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平和な朝

 次の日。

 俺はゆっくりとした休日を過ごしていた。

 

 俺は二人よりも早く起き、屋上で術式の練習を行った。

 叢雲66式の固有術式を起動する。

 

 「音無しさんは今日も静か」


 これで、雷の轟音も響かなくなり、社長とロッカ先輩の睡眠を邪魔することは無いだろう。


 今日は汎用術式を練習する。

 

 汎用術式とは教科書に乗っているような一般に普及している術式のことだ。

 規格化された魔術式は牽制にも、殺傷にも使える便利なやつだ。

 だが、決まった形の術式は決まった形にしか動かすことが出来ないのが難点だ。

 つまり、発射した後、操作が出来ない。

 

 まぁ、雷は早いから、真っ直ぐしか飛ばせなくてもいいのだが。

 それに、俺の場合、出した雷は全て破壊属性がつく。術式の打ち合いになった時にこれは有利に働くだろう。

 

 雷撃系五級術式『雷撃槍』

 長苦無の先に光球ができ、そこから雷の蛇が天へと伸びていく。


 五級の殺傷能力の高い術式だ。

 大抵の生物は雷に弱いからね。

 一瞬で内臓を焦がし、血液を沸騰させる術式に耐性を持つ生物がいるだろうか。いやいない。いる。いた。


 不死者。


 あれは生半可な威力の術式じゃあ効果ないし。気にすることでは無いだろう。


 でも、雷撃術式は不死者の全身に火傷を負わせるので、回復に少し時間が掛かる。時間稼ぎができる。 

 これは昨日戦った不死者戦で学んだことだ。


 次の術式を展開する。

 

 雷撃系3級術式『雷滅槍』

 長苦無の先に三つの光球がともり、そこから三本の雷が出現。

 

 出てくる雷の数が三倍に増えた。

 それだけだだと思ってはいけない。

 三倍に増えたことにより、攻撃範囲も増えたのだ。 

 

 これで、制圧力がよりました雷を敵に浴びせることができる。

 

 雷撃系二級術式『雷神槍』


 七つの光球から七つの雷がでる。

 この術式はただの雷滅槍の七倍というだけで終らない。

 他の下位術式は発動した一瞬。でてくる雷も一瞬だが、この術式は注ぎ込んだ魔力に応じて雷が持続する。

 自然の雷と違い持続するその性質から金属を溶かすほどの高熱を生み出す。

 

 壁に向かって撃ちたい所だがそれをすると社長に怒られるので我慢我慢。

 無事発動することを確認したら、次の術式を確認する。


 2級術式まで発動することが分かったから、3級攻性魔術師の試験も簡単にパスすることができるだろう。

 

 次なる術式を練習する。


 社長から貰った『よくわかる電磁雷撃系術式』をめくり適当に術式を組上げる。

 

 磁力系は…いいか。

 俺には強力で使い慣れた術式があるし。


 電磁砂鉄豪腕を発動。

 砂鉄を集め、巨大な拳を形成。空をなぐる。

 足を作り踏みつける。

 

 使い慣れすぎて、よどみなく砂鉄を操作できるようになっている。

 磁力系術式の確認が終ったから次に進もう。

 

 教科書をぺらり。


 なかなかいいのが見つからないな。

 今日はここまでにするか。


 「おしゃべり開始」


 消音術式を解除して、帰り支度をする。

 何をやるかといえば苦無を腰に下げ、教科書を持って下に下りるだけだが。

 本社ビル、居住スペースの俺の部屋に戻る。

 社長と先輩はまだ寝てるようだ。

 

 「あの二人、一緒に寝てるんだよな」


 朝の訓練帰りに鉢合わせて、なぜか気まずくなったのは記憶に新しい。

 

 『ミチヒデ、訓練はもう終わりですか?』

 

 イナバの電子合成された音声が部屋の中に響いた。

 音源に目をやるとそこには一台のジュークボックスがあった。

 筐体に付属している画面には一羽のウサギが跳ね回ってる。

 

 画面外に飛び出て今度は俺の携帯端末から声が聞こえた。

 

 『新しい端末を買いましょう。骨振動マイクがついているやつを』

 「別に端末を新しくするのはかまわないがなぜ骨振動マイク?」

 『消音術式が発動してるとき何言ってるか分からないので』

 「なるほど。じゃあ今から買いに行くか」

 『さすがにこの時間帯に店は開いていないと思われますが』

 「それもそうだな」 


 ジュークボックスにイナバが戻っていった。

 ジュークボックスに戻ったとたん音楽が鳴り出す。


 うるせえ

 

 つまみを弄り、音量をOFF。

 酷いです!と幻聴が聞こえた気がするが無視。

 俺はゆっくり静かにコーヒーが飲みたいんじゃ。

 

 コーヒーのためにお湯が必要だが待つのがめんどくさい。

 社長の真似をしてみるか。

 苦無をカップに注いだ水に向けて、意識を集中。水分子を振動させて熱を生み出す。

 苦無が一瞬光った後、そこにはあっつあつのお湯ができていた。

 インスタントの粉を注ぎ、コーヒーが完成。

 

 パンと目玉焼きを焼き、ちょっと早い朝ごはんを始める。


 『かつてないほど穏やかな朝ですね。次からこの時間帯に起きてはいかがです?』


 イナバの言葉に頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。

  

 そうだ。俺の穏やかな朝は毎回毎回、社長に邪魔されていた。

 やれ、飯を作れだの味が薄いだの。生焼けだの。

 作ってもらう側のくせに態度がでかい。

 そんな社長がいない朝はとても静かだ。

 

 朝早くおきてよかったぁ。

 これ食べ終わって片付けたら二度寝しよう。


 そうおもった瞬間、共用スペースの扉が開いた。

 

 「ハロー。私だ」


 無慈悲な社長がエントリー。

 俺の穏やかな朝、終了。


 ■□■


 「むぐむぐ」


 社長と先輩二人が朝食を食べている。たーんとお食べ。

  

 『全員いることだし今日の予定を確認しましょう』


 イナバの言葉に社長と先輩が頷いた。

 別に食べ終わってからでもよくねえか?

 

 そんな俺の心が聞こえるはずも無く今日の予定を確認する。

 今日は何があったっけ?


 『本日、ミチヒデの予定は新しい携帯端末を買いに行く。以上です』

 「私は頼んでおいた夫婦狼の牙で作ったアクセサリを取りに行く。だ。」

 「私は事務所で店番、ってところですかねえ」


 三者のばらばらな予定を確認し朝食は終了した。

 

 「じゃ!私は毛皮骨肉店に行って来る」


 社長はアクセサリを受け取りに街にでていった。

 

 「ミチヒデ君は携帯端末ショップ?」

 「そうなるな」

 「じゃ、おすすめの店いくつかピクアップしておくね!」


 ロッカ先輩のオススメの店を地図アプリに記して俺も事務所を出発した。

 天気もいい。ちょっとてきとうに散策するのもありだろう。 









 ここニュートーキョーでは様々な見た目、人種の人がいる。

 ぱっと見で人間に見えない種族もちらほら見える。

 猫にしか見えないニャル族や、犬にしかみえないワルフ族。

 鳥のような頭を持つピイ族。

 どれも人には見えないが人権を持っている種族だ。


 ここに来たばかりの時は驚いていたが、それもしばらくすると慣れた。

 もの珍しくじろじろ見るのも失礼だなと思ったし。

 

 真っ直ぐ俺の方に向かってくるのは自動人形だ。

 まるで人間のような見た目をしているが、額に個体識別番号とバーコードが刻印されている。

 それが無ければ人と間違えてしまうだろう。

 

 彼らには自我を持つものと持たないものがいるらしい。イナバみたいなものだな。

 

 道を歩く彼らを観察しながら歩いていると小さな女の子が泣いていた。

 大声で泣く少女は手に、紐を持っていた。

 紐の先には金具が着いていた。


 少女と目が合った。

 その目には深い悲しみの感情が見て取れる。

 話しかけるべきか?

 

 周囲の人間にそっと目配せをする。

 

 (俺が行こう)

 (事案では?)

 (ここは一つどなたか女性を)

 

 頼りない男たちの視線会話が飛び交う。

 

 しょうがない。俺がいくか。

 

 一歩踏み出した俺に周囲の自然が集まっていく。

 目線を気にせず、泣いている少女の目の前でしゃがみこみ、ゆっくりと、できるだけ刺激しないように穏やかに話しかけた。

 

 「やあ、どうしたんだい?」


 まずい。とっさに出てきた台詞がこれじゃあ駄目だろ。

 たんなる女児誘拐犯だぞこれじゃ。

 思わず視線の中に社長がいないか確認する。いない。よし。続けよう。

 

 子供が泣き止むのを辛抱強く待つこと五分。

 泣きつかれたのか喉をしゃくりあげながら俺の目を見つめながらぽつぽつと話し始めた。


 「えみね、タロウとお散歩してたの。公園でね、遊んでたら、どっかにいっちゃったの」


 なるほど。名前はエミというのか。タロウは…ペットかな?

 

 「たろう君とはぐれちゃったの?」

 「違う!タロウはどっかにいっちゃったの!」 

 

 また眼がうるうるし始めた。まずいぞこれは。

 とりあえず最寄の交番に連れて行くか。

 

 「じゃ、じゃあ、お兄さんと交番いこっか。タロウも待ってるかもしれない」

 「知らない人についていっちゃ駄目ってお母さんが言ってた」


 うーんどうするか。

 

 『とりあえず警察を呼んだらいいんじゃいですかね』

 「そうか?そうだな。じゃあ警察につなげてくれ」

 『了解』


 数分後、警官が一人やってきた。手を振り、存在をアピールする。

 

 「このこです」

 「責任を持って保護いたします」

 「やーだ!タロウを探すの!」


 タロウは俺が探すか。

 

 「タロウは俺が探す。特徴を教えてくれないか?」

 「タロウ、みつかる?」

 「君が協力してくれたらすぐにでも」


 俺の言葉を信じてくれたのかぽつぽつと特徴を話し始めた。


 「タロウはね足が四本あって」


 犬かな?猫かな?

 

 「おっぽがふわふわでね」


 ふわふわ。

 

 「ひょーひょーって鳴くの」

 

 ん?犬でも猫でもない?

 

 「毛並みはどんな感じかな?」

 「毛並みはね、シマシマ!トラみたいなの!」


 んー?まあ探して見るか。

 

 「わかったお兄さんが探しに言って見るね。ちゃんとおまわりさんの言うこと聞くんだよ?」 「うん。わかった!」


 わかってくれたか。よし。乗りかかった船だし捜すか。


 「イナバ」

 『はいな』

 「よくわからんがシマシマの動物を探すぞ」

 『今街中の監視カメラを覗き見してます』  

 「話が早くて助かる」


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