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消失因子

 地図を頼りに地下鉄内の探索を続ける。

 

 道中沢山の魚人と探索者の死体が地面を転がっていた。

 地図を見て探索するというよりも死体を追いかけていくと言ったほうがはやい。そういう状態だった。


 「体のどこかが食いちぎられているな」


 死体の状態を見て社長が呟いた。

 みれば確かに必ずと言っていいほど体のどこかが食われていた。

 武器は折れ、砕けていることから、激しく抵抗していたことがよくわかった。

 

 魚人と人と魔獣、三つ巴の攻防が行われていたようだ。


 足元の氷塊を踏みしめ、先を急ぐ。

 氷結術式の影響か、空気が冷たくなっていた。

 息を吸えば冷たい空気が肺を満たし、吐き出せば白い吐息が口から漏れた。

 

 「ウォォォォォォォオオオオオオオン」


 トンネル内の壁をビリビリと揺らすほどの大きな遠吠えが聞えてきた。


 近い。


 社長と目線で会話して戦闘態勢を整える。


 連続して地面を蹴っているような足音が段々と近づいてくる。

 現れたのは二頭の狼だった。

 体高が社長の頭ほど、150cmはある大きな狼だった。

 

 早速、電撃を浴びせるも当たる前に掻き消えてしまった。

 俺の魔法が効果がない…?

 確認のため、さっきよりも出力を上げてもう一度雷を放出。 

 やはり途中で線香花火のように一瞬輝いたあとに雷は掻き消えてしまった。

 何かがおかしい。

 社長の様子を見れば険しい表情。


 魔法が効かないなら物理で。

 砂鉄を集めて巨大な拳を作り殴り飛ばす。

 

 拳が当たる前に失速、そのままばらけて、消えてしまった(・・・・・・・)


 社長が舌打ちをした。

 

 「面倒なことになったな」

 「あれをしってるのか?」

 「あの狼自体は何も珍しくない。ここ、ニュートキョーの北に進んだところにあるグンマーの森に住む、夫婦狼だ。グンマーの森には様々な魔獣や魔族が住み日々食った食われたの楽しい野生がある場所だ」


 すげえ行きたくない場所だな。

 

 「普通の夫婦狼は色が黒だが、目の前のアレは白だ。そして魔法を、砂鉄を消し飛ばす能力。そんな能力は夫婦狼には無い」


 狼が威嚇しながらじりじりと近づいてきた。

 

 「あれは何かの拍子に”消失因子”を取り込んでしまった狼だ」

 「消失因子?」

 「あとで話す。ソレよりも目の前にいる犬共を片付けることが先だ」


 狼が飛び掛ってきた。

 迎え撃とうと構えるが、


 「迎え撃つな!下れ!」


 悪寒。

 

 自分の感覚と社長の言葉に従って勢いよく後ろへ飛びのく。

 左腕に激痛。

 見ればごっそりと左腕が消えてなくなっていた。

 

 「消失に近づいたものは消えてなくなる。だから倒すなら遠距離攻撃が必要だ」


 消えた左腕が治らない。

 血は止まったがいつものように再生しない。

 

 「消失因子が一度に消せる量は決まっている。だから一気に飽和した量を浴びせる必要がある」

 「ここでできるんですか?」

 「無理だ。限られた空間では限られた量しか出せない。もっと広い空間に出る必要がある」

 「つまり?」

 「こいつらを引き寄せながらもっと下の階層にもぐるぞ」

 「わかりました」


 痛みを発し続ける腕を抑えながら着た道を戻り、三叉路へと向かっていく。

 三叉路の左を進み、坂を転がり落ちるように下り、どんどん下へと下ってく。


 「ぎょぎょぎょ!?」

 「邪魔だぁ!」


 魚人を殴り飛ばし壁の染みへと変え、その染みも消え去っていく。

 虚無空間の嵐に巻き込まれないよう先へ先へ歩を進める。

 消えたのが足じゃなくて良かった。

 この状況で走れなかったらもっと状況がまずい事になっていただろう。

 

 砂鉄を集め即席の義手を生み出す。

 走りながら調子を確かめる。

 

 うん。いつもの左腕と違ってエッジが効いているが無いよりはマシだろう。

 これで殴ることができればいいんだが殴りかかると俺が消されてしまう。

 それは避けなければならない。


 「不死者ってどこまで消されたら復活できないんですかね?」

 「試したこと無いからわからん。左腕も時間がかかるが直るはずだ。今は走れ。完全に消されたら復活とかできないぞ」

 「了ー解」



 地下、25階層に到着。

 大きな看板がソレを告げていた。

 広い空間にでた。 

 

 大きな広間には『きさらぎ駅』と書かれてた看板が下っていた。古い駅のようだ。

 古いがかなり広い空間には使われなくなった電車やトロッコが放置されている。

  


 ここならやれるはずだ。

 見れば夫婦狼も二匹そろって駅構内に入ってきた。

 逃げるのを止めた俺たちをそろって見つめながら近づいてきた。

 

 社長が両手から砂鉄を山のように生み出していく。

 生み出しながら社長は言った。


 「この空間すべてを使ってやつらに飽和攻撃をぶちかませ」


 社長の言葉に頷き、磁力を操る。

 砂鉄の嵐が夫婦狼を取り囲む。

 

 狼が吼える。

 

 嵐の中から抜け出ようと飛び掛ろうとした瞬間、攻撃を開始した。

 球状に狼を取りかこんだ砂鉄の内側から中心に向かって何本も刃を形成。

 狼の消失空間に砂鉄剣は消されるが、あまりの量にすべてを消し去ることはできなかった。

 砂鉄剣は夫婦狼の肉を裂き、骨を断った。


 狼が動かなくなっても念入りに砂鉄剣を突き刺していく。

 

 砂鉄の結界を解き、動かなくなった狼に近づいた。

 白い毛皮を赤に染め、ものを言わぬ死体と成り果てた狼から討伐証拠部位として、大きな牙を引っこ抜き、懐に収めた。


 「消失因子とは何か?という話だったよな」


 抜き取った牙を手で転がしながら社長は言った。

 

 「消失因子とはありとあらゆる物質を消し去る物質のことだ。これはコンピュータのゴミ箱のように、任意のものを世界から消し去るときに使われていた。何を消し去るかはその時々で違ったが、消し去るという目的だけは一緒だった」

 「なんで狼にそんなものが取り付いていたんだ?」

 「因子が拡散したのさ。因子に自我が芽生えてな。自我が芽生えた因子は生み出した主を捨て、この世界に飛び出した。結構な数を刈り取ったけどまさかまだ残っているとは思わなかった」


 社長は少し悲しそうに笑いながら言った。

 

 人のいない駅構内で雑談していると俺たちが入ってきた方向が騒がしくなってきた。

 見れば、人が三人、俺たちに向かって歩いてきていた。

 

 「談笑しているところすまないが魔獣を見なかったかね?」

 

 先頭に立つ男が俺に聞いてきた。

 すまないがお前の獲物はつい先ほど刈り取ってしまったのだよ。

 

 ソレをいちいち言うのも面倒だから、無言で狼の死体を指差した。

  

 「まさか、もう倒してしまったのかね?」

 「あぁ、そうだ。もう俺たちが討伐したよ」

 「それは、困ったな…俺たちが名を上げるのにふさわしいと思ったのに…」

 

 男はぶつぶつと呟きながら後ろにいる仲間たちを見た。

 仲間たちの雰囲気が剣呑とした雰囲気に変わっていく。

 

 俺と社長はゆっくりと準備した。

 俺は先の戦いで残った砂鉄を集め、社長は拳に光を灯した。

 

 「討伐部位も買い取りたい」


 男が言った。

 俺たちの判断はもちろん


 「ノーだ。自分たちで使う予定がある」


 社長の毅然とした態度に男は眉を上げた。

 

 「後で倍の金を払う」

 「信用できないし、金には困っていない」

 

 社長の言葉に後ろの仲間が剣を抜いた。

 男も剣を引き抜き俺たちに突きつける。

 

 「下手に出てればそのような態度…ゆるせん!」

 

 むちゃくちゃな事を言っているのはそっちのほうだが今は殴りかかってきた奴等を捌くのが優先だ。

 まだ治癒が始まっていない左腕で、切りかかってきた男の魔剣を払う。

 

 ハイエナ野郎が火炎術式を展開、俺と社長を獄炎の渦に包み込む。

 急いで展開した砂鉄の防御殻で防御、砂鉄が熱で溶けてしまった。

 

 砂鉄の緊急シェルターの中で社長と相談する。

 

 「どうします?」

 「殺す」


 端的な返答ありがとうございました。

 社長の殺意高いコメントにより男たちの行き先が決定。

 魂をあの世に送って差し上げろ。 

 

 だが、炎の放射時間が長くいまだ防御殻からでることができない。

 

 「長いな」


 社長の呟きに頷く。 

 熱が砂鉄を伝導して中も熱くなってきた。

 

 これ以上はまずい、地面に穴を開け、そこに退避する。

 退避が完了した瞬間、砂鉄の防御殻が消し飛ばされた。


 「社長!」


 狭い空間で抱きしめるような姿勢で意見を求める。

 

 「破壊属性の炎だな」


 ボソっと社長が呟いた。 

 なんだって?


 「ミチヒデ、敵は不死者だ。気合いれて戦え」



これから更新は基本火、木、土曜日にします。

どうぞこれからもよろしくお願いします

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