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携帯端末買いに言っている途中だけど竜がでてきてさあ大変

 「ぐわらぐわら」


 竜が笑いながら魔術式を口に展開する。


 「う、動くな!こ、ここは竜の保護区ではない!法に従って、お、おとなしく縄につけ!」


 警察官が魔剣を構えながら大声で叫んだ。

 

 無駄なことだ。もうすでに人を殺している竜に動くなはないだろ。

 

 竜も笑いながら竜の吐息(ドラゴンブレス)を開放した。

 

 「ここで死ぬがいい!」 

 

 咄嗟に飛びのき、ビルの壁を駆け上がり屋上へ避難。

 眼下には地獄が広がっていた。

 

 灼熱を放つ溶岩がアスファルトの上を舐め、クルマを覆っていた。

 人は溶岩に飲まれ苦悶の表情を浮かべながら絶命。

 

 溶岩の中心で竜が嗤う。

 楽しそうに。心底愉快そうに嗤う。


 「野郎…」


 俺の予定を崩しやがって…

 怒りで苦無をもつ手が震えた。

 


 ビルから飛び降り【電磁砂鉄豪腕】を展開。巨大な砂鉄の拳を竜の頭に落とす。


 「グガッ!」

 

 巨大質量をぶつけられた衝撃に竜は呻いた。

 呻いただけだ。致命打にはなっていない。


 竜は呻きながらも尻尾を振り俺を弾き飛ばした。

 ビル壁に叩きつけられ蜘蛛の巣のような亀裂が走った。

 竜は口から細く、白い蒸気を噴出し俺を見つめていた。

 とどめをさしに来ない。なぜだ?


 竜は俺の足元を注視している


 見れば足元に十字架が生えていた。

 なんだ?これは?いつ生えた?


 竜の目線は変わっていた。

 俺を見つめる目線から通りの方へと変わっていた。

 視線の先には一人の男が立っていた。背負っていた十字架が黒い影を落とし、その表情は見えない。

 男はタバコを咥え、紫煙をくゆらせながら竜のほうへ歩いていた。

 通りを逃げる人たちに逆らうように、俺と竜の元へと歩いていた。

 

 「いい朝だった。今日は天気もよく穏やかに過ごすのには最高の日だった」


 立ち止まってタバコの火を消し、携帯灰皿にソレをねじ込んだ。男はため息を吐く。

 背負っていた十字架を背負いなおし、全身に悲しみを漂わせて男は視線を上げた。俺を真っ直ぐと見ている。

 

 「ようあんちゃん。俺も加勢するぜ。こう見えても俺は不死者なんだ」

 

 ぼさぼさの髪、顔には深いしわが刻まれていた。

 灰色の瞳が俺を見つめていた。

 

 「あんたも不死者だろ?見ていたぜ。さっさとその居心地悪そうな所から出てこいよ」

  

 「なにをッ!そんなことはさせぬ。」

 竜の口に魔術式の術式光が光った。

 灼熱の溶岩を吐き出すやっかいな術式だ。


 「竜の吐息(ドラゴンブレス)も術式だ。つまり他の魔力生成物で相殺できる」


 男の足元から十字架が何本も現れた。

 十字架が生えてる空間に溶岩の津波が当たった瞬間、津波の勢いが殺された。

 雪崩れ込む溶岩を細い十字架がせき止めている。

 

 『ミチヒデ、あれは魔力生成物です。あの溶岩と十字架で相殺が起こっています』


 なるほど。奴が溶岩を食い止めている間に俺が攻撃したらいいか。

 ビル壁から抜け出し、地面に着地。体の調子を確かめる。

 骨は全部治った。いけるはずだ。

  

 「イナバ、カメラを通して竜を観察」

 『了解』


 イナバに指示をだし戦場へ戻る。

 目の前にはたくさんの十字架とともに竜と対峙する男の姿があった。

 

 竜が吼え、男に爪を振り下ろす。爪は一つ一つが剣のように鋭く、厚い。

 男は腰に差した魔剣を抜かずに拳で対応。正面から受け止めた。

 

 「重いねえ」


 余裕そうなその言葉に竜は唸る。 

 戦線復帰した俺を警戒してか、尻尾をゆらゆらと揺らした。

 

 「おぉ、復帰かい。おじさん一人で倒しちまうとこだったよ」

 

 軽い冗談を含ませたその瞳はまだまだ余裕だと言外に告げていた。

 

 「俺はミチヒデって名前だ。あんたの名前は?」

 「自己紹介とは余裕だねぇ。皆は私のことを”墓守”と呼ぶよ」


 墓守ね、なるほど。背負っている十字架は誰かの墓なのか。

 

 墓守が手を地面につけた。

 すると墓守の周囲、円を描くように十字架が生えてきた。


 「別に私の出す墓を壊してくれたって構わないよ。どうせすぐに直る」


 なんだ。気にしなくていいのか。

 じゃあ、遠慮なく。

 

 砂鉄で道を作り、その上を電磁加速して一気に竜に突っ込む。

 通り道に生えていた十字架を砕きながら竜の腹にまわし蹴りを叩き込んだ。

 竜の硬い鱗と筋肉、骨に覆われた場所に鋭い一撃をお見舞いする。

 

 硬い鱗が俺の蹴りから肉体を守った。

 だが、ここからだ俺の攻撃は。殴打できる距離から俺の戦いは始まる。

 

 「【電磁砂鉄豪腕(殴って壊す)】!!」

 

 黒い砂鉄の小嵐が集まり、巨大な拳を形成する。

  

 「オラァ!」


 黒く巨大な拳が竜の装甲を貫いた。

 肉を打つ音が通りに響き渡る。

 

 「グオオオオ」


 その重い一撃に竜はのけぞり、アスファルトの地面を削った。

 竜はまだ理解できていないようだ。

 俺の一撃が自身の巨体を軽く吹き飛ばしたことを。

  

 「ガアアア!」


 竜が吼え、翼を広げた。

 翼には大量の魔術式が構築されていた。

 絵画のように精緻な魔術式にあっけにとられてしまった俺に墓守が声をかけた。

 

 「ここは私がやろう」


 墓守が前に出て、地面に手をつけると巨大な十字架が出現。壁となって俺たちの身を守る盾となった。

 盾が出来上がったと同時に連続した金属音が鳴り響いた。

 

 竜の翼から出現したのは金属の槍。

 それが大量に撒き散らされた。

 

 壁に守られていない地面や壁に槍が突き刺さる。

 ガラスは割れて、通りに放置された車を穴だらけにした。

 

 鉄の雨がやんだ。

 通りに残ったのは俺と墓守二人だけだった。


 地面に刺さった槍を引っこ抜き竜に向かって投げた。

 鱗という硬い装甲を貫いて一筋の血が流れた。

 

 竜は俺たちを見ている。

 自分の攻撃に何回も耐えている相手だ。

 警戒しているようだった。

 

 『ミチヒデ!』 

 「なんだ?」

 『大量の武装警察がこっちに向かってきています』

 「無駄死にしなきゃいいけどなぁ」

 『邪魔にならなければいいですねえ』

 

 数をそろえてもどうしようもない存在はいる。

 たぶん今がそのどうしようもない相手だ。

 

 ワニのように広がった口には短剣のように鋭い歯が何本も生えている。

 その口を動かして竜は言った。

 

 「亡き金龍キ・ライゴウの意思に従いお前ら人類を根絶やしにする!」


 金龍キ・ライゴウ。懐かしい名前だ。

 だが、そいつはもう俺が殺した。

 亡き意志に従う、か。

 なら俺も今は無き我が世界に誓ってお前を殺すとしよう。


 「俺は、お前を殺す」

 

 砂鉄を含んだ黒い風が吹き荒れた。

 砂鉄が集まり腕となる。

 腕は拳を握り、竜の頭を殴りに行った。

 

 「ガアッ」


 竜は空を飛びソレを回避。

 口に魔術式が見えた。吐息がくる。


 「整列!発射用意!撃て!」

 「「「了解!発射!」」」

 

 到着した武装警察部隊の魔術式が竜の翼を貫いた。

 装甲車の扉が開きさらに大勢の武装警察官が現れた。

 

 装甲車の上部が開き一人の男が姿を現した。

 男はメガホンを使い大声で部下たちに指示を出す。

 

 「今戦っている不死者を支援しろ!」

 「「「了解!」」」

 

 男の指示で武装警察官が動き出した。

 魔剣を地面に突き刺し、術式を発動。

 粘土のように地面が隆起し、簡易な遮蔽物を生み出した。


 「やるねえ定命者」


 墓守の呟きに竜が唸る。


 磁力で突き刺さっている槍を引き抜き竜の目をめがけて発射。

 まずは視覚を奪うことで優位に立ちたい。

 

 竜は再び飛翔することでソレを回避。再び翼と口に魔術式の光が灯る。


 「でかいのがくるぞ!」

 

 墓守の警告に武装警察官が退避。

 俺は墓守の影に隠れる。

 

 「ガアアアアアアアアアア」


 響きわたる咆哮とともに灼熱の溶岩が雨のように降り注いだ。

 砂鉄を集め金属の傘を成形し頭上を守る。

 

 「上をとられると厄介だな……ミチヒデ、翼を壊せないか?」

 「やってみよう」

 

 まだ近くにある金属の槍を近くに寄せ、ぐしゃぐしゃに丸めて一つの弾丸にした。

 砂鉄で砲身をつくり、弾を入れる。

 

 「視点にて誘導。発射」 


 電磁加速した弾丸が竜の翼、付け根を破壊する。


 片翼を破壊された竜は地上に墜落。痛みにくぐもった悲鳴を上げた。

 すかさず墓守が近づいてく。

 

 「まずは一撃」


 胸部を殴る。

 殴った瞬間、打点から十字架が生えて竜の動きを拘束した。

 

 「次の一撃」


 墓守は竜に生えた十字架を殴る。

 殴ったところからさらに十字架が生えその重さに引きづられたのか竜が頭を落とした。

 

 「終わりの一撃」


 墓守は手を叩く。

 パンッと乾いた音が道路に響いた。

 音が響いたとたん十字架が爆発した。

 一気に爆発した十字架は竜の甲殻を抉り、腕を吹き飛ばした。

 吹き出た血が雨のように降り注ぎ、未だ熱を放つ溶岩にあたり蒸気となった。


 だがそれでも竜は生きていた。

 

 傷を直ちに塞ぎ、出血を止めて強い敵意で俺たちを、墓守を見ていた。

 

 残った片翼を広げ、術式を展開しようとする。


 「もうとっとと死んでくれ【電磁砂鉄豪腕(殴って殺す)】」

 『携帯端末を買いたいだけなんですがねえ』


 イナバの言葉に今日の予定を思い出す。たぶん今日携帯端末は買えそうに無い。


 飛び上がり、竜の頭を砂鉄で殴る。殴る。殴る!

 角を折り、眼球を抉り、牙を抜く。


 竜は悲鳴をあげることも許されず全身を砕かれて、絶命。

 地面に煙を立てて倒れ伏した。

 

 

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