地獄の業火
獄炎が駅構内の空間を舐める。
「ここでだが、破壊属性の特性を復習しておこう」
「ここでですかぁ?」
「ここでだ。まずは安地を作ろう。【形成】」
社長が石壁を地面から生やし、獄炎から身を守る即席の盾を作った。
「【追加発注】」
さらに何枚も重ねて大きな壁を生み出す。
「さて、でははじめるぞ。耳の穴をひろげてよ~く聞け」
「はい」
「魔術は相殺することができる。同じ属性、反属性、相性はあるが基本的に相殺する。例外もあるが」
「たとえば例外はなんです?」
「重い物質とかだな。金属生成系術式は相殺が起きない。だから金属系術式は人気がある。まぁその金属も、溶けたり、発射の勢いが殺されたり、硬い壁で防がれたりするんだが、まあそれは置いておこう」
「例外はわかった。それが破壊属性と何が繋がるんだ?」
「普通の術式だと相殺が1:1として考えると破壊属性が入っている場合1:2、通常よりも多く相殺できる。比率は適当だ。だいたいだ。だいたい。通常よりも多く相殺できると考えてくれたらいい」
壁が溶け始めていた。
思ったよりも敵の攻撃が早い。
「いいか、破壊魔法同士がぶつかり合うと普通に消滅が起きる。このとき魔法の強度が弱いほうが負けることになる」
「当然ですね」
「炎は大きい範囲を巻き込める分、一点集中に弱い傾向がある。そこを突け」
「わかりました」
「では、作戦開始!」
壁から飛び出し、雷を撃つ。
目くらましのために撃った雷だからあたらなくても構わない。
社長の精密な射撃術式が獄炎使いの頭を吹き飛ばした。
だが、男も不死者だ。これくらいで死なない。
後ろに控える男たちが目の前の光景に動揺しているようだった。まずはじゃまな男二人を殺す。
砂鉄を集め弾丸を形成、男たちの心臓を狙って撃ちだした。
胸に弾丸を受けた男たちは二人仲良くあの世へと旅だった。
不死者は一人だけか。
見ると頭を破壊された男は頭を治し、ふたたび火炎を放とうとしていた。
「お前ら、よくも俺の仲間を…ッ!」
先に仕掛けてきたのはお前らだと言うのになんだその言い草は…。
まるで俺たちが悪いみたいな言い方だな。
「一旗あげようと上京してみればこんな目に会うとはな…、トウキョウ、怖ろしい所だぜぇ!」
落ち着いて、中心をよく狙え、敵の炎はわた飴みたいなものだ。
ふわふわとした魔力に鋭い一撃を与える。
構えた右手から雷光が漏れ出した。
貯めろ、まだだ、まだ開放してはいけない。まだ。
獄炎が目の前に迫ってくる。
焼け付くような熱を感じる。
喉が肺が、熱い。
眼前に白い、白い炎が―
「ここだ」
白い雷を右手から開放する。
打ち出された雷は炎に穴を開け、そのまま男を打ち据えた。
「ナッ!ニッ!」
一瞬にして雷に焼かれた男は焼け焦げた舌で言葉を紡ぐ。
「お前!不死者かッ!」
「だとしたらなんだ?」
男に雷を浴びせる。殺されかけたんだ。俺が逆に殺しても誰も文句は言うまい。
「アバババッ、ババレッ」
白い雷、破壊属性の雷を念入りに男に浴びせる。
男も抵抗するように白い炎を身に纏うがそれすら突き破って雷は男を焼き焦がす。
「ま、待っテくれ、死にタクナイ」
「人を殺そうとしてよく言えるな」
「カ、金ならやル…」
「金には困ってないんだ」
ぐちぐちとうるさい奴だ。
さっさと死んでくれないだろうか。
雷の出力を上げる。
そうすると男の身に纏っていた炎がだんだんと弱くなっていった。
「まだダ…こコで死ぬワケにはいかん!!」
男は起き上がり、雷で全身がこげていた体が信じられないほどの速度で回復した。
焼けて、出血していた箇所が健常な綺麗な肌へと変わり、炎が全身を包み込んだ。
男は、俺の方に向き直り、構える。
「まだ、ニュートーキョーに来たばかりなのだ。ここで死ぬわけには行かないッ!」
それを言ったら俺もまだ、このニュートーキョーに来たばかりだ。
それに社長が見ている前で無様な様子を見せるわけにはいかない。
そういえば社長は何処だ?
探して見れば社長はかなり離れた所からこっちを見ていた。
大声で何かをいっているが反響して聞き取りづらい。
その姿は、完全に観客モードになっている。
コンクリートを形成して作った椅子にゆったりと座り、何事かを喋っている。
「やれー!そこだー!」
聞かなきゃよかった。ただの野次じゃねえか。
何かためになることを言ってるかと思ったのに。
チクショウやるしかねえか。
敵はやる気に満ち溢れている。
だが、俺は一度奴の魔法を打ち破っている。
やれるはずだ。
やれる。
いくぞ。