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不死者も死ぬ。

「魔法が魂の代わりなんだ。なら、その魔法を『破壊』すればいい」


 社長の目が怪しく虹色に輝き、その手には白い光が生まれていた。

 手を動かすたびに空間に亀裂が生まれ、何も無い、虚無の空間が亀裂の隙間から見えた。

 

 「正確に言おう。魔法には核が存在する。その核を破壊すればいい。核は物質だったり非物質だったりするがどっちも弱点と考えていい。相手の核を探すんだ」


 待てよ。魔法が破壊されるのが駄目なら俺は自分の弱点で攻撃していることにならないか?

 

 「そうだ。魔法使いは皆、弱点を使って殴り合っている。最大の攻撃でもあり、弱点でもある。だから皆魔法が使えるのに、魔術も使うんだ。魔法を使えば使うほど弱点が見えてくる。特に弱点が物質系だった場合それが顕著だ。弱点がばれたら全力で逃げろよ。逃げに入った不死者はゴキブリ並のしぶとさを見せる」


 命あってのものだねだ!と高らかに笑いながら社長は拳を収めた。

 やばくなったら逃げる、か。


 『やばくなったら逃げる。いつもやってましたねぇ』

 

 イナバの言葉に俺は今はもう無い故郷を思い出した。

 あの時はやばかった。

 どこを見ても敵がいたし、逃げ場らしい場所も無かった。

 あのころと比べたら今は仲間もいるし逃げ場もいっぱいある。天国だ。

   

 「まぁ逃げれないときのほうが多いけどな」


 社長、すぐ手のひらを返すのはやめましょうよ。

 全力で逃げてもしょうがないときってどんな時ですか。


 「実力が圧倒的に上の相手から逃げるのは困難だからな」

 「つまり?」

 「つまり逃げるより戦って死ねってことだよ」


 わかりやすくて涙がちょちょぎれそうだ。

 

  

 


 今やることは地下鉄内に入り込んだ化け物退治だ。

 用事を思い出し暗いトンネルの中を進む。

    

 破壊属性は物質破壊に秀でている。

 この破壊をどうやったら物質でない『核』を破壊できるようになるのか。

 社長はどうやら教えてくれないようだった。

 自分で見つけろってことか。

 

 まずは自分でやってみる。

 指の間を雷が走る。ビリビリ。

 

 両腕に走らせる。ビリビリ。


 雷をいじり続けて一時間、15階層にたどり着いた。 

 ここにきて人の数が一気に増えた。

 

 どうやら目的の化け物はここにいるらしい。

 

 「こんなところまできてデートか?坊主にお嬢ちゃんン?」

 

 でかい斧を担いだひげ達磨が俺たちに話しかけてきた。

 その手にはアルコールと思われる液体が入ったビンが握られている。

 その息は酒臭かった。

 

 社長の眉にしわが寄る。良くない兆候だ。


 「おじさんと一緒に行かないか?そいつよりも役に立つと思うぜェ?」


 髭達磨はしつこく絡んでくる。

 社長の拳が動いた。達磨の顔を容赦なく殴り飛ばした。

 まさか、急に殴られると思っていなかった男は何度も地面を転がり床を舐めた。

 気絶したのかぴくりとも動かない。 


 見ていた魔術師達は何が起こったのか理解できていないようでシンと静まり返っていた。

 

 「うぜえし、くせえし、手が汚れた。最悪だな」


 吐き捨てるように言って。拳の汚れをハンカチでふき取った。

 社長の目にはもうだれも写っていないようだった。

 無言で先を急ぐ社長のあとに続く。

 

 魔術師達の目が興味から恐怖に変わっていた。

 

 「自分の実力も理解できていないから地上に上がれない。なぜそれがわからないのか」

   

 社長のつぶやきが波紋のように広がった。

 恐怖の感情が怒りに変わった。

 

 「舐められたままでは終われないよな」

 「コケにされたままで終われない!」

 「相手が女子供だろうがぶっ殺す!」


 次々に武器を握り、魔術師達が立ち上がる。

 

 「ミチヒデ、魔力について話をしよう」

 

 社長は拳を構えながら言った。その拳には光が宿っていない。


 「魔力とはありえないものを現実にする物質だ。一般的には魔力といわれているが正式名称は『X粒子』という。」


 振り下ろされた魔剣の一撃を剣の横腹をたたくことで反らして回避。

 そのまま講義を続ける。

 

 「X粒子のXはなんにでもなれるという意味のXだ。火とか水だとかそういうものになれるってな」

 「X粒子で魔法は再現できるんですか?」

 「無理だな。できてたらみんなやってるだろ」


 飛んできた投げナイフを掴み取り同じ方向に投げ返した。

 社長の死角をカバーするように動く。 


 「面白いことに何にでもなれる物質なのに使い手がわで得意不得意が現れるんだ。火が得意で金属を生成できないとか、雷が得意だけど磁力が操れないとかな」


 社長の言葉を聞いて考えてみる。

 俺は雷術式が得意だ。俺の魔法も関係しているだろうけど。

 術式とか理解していないのに、感覚で雷や磁力を操作することができる。 

 反面、鉄、金属の生成が上手じゃない。

 もっとうまくできたらいいのに、と思う場面が結構あったがないものねだりをしてもしょうがない。

 

 社長はどれもできるようだ。

 今だって金属針を生成して投げている。

 

 「苦手だからってやらないのはやめておいたほうがいいぞ」


 社長は俺の心を読めるのか?

 たまに心の声に返事をしているような気がする。

 だが、社長の言葉ももっともだ。

 これからは鉄の生成も練習しよう。

 

 今はこの魔術師の中を抜けることだけを考えよう。

 

 みれば残る魔術師も少なくなっていた。

 少数になった魔術師達も戦意が見られない。


 転がっている魔術師達も気絶しているが目だった外傷はなかった。

 

 「なんだ、もう終わりか?」

 

 退屈そうに社長は呟いた。 

 残った魔術師達に近づいていく。一歩ずつ、ゆっくりと。

 目の前で立ち止まると、魔術師は地面にへたり込んでしまった。

 

 社長はへたり込んだ魔術師に視線をあわせて聞いた。


 「現れた魔獣ってのはどこにいるかしってるか?」

 「し、知りません。こ、これから狩りに行くところでした!」

 「そうか、そりゃ残念だ。じゃ、いいや。ミチヒデ、いくぞ!」


 もう興味も失せたのかつまらなさそうに立ち上がると暗闇の中、魔獣を探しに再び歩き出した。


 ■□■


 「魔力、X粒子は生命力から生み出される。では生命力とは何か?わかるか、ミチヒデ」

 

 生命力?不死はすでに死んでいるから生命力なんてないはずだ。

 でも不死者にも魔力はある。

 

 「強い意志だ。何らかの強い意志が魔力を生み出す。不死者を動かすのは無限に湧き出る魔力だが、これは脳の何らかのリミットが外れているからできること。らしい。私にはよくわからんが。普通の定命者だと同じ意識を保ち続けるのが難しいようだ。だから、魔弾が必要なんだ」

 

 社長は手のひらから虹色の輝きを放つ粒子を生み出した。


 「これがX粒子だ。これが私たち不死者の体を動かしている」

 「綺麗ですね」

 「人によって輝きが違う。銅、銀、金、虹の順で濃度が高くなっていく」

 

 虹色を放つ粒子が一瞬にして鉄に変わった。

 

 「こうして今、X粒子が鉄に変わったわけだが、永久的に存在するわけではない。時間がたつにつれ段々と薄まっていき、最後には消える」

 「どのくらい残るんだ?」

 「私ので大体一時間くらいかな。」


 なるほど。ってことは常人はもっとみじかくなるな。

 半分の30分くらいか。


 もっと短いかもしれない。

 

 社長は鉄を思い切りぶん投げた。

 投げた鉄は何かにあたり地面に落ちた。

  

 「ギョギョギョ!」

 「お、魚人だ」

 

 魔力灯の灯りに魚人が浮かび上がった。

 魚人はヒタヒタと近づいてくる。 

 より近くに来るとその見た目がわかった。

 感情のない大きな瞳、薄くぬれた青い鱗、水かきがついた骨ばった手。手には三叉槍が握られていた。

 薄い粘液を床に落としながら魚人は槍を振るった。

 槍の先に術式陣が灯り、光を放つ。


 大きな氷の球が空中に出現、俺に向かって落ちてきた。

 

 魔力を感じろ。いや、今は無理。

 砂鉄で拳を覆い、氷塊をおもいきり殴った。

 氷解の造りがあまい。

 多量の空気を含んだ氷塊はたやすく破壊できた。

 

 そのままの勢いで魚人を殴る。

 魚人は超至近距離で槍をうまく振るえない。

 水を打ったような音がトンネル内に響く。

 そのまま拳を覆う砂鉄を超振動。

 傷口を大きくえぐった。

 

 「―ッ!」


 声なき叫びを上げながら魚人は絶命。

 隣では社長が残る魚人の頭を殴り飛ばしていた。


 魚人は奥の、社長の鉄遠投にやられたやつを含めて三匹か。

 

 「準備運動にもならないな」

 「知的生物だと聞いてましたがたいしたことないな」


 俺の言葉に社長が笑う。

 

 「まぁ、たしかにたいしたことない奴等だよ魚人はな。だがこいつらはただの斥候だ。戦士クラスになるともうちょっと苦戦すると思うぞ」


 まぁ、油断しないようにしよう。

 

魔力灯

電池の代わりに魔弾で光る手持ちの懐中電灯。

七級魔弾で連続一週間くらい光り続ける。

暗所の強い味方

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