携帯電話買いに行ってる途中
『結論から言うと見つかりました』
「はやいな」
『首輪を着けている事からもあれがタロウで間違いないでしょう』
イナバの言葉を聞き、指定されたポイント付近を捜索する。
大きさは……そうだ、大きさはどのくらいの大きさなんだ?
「イナバ」
『はい、なんでしょう』
「対象の大きさは?」
とたんによくぞ聞いてくれたと電子音で作られた荒い鼻声がマイクから出てきた。
こいつ、こんなに感情豊かだったか?
日々進化しているということか。
変な方向に進化しないでくれると助かるのだが。
「早く言え」
『大きさはライオンやトラサイズあります』
「それ街でお騒ぎになるやつじゃん」
『なってないんですよねえソレが』
「なぜだ?」
『見えてないみたいなんですよ』
気になって携帯端末の映像を見てみればそこにはみたこともない動物がいた。
顔は猿犬のような胴体虎模様の足、狐のようなふわふわの尻尾の生物だった。
…これの何処がかわいいんだ?
もっとポメラニアンとかかわいい動物はいるだろうに。
犬はいいぞ。きちんとしつければ立派な相棒になってくれる。
犬のことは置いといてこの監視カメラに写っているバケモノのことを考えよう。
たぶん見た目からしてキメラの一種だろう。
周囲の人が気にしていないのはなんらかの能力によるものか。
これらを頭の中で統合してイナバに話しかけた。
「なんらかの能力をもったキメラか」
『みたいですねえ』
「場所は」
『二ブロック先です。地図に場所を表示しますねー』
イナバの暢気な声が俺の耳に響いた。
なにはともあれ居場所と姿かたちは分かった。
確保しにいこう。
場所はここから2ブロック離れた場所にある空き地だ。
俺以外に見つけてしまう人がいるかもしれない。
できるだけ急いで向かう。
街中で全力疾走したら怪我人が出る可能性がある。
だから、ビルの壁を登り屋上にでた。
人も殆どいない屋上なら全力疾走しても大丈夫だろう。
青空の下、人がいない屋上を駆ける。
眼下には車や人が行き来している道路が見えた。
ここから落ちたらちょっと楽しいかもしれないな。
飛び散る肉片とかで一気にパニックになること間違いなしだ。
まぁ、そんなことやらないが。
『飛び降りて街の人をびっくりさせてやりましょう』
知能レベルが俺と似ているなこのAIは。
そんなこと出来るわけないだろ。
軽口を言いつつキメラがいる空き地近くのビルの屋上に到着する。
ビルの階段を使って下りようとドアノブをひねってみるが当然の如く鍵が掛かっていた。
このご時勢で珍しい物理鍵だ。
電子鍵なら開ける事ができたんだがな…。
できないことを言ってもしょうがない。
飛び降りることに決めた。
幸い空き地には人がいなく、ぶつかったり踏み潰してしまう可能性はほとんどないようだ。
そして空き地の端にキメラが座っている
「ヒョーヒョー」
キメラが出す不気味な鳴き声があたりに響くが、だれも気がついていないようだ。
空き地の入り口を何人もの人が通ったが誰も見向きもしなかった。
認識阻害か?
俺が掛かっていないのはなぜだ?
範囲外だからか?
「イナバ」
『はいよーなんでございましょー』
「監視カメラで監視。俺は近づいてみる」
『了解』
イナバに命令を伝えた瞬間俺はビルを飛び降りた。
着地の衝撃で骨が砕けたがすぐに治癒。不死者さまさまだ。
着地の硬直後、足元を見ていた視点を上げるとそこには何もない空き地が広がっていた。
「イナバ、対象はどこにいった?」
『いますよ。目の前に』
ほんとかぁ?
思わず前の空間に手を突っ込んでみる。
何も無い空間だ。
獣特有の臭いもしないし、毛皮の感触もない。
何も無い空間のはずだ。
『呼びかけてみたらどうでしょう?タロウと、呼んでみる、とか』
なるほど。
じゃあためしに名前を呼んでみるか。
「タロウ」
何もいない空間に向かって声をかけた。
途端、空間が歪み1匹のキメラが姿を現した。
キメラは俺を警戒しているのか、立ち上がって威嚇している。
まずいな……。
飼い主の名前を聞くの忘れてた。
ここから連れ出す方法も考えていなかった。
まさか、こんなにでかいとは思わなかったし。
砂鉄を動かし大きな檻を作ってキメラを囲い込む!
キメラを傷つけないように慎重に砂鉄を動かして無事檻の中にキメラを入れることができた。
キメラは暴れずにおとなしくしていた。
何があって逃げ出したのか知らないがおとなしくしてくれて助かる。
これで道中、何も無ければいいのだが。
■□■
道中ずっと神輿みたいに担いでこれたのは不死者のなせる力の一端か。
人の目を集めたが気にしない。
無視だ無視。
交番に到着して少女と目が合った瞬間、少女が駆け寄ってきた。
「おじさんありがとう!」
少女の言葉に俺も頑張ったかいがあったと思った。
檻の砂鉄を戻し、少女とキメラを引き合わせる。
「タロウ!タロウ!何処に行ってたの?勝手に行っちゃメッだよ!」
キメラは少女の言葉を聞き、うなだれる。
少女と動物の和やかな時間がそこにはあった。
その時だった。
少女の背後の空間に裂け目が生じた。
裂け目の向こうから巨大な爪が少女とキメラを貫いた。
裂け目の向こうには竜がいた。
竜は笑いながら小さな裂け目から体を乗り出した。
「邪魔な人間共よ。浄化の時間だ!」
竜は吼え、通りの人はパニックを起こし建物内に逃げ込む。
警察は魔剣を構えているが恐怖で失禁してしまってる。
警察戦力は頼れそうに無い。
俺がやるしかないようだ。
街中で暴れるとなると建物への被害が大きそうだがそうもいってられない。
竜が完全に姿を現した。
全長25m。大きな竜だ。
散った少女とキメラのためにもこの竜は俺がしとめる。
長苦無を抜き、砂鉄を集める。
「竜は見つけ次第殺せ」
魂に刻み込んだ言葉を呟く。準備完了だ。
これより殺竜を開始する。