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迷った

 「まぁ、ようするに不死者は物理的要因では死なず、魔法的要因で死ぬって事だわな」


 魚人の体をあさりながら社長はいった。

 何かを探しているようだが、目的のものが見つからなかったらしい。舌打ちをしながら死体漁りをやめて、俺の方に戻ってきた。

 

 空中から水をだして手を洗っている。

 うまく汚れが落ちたのか満足げに頷いた。


 「魚人の体からはマギタイトの一種であるマリナタイトが取れる。稀にな」

  

 今回は取れなかったのだろう。

 ぬれた手を外套でぬぐい、腰のカンテラの光度を上げた。

 

 「ココから先は魚人との戦闘が多くなると思われる。今いたのは斥候だが、本隊とかち合ったときが本番だ」


 あまり嬉しくないお告げを言って前へと進みだす社長。

 その足取りはとても軽い。これからダンスでもしようかと言い出しそうなほどだ。


 「魚人たちは地下25層にある地底湖が本拠地だ。そこから上へ下へと勢力を伸ばしている。地竜はさらにその下、30層よりももっと深いところから来ていると思われている」


 社長の説明を話半分に聞きながら魔力から鉄を生み出す訓練をする。


 手のひらに湧き出る銀色の粒子。

 それを金属の花に置き換える。

 

 一枚、また一枚と鉄で手来た花弁が折り重なって一輪の鼠色の花が出来上がっていく。

  蓮の花にも似たそれは金属らしくずっしりとした重さだった。

 

 いつの間にか社長の歩みは止まりじっと俺の手のひらに咲く花を見つめている。

 手を伸ばし花に触れてきた。

 社長の手が花に触れた瞬間、花はぼろぼろと崩れてしまった。

 

 「造りが甘い」


 ダメだしされた。

 もっと丈夫な造りにしないといけないようだ。 

 触れただけで崩れてしまうようでは戦闘に使えない。


 「練習もいいがちゃんと周囲の状況に注意しろよ」

 「大丈夫です。ちゃんと注意してますから」


 ヒタヒタと水が滴り落ちるような音がトンネル内に響いた。


 「新手だ。戦闘準備!」

 「了解!」 

 

 社長の注意喚起を聞き、戦闘準備をする。

 鉄の花を捨て、砂鉄を拳に集め社長の隣に出る。

 

 暗闇の中から術式陣の光りが見えた。

 闇の中から氷の刃が五枚、飛んで来た。

 

 雑な狙いだったのか中央の一枚以外は動かずとも避けることができた。

 中央の一枚を社長が殴り砕く。

 

 「行けぇ!ミチヒデ!」

 「はいっ!」


 魚人の出していた術式光を頼りに殴りかかった。

 魚人の滑った横面を思い切り殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた魚人は壁に叩きつけられ、声無き悲鳴を上げて絶命。 

 残る魚人に雷を飛ばす。

 一瞬の雷光の後に漂う焦げた臭い。

 雷に打たれた魚人は全身から焦げ付いた体液を流して絶命していた。

 

 焦げた臭いが鼻を突く。くさい。

 臭いを我慢して次の魚人を殺しに行く。

 

 「おらあ!」


 社長の拳が魚人の術式を砕き、そのままの勢いで魚人の体を破壊する。

 拳が触れた所から砂のように崩れていく。


 「ギョギョギョ…」


 魚人がのたうちまわり、絶命。

 残る魚人は三匹。

 

 砂鉄を巨大な拳に形成、三匹を同時に殴り飛ばした。

 砂鉄の拳が魚人の全身の骨を砕き、内臓を破壊し、そのままの勢いで壁に激突。

 魚人は力を失ったように動かなくなった。

 

 「そこそこ多かったが、まぁ大した事ないな」

 「ですね」


 魚人の装備を確認するとそこそこ新しい装備だったことが分かった。

 

 「魚人が対刃ジャケットを着ているだと?」

 「何か驚くことなのか?」

 「こいつらは人間の装備を着ることなんてなかった。これは魚人たちの仲で何かが起きたのかもしれない」

 「そういえばサブの武器も人間が使うような魔短剣を持っているな」

 「ふむ。まぁ、装備が変わっていようがやるべきことは変わらない。見つけ次第殺せ。殺られる前に殺れ。だな」

 「了ー解」


 マリナタイトが取れないか魚人の体を調べる。


 「マリナタイトってどこら辺に出来るんですか?」

 「肝臓あたりに出来る。思い切って手を突っ込むといい」


 えぇ、これに手を突っ込むの?

 いやだなぁ。


 思い切って、手を突っ込んでみる。

 すると硬い感触があった。


 これかな?

 

 手を引き抜いてみてみると手で握れるサイズの青色の小石が握られていた。

 

 「社長!」

 「お、見つけたな。マリナタイトは魔弾作成のときに使う鉱石だ。あれば、ある分だけ買い取るから持っておけ」

 「社長にあげますよ」

 「お前が見つけたんだからお前のものだ。それよりもホレ、水を出すから手を出せ」


 社長の出してくれた水で手を洗い、清める。ついでに石も洗った。

 石には強いぬめりがあって洗ってもなかなか落ちない。

 

 「この布を使え。」


 布を借りてごしごしとぬぐう。

 ぬめりは段々と無くなっていく。

 

 「しつこいぬめりだな」

 「もう水いいか?」

 「いいですよ」


 綺麗になったマリナタイトは心なしか、少し光っているように見えた。

 鉱石を仕舞い、再びトンネル内を探索する。

 

 「ん?」


 線路の上に魚人や、人間の死体が折り重なるように倒れていた。

 死体は頭や、腹など、一部分が食いちぎられている。

 魔武器は半分に折れ、床に散らばっていた。

 

 壁には爆炎の焦げ目や金属槍が突き刺さっていることから激しい戦闘がここで起こっていたらしい。

 

 「金属槍が残っている」

 「まだ、この惨劇をもたらした魔獣が近くにいるかもしれない」


 社長と言葉を交わし、警戒しながら歩を進める。

 社長の足が止まった。

 何か、あったのかと顔を見ると、めずらしく思案顔をしていた。


 目の前には三本の道があった。

 社長は顔を曇らせながら口を開いた。


 「残念なお知らせがある」

 「なんです?」


 まさかな。頼むからあの言葉だけは言わないでくれよ。迷ったとかやめてくれよ。


 「私の記憶ではココから道は二つに分岐するはずなんだが三つに分岐している」

 「迷った?」

 「迷ってない。今なら普通に帰れる」

 「帰ります?」

 「ここまで来てか?」

 「それもそうですよね」

 

 社長は携帯端末を取り出し操作した。

 端末からでた光りの格子で複雑な立体迷宮が描かれた。

 

 「これが地下鉄迷宮ですか」

 「古い地図だ。やはりこの地図ではここは二つに分岐している。私の記憶は間違っていなかった。どうするか…」


 社長は悩んでいる。

 このままマッピングしながら進むのか、それとも帰るのか。

 ここまできて、そのまま帰ることはしたくないな。

 

 社長が何かを思いついたのか、地面を転がっている死体の装備をあさり始めた。

 取り出したのは携帯端末。

 なるほど、現役だった魔術師達の地図を使うつもりか。

 

 端末を操作しながら社長が呟いた。

 

 「ロックはずれねえ」

 「ちょっと貸して下さい」


 所詮は電化製品だ。電気信号を操れる俺の前ではロックなど障子のようにあけられる。


 電気を流した瞬間、端末から煙が上がり、パンと音がして破裂した。どうやら電気が強すぎたらしい。

 社長の攻めるような視線が俺に突き刺さる。

 

 「練習です練習!次行こうぜ!」

 「まぁ、確かに端末はあと四台あるけどさ、壊すなよ」


 



 ■□■


 

 結局四台全部壊した。

 社長に殴られた。

 痛い。


 「全然駄目じゃねえか!」


 社長が肩を殴ってくる。

 社長の体躯が小さいからか一発の衝撃は少ないが、体を『破壊』でぶち壊してくるのでとても痛い。

 

 そうやってギャーギャー騒いでいるとカツカツと靴が地面を蹴る音が聞こえてきた。

 じゃれあいをやめて、即座に動けるように構える。


 「攻性魔術師の方ですか?」

 

 声が暗闇の中から聞こえてきた。

 

 「今からそちらに向かいますので攻撃しないでください」


 続いて、走ってくる音が反響して聞こえてくる。

 そうして闇の中から一人の男が出てきた。


 男は魔力灯着きヘルメットにリュックサック、腰には閉所でも動きを邪魔しない魔短剣と地下鉄迷宮に対応した装備を身につけていた。

 

 「私は地図師のマルです。この先は強力な魔獣が出現しているため行かない方がいいですよ」

 

 心配そうな顔で今の状況を伝えてきた。

 俺たちの目的はその魔獣を狩ることなので問題ない。


 「私達の目的は魔獣狩りだ。だが、地図が無くて先に進めないんだ。だから地図を買い取りたい」

 

 社長の端的な言葉にマルは驚いている。

 じろじろと俺と社長の軽い姿に心配しているようだった。


 「地図を渡すことは問題ありません。ですが魔獣狩りはオススメしませんよ。今地上にいる強い魔術師達に依頼を出しているほどですからね」


 「全く問題ない」


 そうですか、といいながら端末を出して、社長の地図と同期させる。


 「ここの右側の道をいくと魔獣がいるはずです。気をつけてくださいね」

 「はいよ。ありがとうこれで先に進めそうだ」

 「私はこの状況が落ち着くまで潜るのをやめます。地図師はほとんど地上に帰ってるので私に会えたのは幸運ですよ」

 「そうかい。じゃあこの出会えた幸運をかみ締めながら討伐するよ」

 

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