰った所だ。一応声をかけたけど聞えてなかったみたいだからそのまま上へ荷物を置いてきた」

 「そうか。欲しい武器とかあるか?素材は目の前の竜を使うとして」

 「これを心材に使って欲しい」 


 背嚢から一本の角を取り出す。

 角は黄金の輝きを放ち、天井に下げられた光をキラキラと乱反射していた。


 これは俺の世界が滅んだ原因の竜、黄金竜キ・ライゴウの一本角だ。

 最終できたのはこれだけだが十分な量の良質なドラグタイトが取れるだろう。

  


 「ほう、これは七竜の一匹、キ・ライゴウの角か。あいつ生きてたのか。仕留めたと思ってたんだがな」

 

 社長は角を握り締めながら呟いた。

 

 「これならもっと良質な武器が作れる。何を作る?」

 「では、ハンマーを作って欲しい」

 「鈍器か。いいぞ。まずは目の前の竜を解体してドラグタイトを抽出するぞ」


 二人で竜の解体に取り掛かる。

 上から先輩も降りてきて三人で解体した。

 角、爪、牙、鱗、甲殻。翼の皮膜、体中いたるところに生えている棘、尻尾。

 

 すべてを引き剥がし、砕いて炉に突っ込む。

 高温に熱しられた竜の死骸が金属のようにドロドロに溶けて一つに混ざった。


 別の箇所で別個にされたキ・ライゴウの角を先に取り出し、加工する。

 一本の角を一本の金属棒にする。

 

 叩いて形を整えてできた金属棒に溶けたドラグタイトを上からかけ、さらに叩く。


 できたのは片手で扱えるサイズのハンマー。

 玄翁とも呼べそうなそのサイズと形にため息をつきそうになったが持って見て思わず息が止まった。


 とてつもなく重い。


 思わず地面に落っことしてしまいそうになった。

 

 俺の磁力によって手に吸い付く。

 ためしに竜の死骸に向かって投げて見た。

 力いっぱい込め、磁力の反発をも利用して投げる。

 ゆるく回転しながらまっすぐ竜の体にあたり、骨を砕いた。

 こんどは磁力で引き寄せて見る。

 強力な磁気によってハンマーは浮き上がり、俺の手の中に戻ってきた。

 

 最高だ。


 いい武器を作ってくれた社長には感謝だ。


 「社長」

 「なんだ?」

 「ありがとうございます。お礼にあまった竜素材は全部譲ります」

 「そうか。ありがたく使わせてもらうよ」


 社長は工房に戻り、また新たな武器を作り始めた。


 うきうきの気分の俺は何か一つ依頼でも受けてやろうとハントカタログを立ち上げる。

 隣でロッカ先輩が俺の端末の画面を覗きこんでいた。

 

 「ハントカタログに登録したのね。便利よ。それ」


 確かにヒマな時に依頼を受ける分なら楽かもしれない。

 

 見れば竜の討伐依頼はまだあった。

 ならばこれを受けるか。


 「先輩、一緒に竜退治に行きませんか?」

 「竜退治?いいけど私、後衛しかできないよ?」

 「なら俺が前衛をやるから行きましょう」

 「OK」



 先輩と二人でならこの依頼もそれなりに楽しめるに違いない。



 社長はもくもくと槌を振るっていた。

 今日一日武器作成をするつもりなのかな。


 依頼を受け、場所を確認する。

 場所は西トーキョーか。

 遠いな。

 最寄のポータルを使えば車で一時間の距離か。近いか?

 車も借りなくちゃいけないな。

 ちょっとこれは面倒になってきたぞ……


 まぁ、やるっていったんだからやるしかないか。

 

 「イナバ」

 『なんでしょう』

 「車を借りることができる場所と値段のリストアップしてくれ」

 『了解であります!』

 

 「先輩」

 「何?」

 「ポータルを使ったこと無いので先導お願いします」

 「OKOK!」


 いったん五階、居住区にもどり装備を整える。

 ロッカ先輩の分の弾薬をバッグに入れて準備OK。

 

 ロッカ先輩は不老者だ。高威力の魔術を使うのに魔弾が必要だ。

 魔弾はいっぱいあるほうがいいだろう。

 

 腰のベルトにハンマーと長苦無をさげて俺の準備もOKだ。


 「そういえばさ、ミチヒデ君」

 

 ポケットに弾薬を詰め込みながら先輩は俺に尋ねてきた。

 

 「そのハンマーの名前はどうするの?」

 「ハンマーの名前?」


 ハンマーじゃだめなのか?  

 武器にわざわざ名前をつけるなど考えたこと無かった。

 思えば武器らしい武器といえば砂鉄か苦無か、拳だったからな。

 

 名前か。


 「思いつかない?」


 先輩は思いついたようだ。

 目を輝かせてる。

 聞くべきだろうか。

 聞くか。


 「先輩は何か思いついたんですか?」


 よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに先輩は立ち上がった。

 

 「ズバリ!その名もミョルニルです!」

 

 ミョルニル。北欧神話に登場するハンマーか

 確かに投げても戻ってくるしその名前はいいな。

 

 「いい名前です。それにしましょう」

 「えーそんな簡単に決めちゃっていいの!?」


 まぁ、所詮は名前だしな。

 あやかるくらいでいいだろう。

 

 「いいんですよ。名前なんて、ちょっとあやかれればそれでいいんです」

 「それもそうなのかな。あ、準備終わったよ!いこっか」


 階段を降りて未だに作業をしている社長に一言声をかけてから行くことにする。

 

 「社長!」


 できるだけ聞えるように大声で怒鳴る。

 

 「聞えてるよそんな大声で怒鳴るな!」

 「ちょっと竜退治に行ってきます」

 「ああん!?なんだってえ!?」


 聞えてねえじゃねえか。


 「ちょっと!竜!退治に!行ってきます!」

 「そうか!ロッカも一緒か!気をつけろよ!」


 社長の許しももらえたことだしいざ出発。

 待ってろ竜。お前の命を必ず頂く。



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