プロローグ
降りしきる雨の中を、彼らは村に帰って来た。
誰もが無言だった。帰って来た者も、それを迎える者も。
重苦しい空気が周囲を包んでいた。
部隊の先頭に立っていた戦士は、絞り出すような声で報告をする。
「被害は戦死者5名、重傷4名、軽傷3名……」
事務的に報告すると、また戦士は沈黙する。
「御苦労だった。ゆっくり休んでくれ」
出迎えにでた初老の士官(おそらく司令官なのだろう)は戦士に労いの言葉をかけ、そしてゆっくり、無言の帰還をした5名の戦士の亡骸を見つめる。
「まさか、ゲイルまで……」
「ゲイル隊長は撤退の最中に敵の毒矢を背中に受け、それがもとで……」
老人の視線は5人の中でも特に立派な武装をしていた、銀髪の戦士の遺骸に注がれていた。
立派なバスタードソードに上質の革鎧を着用しており、肩に付いていた腕章は彼が隊長であった事を示していた。
その物言わぬ亡骸の傍らに少年が立ちすくんでいた。
年の頃はまだ10才くらいと言ったところであろうか。足元に横たわる亡骸と同じ銀髪が、ふりしきる雨に濡れそぼっている。
彼は矢を握り締めて、声も出さずに泣いていた。
矢は先端が紫に変色している。恐らくは毒矢なのであろう。
「兄ちゃん……」
少年の手に力が入り、握っていた矢が折れる。
「許さない……許さないぞ、エルフども……!」
雨が振り続いていた。
戦士達の死を、天が悲しんでいるかのようだった。