3.ルート選びは慎重に
高尾山口駅から細い道を少し進むと、すぐに高尾山の登山口が見えてきた。
人でごった返した山の玄関には「ようこそ! 高尾山へ」と描かれた横幕が飾られたケーブルカーの【清滝駅】がある。駅ではケーブルカーで上まで行こうとする人たちが列を作っていた。
「すっごい人が多いね」
「九年前に来たときは、静かな雰囲気だったんだけどな」
ケーブルカーは朝の八時から十五分おきに運転している。ちなみに頂上までレールは続いていない。標高五百メートル弱まで登り、そこから頂上までは三十分ほど歩くことになる。
ひとまず俺たちは木製のベンチに荷物を置いた。登り始める前に準備運動だ。十分に体をほぐしたら、俺は足首まで覆う登山靴の靴紐をきつく結び直す。それと優のトートバッグを俺のザックの空きスペースに無理やり詰め込む。これで準備万端だ。
「どこから登るの? あっち、そっち?」
「そうだな……」
ここから頂上を目指す場合、ルートは大きく三つに分けられる。
一つ目は『一号路』。車も通れる舗装された道で比較的歩きやすい。始めは緩やかな登りが続くが、すぐに急な勾配に豹変する。最初の三十分ほどはきつい道のりだが、その後はほぼ平坦な道になる。高尾山のメインコースであり、もっとも利用者が多いので一番安全なルートと言えよう。
二つ目は『六号路』。一号路とは打って変わって自然の中を沢沿いに歩くコースだ。沢の流れる音と虫の声を聞きながら涼やかに登れるルートである……が、後半にかけて登りが急になっていくのでペース配分は注意が必要だ。途中にはこのコースの見所の【琵琶滝】があり、志願すれば滝行ができるらしい。
最後は『稲荷山コース』だ。登りあり下りありの、三つのコースの中でもっとも本格的な登山を味わうことができる。コース途中には休憩のできる東屋があり、そこからの展望は八王子市街を見渡すことができる。一番きつい登山路であるが、距離は他の二つのルートに比べると少しだけ短い。
どのルートでも頂上までは一時間から一時間半はかかる。
「部活のオリエンテーションとやらは、どのルートから登るんだ?」
まさかケーブルカーを使うとかはないよな。
「そこまでわからない。高尾山の頂上に行くとしか聞かなかったら」
随分とアバウトだな。
どのルートが適しているか考える中で、俺は優の靴をじっと見つめた。
「そのスニーカー、汚れてもいいか?」
服装は赤点であったが、靴に関しては及第点だった。できればトレッキングシューズぐらいは用意してほしいところであるが、仮入部の段階でそこまで求めるべきではない。
「うん、学校の体育の授業で履くやつだから、別にいいけど」
なるほど。もし「新品の靴だから汚したくない!」と言われたら一号路確定だった。汚れても気にしないのなら、どのルートでも問題ない。
「それじゃ稲荷山コースでいくぞ」
せっかくだから一番山っぽいルートでいいだろう。
「ラジャー!」
意気揚々と腕を上げる優とともに、俺は七年ぶりの山道へと足を踏み入れた。