第6話 まずは魔力を増やしましょう
「う、うーん。」
呻き声と共に意識が覚醒する。
柔らかな物体に顔が当たっていた。
そこはマリーの腕の中だった。
うん。赤ん坊だからこそ可能なんだ。
貴重な経験が出来た事に感謝しよう。
「はぁ。疲れた。身体が怠いよ。」
「全く、まだ赤ん坊なのに無茶するからです。」
マリーは少し怒りながら、僕の髪の毛を弄ってきた。
「悪かったよ。次からは、気絶しないように上手くやるよ。」
「魔法を使うのを、控えて下さいと言っているのです!」
マリーは半分呆れていた。
それから、時は流れ…
◆◆◆
今日は、僕の1歳の誕生日だった。
といっても、盛大には行われず、母さんと兄さん、マリー達だけでささやかに祝ってもらった。
父さんは仕事で参加できなかった。
最初は仕事を休んでまで参加しようとしていたが、母さんに怒られて凄く悲しそうな顔をしながら、家を出て行った。
そして、今、僕は自室の窓際から、夜の月を見ている。
窓の位置は、僕の背よりも高い。
冷たい夜風が身体を撫でていく。
「時は早いものだなぁ。もう1年たったよ。」
「赤ん坊のくせして、アズベルさんは何を仰いますか。どこか、伯父さん臭いです。」
失礼だな。これでも前世と合わせたとしたら、18歳になったんだぞ!エロ関係し放題なんだぞ!
「しかし、自分でもこの1年はよく頑張ったと思う。」
「確かにそうですね。まさか魔力を増やすためには、魔力切れの状態になることが有効だとは思いもしませんでした…」
まあ、そうだよな。大抵の人は魔力を増やす前に、魔法の訓練をし始めるそうだし。
それに、魔力切れの状態になるなんて命の危険性は無いものの、気絶し続ける事に代わりはないからな。
気絶してたら金を稼げなくなる。
普通の人は、しない訓練法なんだろう。
僕の場合は自分の仕事が、よく食べ、よく遊び、よく眠ることだったので毎日気絶しても大丈夫だった。誰かに気絶中を見られたとしても、眠っている、で通せたからな。
日に日に、気絶までの時間が長くなり、魔力の増えを実感できた。
半年くらい続けると、魔力切れになっても気絶することが無くなった。
まあ、身体はもの凄く怠くなるのだが、動くくらいは可能になった。
そして、現在。
「まあ、僕が赤ん坊だったって事も良かったんじゃないのか。」
「どうしてです?」
「いや、赤ん坊っていうのは最初もの凄く弱い状態で生まれてくるだろ?どうしてだと思う?」
「え…それは…分からないです。」
「僕は、赤ん坊がどんな環境にも対応できるように、というのが理由なんじゃないかと考えている。」
これは、前世で学んだ事だ。
実際、人は生活環境によって視力が異様に良かったり、特定の毒物に対しての耐性を持ってたりする。
「なるほど。言われてみれば、そうなのかもしれませんね。」
「この1年では魔力を増やす事に専念した。今後も魔力を増やし続けるつもりだが、次の1年は細かな魔力制御を訓練しようと考えている。」
今までは、適当な魔法をただ放つだけだったからな。今からは魔力切れに持ち込むまでの時間を有効に活用してやる。
「まったく、どこまで向上心があるのやら。恐れ入るばかりですよ、アズベルさん。」
「フフッ。僕は、単に魔法が好きなんだ。それに、毎日やることがないから暇つぶしに、っていうのもあるしね。」
「暇つぶしに、って…はぁ、いかにもアズベルさんっぽいです。」
そしてマリーは、声のトーンを落として呟いた。
「そのうち、化け物にでもなるのかしら…」
おい、聞こえてるぞ。
…まったく。マリーは、俺をなんだと思っているんだ。
「まあ、焦らず頑張っていくよ。今日はもう疲れたから寝るとするよ。」
「はい。お休みなさい、アズベルさん。」
そう言って、僕は眠りについた。
マリーの腕の中で、柔らかな枕に頭を乗せて。