軽自動車
掲載日:2015/04/05
私と彼は夜の静寂の中にいた。社会人になったばかりの彼は中古の軽自動車しか買えなかったが、たった二人でいるのだから大学生の私にはそれで充分であった。もっとも当の本人は高級車にぬかされるたび悔しそうにしていたが。その日、軽自動車は暗闇の中、私と彼の動きに合わせて揺れた。待てなかったし、二人にとってそれ以外の場所はなかった。そして二人でそっと抱き合った。暗闇は深く、大きく、先が見えず、私を不安にさせたが、事を終えた後の暗闇はなぜか澄みきっていた。月と星といくつかの街灯だけが明るく私と彼を照らしていた。それは神秘だった。あぁ、これが愛かと私は考えた。彼はただその疲れを受け止めている。私は一人でみずみずしい夜を彼の腕の中で堪能する。あまりにも幸せだとこの後がこわい、なんて考える。月の居場所を探したが、彼の腕の中からは見えそうにない。しかし私がつくる影が彼の上にある。ああ、月はいるのだ。




