60階建てのビル屋上から落としても壊れない携帯端末ってそれだけで武器になりそう
不死者の死ぬ条件が分かりづらいと思ったのでちょっと変えました。
不死者も死ぬ。の一部を変更。
「いやー大変だったね」
厳しい深いしわを笑顔が崩した。
背中に背負った十字架をせおい直して墓守が言う。
「竜の死体処分は君に任せるよ。私には必要ないからね」
「じゃあ、トラックでも呼んで会社の前まで運ばせるかな」
墓守はもう目の前の惨状への興味を無くしているようだった。
背中の十字架を覆う布を締めなおしている。
「今日はいつもと違うカフェに行こうと思っていたんだ」
「はぁ」
急に何を言い出すんだこの人は。
「そしたらなんか竜が出現ときた。カフェの近くで。これじゃあゆっくり朝食もとることができなくなる。君はどうだね?自分の予定や平穏を崩されえることに苛立たないかね?」
「苛立ちますね」
その気持ち、よくわかります。
俺も携帯端末が欲しいだけなのに、こんなことに巻き込まれて少々いらついてしまった。
竜は死んだし、竜の素材も手に入った。なんに使うかは未定だが。
武装警察官も撤退したし、俺も早く端末を買いたい。
荒れ果てた通りには早くも舗装車が新しいアスファルトをひき始めていた。
この街はタフだ。少々の破壊ではへこたれない。
「君の腰に下げてるその武器…」
墓守が俺の腰に下げられている苦無を見て呟いた。
「ソレは叢雲じゃないかね?ナンバリングは何だい?」
「え?ああ、66番だ」
「ほほう。66!いいねえ。私も持ってるんだよ」
墓守は懐から小刀を取り出した。
小刀には116と彫られている。
「叢雲116式だ。伏姫さんが作る武器はすばらしいからね。私もりんごの皮むきとかに愛用しているよ」
「社長は武器を作ってるのか?」
「社長?あぁ、君がうわさの新入り君か。そうだね。彼女は武器を作り、欲しい人に売ってるよ」
俺はうわさになっているのか。
そうか、社長が武器を作っているなら今日手に入ったドラグタイトで一つ、武器を作ってもらうことにしよう。
いいドラグタイトが手に入ったことだし
だがまずは携帯端末だ。
墓守に聞いてみるか?いや、いい。なんかこの人もうカフェのことしか考えていないっぽいし。
イナバに聞くとしよう。
「イナバ」
『はいなんでしょう』
「このへんで開いている端末を販売している店を知りたい」
『ロッカ先輩のお勧めの店が一つ開いてますね』
「そりゃいい。さっそく行こう」
「行くのかね?」
「はい」
「ではまたいつか」
俺と墓守はそれぞれ違う方向に歩を進めた。
この街で暮らしていくのならまた会う日が来るだろう。きっと。
熱で溶けているアスファルトを避けながら歩いていると胸を貫かれた少女とキメラの遺体が安置されていた。
周りを取り囲み、泣き付いている二人の男女がいた。両親だろうか。
あれはあまりにも一瞬の出来事で対応できなかった。
だが、もうちょっと気がつくのが早かったらと思うと悔しさで涙が滲んできた。
俺にできることはこれ以上被害が広がらないように竜を殺すことだった。
もっと早く、もっと強ければ誰も悲しまないで済んだのかもしれない。
俺は足早に、逃げるようにその場から離れた。
『ミチヒデは悪くないと思いますよ』
「慰めか?」
『殺したのはミチヒデじゃなくて竜ですから』
イナバの慰めが胸の奥に落ちた。
「そうか。そうだな」
次は殺させないようにがんばろう。
俺には竜を殺せるだけの力がある。それを活かそう。
瓦礫と化した街角を抜けると一軒の携帯ショップが営業していた。
通りは大騒ぎなのに平常どおりに開いている。
やっと着いた。
ここまで長かった。
迷子のキメラを捜すわ、竜と殴りあうわで散々な一日だった。
遠い俺の目的地がようやく、今、目の前にある。
扉を開けると電子音が店内に鳴り響いた。
「いらっしゃい」
「この店で一番頑丈なやつをくれ。あと骨振動マイクとスピーカーもつけて」
「それならこれだね」
出されたのは黒光りする携帯端末だった。
重厚なボディを持ってみると見た目どおり、ずっしりとした重さが腕にかかった。
「高層ビルの屋上から落としても壊れないほど頑丈だよ。むしろ地面のほうが欠けるかもしれない」
決めた。これにしよう。
『えぇ、ちょっと待ってくださいよもうちょっと考えましょうよ』
「じゃあお前はどんなものがいいんだ?」
『もちろん最新機種です!』
「もろいものは駄目ーだ。却下。大体高性能なPCが部屋にあるじゃないか」
『高性能つったって家におけるPCじゃたかが知れてるじゃないですか!』
「携帯端末だともっと低くなると思うが?」
『わかりました。わかりましたよ。もーいいです!なんでもいいでーす』
呪詛のように耳に響く言葉を飛ばしながらイナバは引っ込んだ。
店員が話し合いは終わったのか?と聞くように俺に視線を飛ばしてきた。
話し合いは終わった。これを買おう。
俺が端末をレジに持っていくと店員も喜んで対応した。
「お買い上げありがとうございます!」
新しい端末を立ち上げて見るとすぐにイナバが画面に現れた。
イナバは不機嫌そうに黄色い眼を動かし、画面内を飛び跳ねて中の状態を確かめていた。
電池は魔力供給型、定期的に手に持って魔力を流し込めばいい魔術師定番の型のようだ。
立体映像機能つきで、イナバの姿が立体映像で空中に投影された。
イナバが俺の顔を見て少しうれしそうに跳ねた。
「どうだ?」
『前の端末よりかはマシですね』
「そりゃよかった」
目的のものは手に入ったし会社に戻るか。
竜も届けられていることだろうし。
帰りの足取りは軽かった。
今日一日の目的は達成されたのだ。
もう何が来てもいい。
グンマーの森に住むといわれるワンダーランドな生物達でも今なら笑って相手をできるだろう。
そのくらい気分が良かった。
『機嫌よさそうですねえ』
「わかるか」
『わかりますよそりゃあ。今にもスキップしそうですもん』
今日は色々あったけど無事携帯端末が買えて良かった。
トラブル続きの毎日だと、買うことはおろか店にたどり着くことすらできないパターンがあるからな。
『みちひで、メールが届いてます。宛名は伏姫社長です』
「読み上げてくれ」
『了解しました。―無事、アクセサリを手に入れることができた。あと、竜の死骸も受け取った。ご苦労だったな。―だ、そうです』
すごいなイナバ。
今完全に同じ声がでてたぞ。
画面の中でウサギがドヤ顔をかましている。
ちょっとイラっときたのでゴミ箱にドラッグ。酷いです!と声が聞こえるが無視。
どうせ自分で出てくる放って置いても大丈夫だ。
とっとと”家”に帰って社長達の顔をみて眠ろう。
俺はそう思いながら本社ビルへと足を運んだ。
とれたドラグタイトでどんな武器を作ろうかな