表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/22

第8話 幼子と剣王、そしてメイド

マリーと約束をしてから、1週間が過ぎた。


今日は剣の先生を呼んでいるらしい。


「アズベルさん。こちらが本日、剣を教えて下さるアラン・ラッセル先生です。」


うえっ?マリーったら、凄い人を連れてきたな。


アラン・ラッセル。

現役時代は国軍に騎士として所属し、総軍隊長を務めた剣の天才だ。

今は確か引退して隠居中だったような…


「宜しくお願いします。」

「ほほう。この幼子がグランの息子か。魔法についてはまるで化け物の様、その他の吸収も速い子供…とてもマリーさんに聞いたとおりには思えんのう。可愛らしい子じゃ。」


マリー、何言っちゃってるの?!

僕、そこまで凄くないよ?!


「アラン様、アズベルさんをあまり軽んじない方が良いと考えます。」

「ほう。マリーさんにそこまで言わすのか。」


そう言ってアランは、僕を品定めするかのように眺めてくる。


「っ!」


少し怯んだが、平静を装っておいた。


「フハハッ!まあ良いわ。手合わせすれば分かる事。」


えぇっ?アランさん、この3歳の子に対して手合わせですか?


大人げないの限度超えちゃってるよ!?

下手すりゃ僕死んじゃうんだけど?!


「アラン様っ!」


マリー!そうだ!無理だって言ってやれ!


「手合わせは構いませんが、限度をお考えになられるようにお願いします。」


おい、マリー?!なに妥協してるんだよ!無理だよ!怖いよ!


…ちっ!どうせやるに代わりは無いんだ。せめて、怪我だけは防いでやる。


「分かりました。お手合わせ、宜しくお願いします。」

「了解した。」


…あれ?マリーさ、ん…?


何か引っかかるものを感じたが、戦闘に向けて思考を入れ替えた。




      ◆◆◆




手合わせとはいっても立派な戦闘になるので、僕のワープで森の空けた場所へと移動した。


春風が爽やかに吹く最中、二人の男が対峙している。


片や、剣王とまで呼ばれた剣の天才。

片や、いくら魔法の才があるといえども、まだ3歳の幼子。


そんな掛け離れた二人が剣を構え、真剣に向き合っている姿は、おかしささえ感じる。


しかし、その溢れ出る緊迫感は本当のものであった。


くっ!怖いなぁ。さすがは剣王か。

気迫が尋常じゃない…

だが僕も戦うからには、みすみす負ける訳にはいかないんだ。勝って、マリーに褒めて貰うんだ!抱っこして貰うんだ!


アズベルくんは、もう完全にマリー大好きな子供である。



      ◆◆◆



ほう。気迫だけで圧倒させ、戦闘は無しにするつもりだったのだが…さすがはマリーさんが認めるだけはあるかのう。


剣王は目の前の幼子に対し、見解を改めた。


初擊で気絶させるとするかのう…


目を細め、戦闘に備える剣王。



       

       ◆◆◆


 

戦闘準備を進めよう。生半可なものじゃ、すぐにやられてしまう。


まずは身体全体に身体強化を掛け、身体能力と防御力を高める。


その上に防護障壁を複数展開。


そして渡された木刀に魔力を纏わせて、強度と切れ味を上げる。


この戦い、端から見れば絶対に幼子には勝ち目はないと思うだろう。


だが、僕はただの幼子じゃない。

この世界の創造主。


もちろん、アランの剣技を考えたのも僕だ。アランは二刀流で速攻での攻めを得意とする。


そのせいあってか、受けが若干弱いのだ。


タイミングを外された時に攻撃を防げない可能性がある。


まあ、アラン程の剣技を持つ者は少ないから、その弱点は全然脅威にはならなかったのだが。


多分アランは僕を初擊で気絶させにくるだろう。


それにタイミングを合わせて初擊をかわして攻撃を仕掛ければ、倒す事が可能になるかもしれない。


僕は最初で最後の一撃に集中する。


身体強化で動体視力を上げ、足には魔力を溜めて魔力爆発への準備をする。


緊張感が高まりに高まった後、アランは目で合図した。


集中せよ!集中せよ!集中せよ!

 

ドクンドクンと、自らの心拍音だけが聞こえる…


      ◆◆◆



「それでは、始め!」


開始と共に音も無く地面を蹴って飛び出したのは剣王だ。


二刀の木刀を構え、アズベルへと迫ってくる。


普通では視認出来ない様な速さで迫る剣王を前にして、アズベルは落ち着いていた。




見える…見えるぞ!アランの姿がゆっくりに見える!


視力の強化による能力は、素晴らしかった。しかし、目でいくら見えようとも、肉体がついてこなければ意味が無い。


脚力を爆発的に高めて魔力爆発も用いてようやく動き出せたのは、アランがこちらに攻撃を当てる距離まであと3メートルを切った所だった。


木刀を振り下ろす剣王。


ぎりぎりのところで、身体をずらす様にして避ける。


ぐっ?!


剣による風圧が障壁を揺らす。


だがすぐに体制を立て直し、強化した木刀で胴へめがけて一閃…



      ◆◆◆



なっ?!儂の剣を避けおっただと?!


アランは突然の事に驚いていた。

絶対にあり得ないと思っていた事が起こったのである。


しかもその後、剣の風圧を押し殺しこちらへ斬りかかってきたのだ。


思わず危機感を覚えたアランは、すぐさま回避体制へ移ろうとする。


しかし、剣は見る見るうちに迫り…



      ◆◆◆



バリィンッ!


防護障壁の砕け散る音の後、



ドガッ!


鈍い音が響いた。






…戦いを制したのは、剣王であった。




      ◆◆◆




アランは剣を受ける直前に、負傷覚悟でアズベルに素手で殴りかかった。


剣では不利を感じ、近接戦闘に持ち込んだのである。


本能的に殴ったため魔力障壁は砕け散り、アズベルに拳は直撃してしまった。


魔力障壁により威力は落ちてはいたものの、幼子一人殺す為には充分すぎるものであった。



      ◆◆◆



地面にぶつかったまま、動こうとしない幼子。


最悪の事態を感じた剣王はとっさに、固まったまま立ち竦んでいる若い女に叫んだ。


「早くアズベルくんに治療を!」


崩れ落ちる剣王。


地面には、赤いシミが出来た。



     ◆◆◆




そんな…嘘でしょ…?


あまりの出来事に、呆然とする。


早く治療に向かわなければ、あの可愛らしい幼子が死んでしまう。

そう分かっていても、足は動かなかった。


何もできない悲しみに、女はただ泣くことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ