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ヤヨイ、仕事をする。

「ちょっとだけだから、いいでしょ……ね?」


夜の繁華街、星が瞬くのを控える程明るいこの時間はヤヨイが仕事をする時間でもある。

ネオンがぎらぎらと光り、酒と女を求める下劣な獣が彷徨く。ヤヨイはターゲットの男性に声をかけた。香水を纏わせた身体を押し付け、上目遣いで相手の欲を煽る。キャミソールのホットパンツは少し肌寒いが、仕事なら仕方ない格好だ。男性はまんまと乗ってきた。ヤヨイは路地裏へと入っていく。ターゲットの男性は薄気味悪い笑みを浮かべて彼女についていく。行き止まり、壁に凭れて彼女は相手を見る。男性は上着を脱ぎ、刺青が入ったヤヨイの左肩に手をかけた。

それを合図の如く、ヤヨイは耳を両手で押さえた。


刹那、目の前の男性の首が右へ曲がった。銃声が響き、ヤヨイの頬に穢れた血が付着する。


ターゲットの男性はだらりとヤヨイの方を掴んでいた腕を落とし、その場に膝から崩れ落ちた。どさり、と体重に合った音がして身体をびくびくさせながら首からどばどば血を吐いている。鉄臭い、ヤヨイは腕で鼻を押さえた。気持ち分後ずさりする。すると、向こうから誰か来る音がした。暗くて良く見えない、この状況を見られてはまずい。ヤヨイは咄嗟に後ろのポケットからナイフを取り出した。

その人物は血をぴちゃり、と踏み、気にせずヤヨイに近づく。月明かりに照らされたその顔は、ヤヨイの見慣れた顔だった。鋭い目尻、左目の泣き黒子。左鎖骨の上にある、彼女とお揃いの刺青。ばさばさした白髪をうなじの上で小さく束ねている。銃はスナイパー用のものを抱えていた。


「ツルギ!」


ヤヨイは安堵し、ナイフを下ろす。ツルギはヤヨイの頬についた血を指で拭ってやり、着ていた黒いジャケットをかけた。ヤヨイはいそいそと袖に腕を通すが、大きくて手がほとんど隠れてしまった。指先の第一関節がひょこっと顔をのぞかせる。


「もう一人、狩るぞ」


ツルギは無表情でそう伝え、ヤヨイを片手で抱きかかえた。


「ひゃあっ」


ヤヨイは小さい奇声を発した。しかし、彼女はツルギがヒールに血痕がつかない配慮をしてくれたことに気づき、微笑んだ。


「……ヤヨイ」

「ん?」

「シャワー浴びろ」

「血の匂い?香水で消せるわよ。仕事だし、大丈夫」


ツルギは少しだけヤヨイをもつ腕に力を入れた。それをヤヨイは感じ取り、小さく首をかしげる。


「私、重い?」

「銃よりは軽い」

「うそーっ、それは言い過ぎよ。ツルギはほんとにお世辞が下手ね!」


人が多い繁華街にまた出かける。ツルギは一枚の写真をヤヨイに渡し、また路地裏へと入っていった。写真には中肉中背の男性が写っていた。ヤヨイはジャケットを脱ぎ、足を運んだ。彼女は次のターゲットを探すため、ネオンへを身を投げた。




テツはため息をついた。サキには少し刺激が強すぎたかと思ったからだ。古いビルとビルの間に倒れる死体、それを挟んで男女が立っているのをサキはビルの屋上から食い入るように覗いている。テツとケンはサキの両脇に立ち、サキを心配そうに見つめていた。テツは口を開いた。


「今のは治安維持隊第五班所属、『キラー』のツルギと『ヘルプ』のヤヨイだ」


昔、娼婦をやっていたヤヨイは抜群のスタイルと美貌でターゲットを誘い暗殺現場まで導く。ショートボブの艶やかな黒髪に二重まぶた、左の口元にある黒子が色っぽさを演出する。右肩には特徴的な刺青は入っている。目を蔓を組み合わせたような模様で、数字の「0」と「1」が刻まれている。


「『ヘルプ』はああやって『キラー』が仕事をしやすいように、作戦を立てたり誘導したりするのが仕事」

「へえ……」


ケンが補足説明をしたが、サキはあまり耳に入っていないようだ。テツはそんなサキの態度にどこか心の引っかかりを覚えた。何故そこまで食い入って見るのかが、気になったのだ。サキの経歴に犯罪前科はなく、起こしていたのはどれもただの喧嘩ばかりで死人は出ていない。ならば、とテツは思い実際に仕事をみせることにしたのだ。ヤヨイとツルギ、第五班班長に許可を取った。サキの目にはどう写っているのかが、テツはただただ気になっていた。周りに漂う鉄と酒の匂いすら気にならない。


「ヤヨイ、さんだっけ」


サキがぽつりと呟く。


「あの人、……ツルギさんの恋人?」


サキはケンを見た。ケンはうう、と唸って首をひねる。ケンは手を顎に当てて考える仕草をみせた。そして、首を振った。


「ううん、別にそういうことは聞いてないけど……」


それを聞いたサキは


「ふうん」


とだけ言ってまた死体を見た。きいたのは瞬間的な関心であった。サキはこの質問をそこまで重要に取り扱っていないが、テツは気になって顔をサキに向ける。サキはこれ以上二人について質問することはなかった。ヤヨイもサキも、初対面である。今日第五班とはここで会うのが初めてだ。血縁関係もない。だからテツは余計に気になった。何故サキがヤヨイについて、しかも恋愛関係を聞いたのかが。


「もしかしてヤヨイさんに一目惚れ?」

「わっほーい!はーずれー!」


ケンがくすくす笑いながらサキに尋ねる。サキはおどけた口調で否定をした。実際、サキは恋愛に興味はないしヤヨイは好みではなかった。ただ、何故か違和感を感じてしまったのだ。二人が笑い合う後ろで、テツはヤヨイとサキ、互いの情報を記憶している範囲で照らし合わせる。すると、テツはふと背後に気配を感じた。殺気と嗅ぎ慣れた煙草の匂いが漂う。


「ヤヨイはサキくんの義理のお姉さん、だった。これが正解だよ、テツ」

「リュウ……!」


声がする後ろをテツが振り向くと、昔殺し屋としてコンビを組んでいたリュウが立っていた。ケンとサキは盛り上がって彼の存在に気づいていないようだ。短い黒髪に、少し垂れ目、着崩したスーツ。リュウはにやりと笑い、煙草をくわえた。テツの隣に立ち、ライターを取り出す。


「お前さんが引っかかっていたのはこれだよ」

「読心術はもう封印してくれって言ったろ」

「はてさて、知らないね」

「気味悪ぃんだよ」

「こんな簡単なこともわからないとなると、お前さんも歳だね」


リュウは目を細めて、くっくっと喉を鳴らして笑った。テツは苦笑いをして言い返した。


「てめえのが一つ上だろうが」


夜の生ぬるい風がリュウの煙草の煙を拾い、サキとケンの間をすり抜けていった。テツの襟をその香りが揺らした。

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