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ブログを更新

作者: 竹仲法順

     *

 暑かった夏も終わりに近い。街を歩き、会社と自宅マンションを往復する日々が続いている。スマホを持っていて、自分のブログをモバイル端末から更新することがあった。別に不自然じゃないと思う。スマホは持ち運べるコンピューターなのだし、仕事をする時はパソコンを使うにしても、ブログやツイッターをするのには、パソコンじゃなくても十分だったからだ。

美怜(みさと)

「何?」

「ブログは一日に一回かもしれないけど、ツイッターはどのぐらい使ってるの?」

「うーん……まあ、三回ぐらい呟けばネタがなくなるわね」

「そうなんだ」

 同じ三十代の恋人の(ゆたか)が話し掛けてきた。街のカフェでお茶を飲んでいた時だ。大抵今は女性同士が集まり、女子会などと言って盛り上がるのだが、あたしなんかそんなものに全然参加したことがない。

「俺もブログ持ってるけど、やっぱパソコンから更新だな。眠る前とかにね。ツイッターではバスとか電車の待ち時間に頻繁に呟いているけど」

 彼は通勤にバスと電車を使っている。普段同じ一地方都市に住んでいても、街中心部のオフィスに行くには公共交通機関を使うしかないらしい。自動車の運転免許を持ってなくて、普通に乗り物ばかりのようである。あたしの方は社まで車まで通勤していたのだけれど……。

     *

 休日で揃ってあたしの部屋にいるのだけど、ベッドの上で互いに体を寄せ合い、ゆっくりしている。別に何も気に掛けてない。サイドテーブルにはアイスコーヒーの入ったグラスが二つ置いてある。中の氷が溶けてしまって、コーヒーが薄くなってしまっているのが、透明なグラス越しに見えていた。

「美怜」

「どうしたの?改まって」

「俺もブログに君とのツーショット写真とか載せたりしてるけど、いいよな?」

「ええ、別にいいと思うわよ。あたしも別に有名人じゃないんだし、顔見られたぐらいで動揺しないわ」

 そう言って思わず笑ってしまう。泰も釣られて笑った。休みの日は一緒にいるから、普段何があっても平気なのだ。朝晩欠かさずメールもし合っているのだし……。成熟した大人の恋人同士で文句は何一つとしてなかった。

 ゆっくりと折り重なり合う。そして口付けを交わし、抱き合い始めた。腕同士を絡め合わせて、感じる部位を絶えず愛撫し合う。さすがに彼の強い二の腕に包まれると、敵わなかった。

 泰に抱かれて、オーガズムへと達する。特別なことは何一つとして考える必要がなかった。あたしも三十代で現役の女性だ。性交は当然する。彼もあたしを抱いた後、ベッドサイドのテーブルに置いてあるコーヒーのグラスを手に取り、口を付けた。生温くなっていても平気なようだ。ゆっくりと飲み続ける。あたしもコーヒーを飲んでしまった後、また気を抜いた。

「美怜」

「ん?」

「これからも付き合っていこうな。俺も休日はちゃんと予定空けてるし」

「うん、分かってるわよ。あたしもあなたとはずっとやっていけるって思ってるから」

 そう言ってベッドから起き上がり、泰に、

「今からお風呂行こうよ。汗流しましょ」

 と言葉を重ねた。

「ああ。入浴は気持ちいいからな」

 彼がそう言ってバスルームへ向かうため、脱いでいたシャツやトランクスなどを持っていった。あたしも下着類を持ち、入浴後に備える。考えてみれば、お互いずっとフレッシュで、二人の間にある仲は出会った時から全然変わってない。ずっと一緒だった。

     *

 バスルームで温めのシャワーを浴びながら、髪や体を洗い合う。気持ちよかった。夏の終わりでシャワーの温度を三十七℃ほどに設定してから、浴びる。泰が、

「美怜、お風呂上がったら何か飲もうよ」

 と言ってきた。どうやら体が渇いてしまっているらしい。あたしも喉の渇きを覚える。幾分生温くてもいいから水を飲み、体内に潤いを補給したかった。バスルームを出て、キッチンへと向かう。冷蔵庫の中を見て、ミネラルウオーターのボトルを二本取り出し、片方を彼に渡す。

「ああ、済まないね」

 泰がそう言い、キャップを捻り開け、口を付けた。ゆっくりと喉奥に冷たい水を流し込む。冷えた液体が喉に流れると、気持ちいいのだ。あたしも体全体を潤すため、飲み続けた。ボトルが三分の二ほど空になってしまうまで……。

 そしてドライヤーで髪を乾かす。これは習慣だ。十代の頃からドライヤーは必需品だった。長い髪を乾燥させるのに、である。顔に乳液などを付け、ゆっくりと入浴後の時間を過ごした。

「泰」

「何?」

「今から何か食べない?お腹空いちゃって」

 ちょうど夕刻だ。あたしも極度の空腹を覚えていて、食べるものが何かあるかどうか、チェックしていた。そしてちょうど買い置きのインスタントラーメンがあると思い、

「よければラーメン茹でるわよ。氷で冷やせば冷やしラーメンになるし」

 と言う。彼が、

「ああ。冷やしラーメンならいいね。まだ幾分暑さが残ってるから、冷たい物食べれば、変わるだろうな」

 と返し、笑顔を見せる。

「今から作るわね」

 と言って、袋から麺を取り出し、茹で始めた。泰はスマホのカメラで撮っていた写真を整理しているようだ。時間はたっぷりある。休日同棲もいいと思えるのは、実にこういった時なのだった。麺を茹でながら、セットしていたタイマーで時間を見る。多分、彼はブログにアップするための写真をピックアップしているのだろう。今夜、午後十時前ぐらいに帰宅したら、一日の出来事を綴って更新するつもりで。

                             (了)


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