3 ウッドロックの町
星間船に戻った二人はシャワーを浴び、先に出たウーノがリビングルームに食事を用意する。
やがてレニーがゆったりとした薄い桃色のパジャマ姿で現れた。シャワー中に一日の疲労が表に出たらしく、足取りに力がない。
「先輩、眠そうですけど食事はどうしますか?」
「食べる」
レニーは昼間の気迫からは想像できないほど従順に椅子へ座り、淡々とスープをすすり始める。
「簡易食ですみません。明日からは何か作ります」
「うん」
滅多に見せないが、レニーは眠くなると驚くほど鈍い。ウーノがその姿を満足げに眺めていると、レニーが何かを思い出したように顔を上げた。
「食料はどれぐらい持つ?」
温かいスープを飲んだ事で頭が回り始めたのか、レニーの表情にいつもの凛々しさが戻ってくる。ウーノは少し残念に思いつつ星間船の外部端末を取り出した。
「節約して一ヶ月です」
「少ないな……」
二酸化炭素を酸素に変換するシステムが確立した今、宇宙船でもっともスペースを取るのが食料と言われている。星間船は長期航行を想定していない為、物資搭載量は多くない。
ウーノがため息を吐き出す。
「いずれは食べなれない物を食べる事になりますね」
「調理器を通せば問題ない。ただ原型は教えないでくれ」
星間船の調理器は、虫だろうと草だろうと栄養分だけを選別して粉状にする機能がある。味気などあったものではないが、どんな星でも飢える事はまずない。好みの問題は残るが。
「水はどうだ」レニーはこちらの方が心配だった。
「一ヶ月とちょっとですね」ウーノの表情は冴えない。
シャワー等の生活水程度なら再利用が出来るが、排泄等でどうしても廃棄しなければならない分が出てくる。
「ここの水を調べる必要があるな」
「現地の人は大丈夫でも僕らはダメって事はありますからね。船の浄水器で対応出来ればいいんですけど」
自然界の水には細菌や様々な物質が含まれている。例え飲料水として使われていても、免疫のない二人が飲むと猛毒の場合もある。
レニーは生活に直結した問題だけに暗澹とした思いに囚われるが、今は考えても仕方ないと頭から追い出した。
「明日やることは判っているか」
「はい。朝のうちに船を壁に寄せて、昼に町からの電気ケーブル受け入れを行います」
「うん。じゃあ私はその間町を調べてくる」
ウーノのスプーンを持つ手が止まった。
「……一人で、ですか?」
「お前は作業があるだろう」
ウーノはしばらく宙を眺めた。頭に浮かんだ言葉を慎重に選ぶ。
「危険かも知れませんよ?」
「町の住人がか? それ程理性を失っているようには見えなかったぞ」
「それは……、まぁそうですけど」
ウーノは昼間の男達を思い浮かべた。こちらに銃を付きつけてきた相手ではあるが、統率は取れていたし悪い人間にも思えない。
それでも彼女一人で町を歩かせるのは不安だった。年齢はレニーの方が1つ上だが、姿はただの少女でしかない。
「明後日にしませんか?」
ウーノの言葉にレニーが微かに顔をくもらせた。言葉を選び間違えたと思ったが、もう遅い。
「銃は携帯するし、守備隊とやらに案内を頼むつもりだ。私だって子供じゃないんだぞ」
これ以上の進言は彼女の態度を硬化させる一方になる。ウーノはため息を一つ吐き降参した。
「でも、本当に気をつけてくださいね。大きな道から外れちゃダメですよ? 外部端末は常に携帯して、何かあったらすぐに連絡して下さい」
「判っている。お前も心配性だな」
呆れるレニーをみてウーノはまだ何かを言いたそうだったが、やがて諦めたようにスプーンを持ち直した。
その後は、二人とも黙ったまま食事を終え、ウーノが食器を片付け始める。
レニーは椅子に深くもたれたまま目を瞑っている。
「寝るなら寝室に戻ってくださいね」
「うん」
そう言いながら動く気配のない彼女の姿は、驚く程無防備であどけなく見えた。ウーノはしばらく食器を持ったままその姿を眺めて、ぽつりと呟いた。
「……明日から大変ですね」
その言葉がどういう意図だったのかウーノ自身も判らなかった。ただ、何か声をかけなければそのまま消えてしまいそうに見えたのだ。
「そうだな……」レニーは薄く目を開け、「だけど、今日はもう何も考えたくない……」そう言い残すと再び瞳を閉じた。
ウーノはキッチンへ行き洗浄機へ食器を突っ込むと、リビングルームへ戻る。すやすやと寝息を立てるレニーを軽く抱え上げ、彼女の個室へと運びベッドに寝かせると部屋を出て行った。
翌朝、レニーは体に揺れを感じ目覚めた。
地震かと思ったが、それにしてはゆっくりと、そして規則正しく揺れている。
やがて原因に思い当たり、安心したように布団へ潜り込むが、一度覚醒した頭は眠りを拒絶する。
仕方なくベッドから起き上がり、顔を洗い、歯を磨き、引き出しから櫛を取り出す。流れる黒髪の手入れは毎日手間ではあるが、彼女はゆっくりと、丁寧に梳かしていく。
着替えを済ますと、収束光銃を腰に釣り、星間船外部の端末などをバックに詰め込み部屋を出た。
操舵室に入ると、ウーノが操縦席に座っているのが見える。
「船を動かしているのか」
レニーの声にウーノが振り向いた。
「すみません。ゆっくりやっていたんですけど、起こしちゃいましたか」
「いや、構わない。どうせそろそろ起きる時間だったんだ」
モニターの船外映像には、細い8本の足を生やした星間船が写っている。普段は船体を水平に保つための物だが、ウーノはそれを器用に操り、後退する虫のように船を歩かせている。
ゆっくりと着実に船は進み、やがて崩壊した壁の前に到着すると、どっかりと腰を下ろした。
「上手いものだな」
「たいした事じゃないですよ」
そう言いながらもウーノの顔に安堵が浮かんでいる。
「……ところで、なんですかその格好は」
レニーは白衣を着ていた。その下からはパイロットスーツが覗いている。
「お前が心配するからわざわざ着たんだぞ」
「いや、そっちはいいんですけど、何故白衣なんですか?」
「上から着られる服がなかったんだ。パイロットスーツのままじゃ目立つだろう」
確かに白衣の方がマシだが、彼女なりに着膨れを気にしているらしく、それがウーノには可笑しかった。だが、笑ってしまうと折角着てくれたスーツを脱ぎかねない為、どうにか表情に出すのは堪える。
「それじゃあ、船は頼む」
「はい、気をつけて」
壁は崩れているといっても、瓦礫が積もっておりレニーには乗り越えられそうにない。仕方なく壁沿いに歩くことにした。
星間船は西側壁の中間に鎮座しており、そこから北へ向かう。
昨日上空を通った時には小さな町に見えたが、歩いてみると壁はどこまでも続いているように感じる。
曲がり角を過ぎ、時間から距離を計算すると西側だけで全長約1kmとなる。
途中、幅7m程の川に橋がかかっていた。欄干から見下ろすと茶色く濁った水が流れ、壁の下を通り町へと注がれている。この川が町の生命線なのだろう。
視線で川を遡ると、北西に山の連なりが見えた。どこまでも広がる山脈は、まるで壁のように圧迫感を纏っている。
――あの向こうはどうなっているのだろうか。
山脈を隔てると気候が全く変わる事は良くある。意外と肥沃な大地が存在しているかも知れない。
橋を過ぎてしばらく進むと門が見えた。大型の自動車でも軽く通れる程の大きさで、今は外側に開かれている。
銃を携帯した若い男がレニーに気付き、大きく手を振ってきた。レニーが軽く振り返すと、青年は彼女が近づくのを待ちきれず駆け足で迎えてくれた。
「おはよう。あんたがレニーさんか?」
人懐っこい笑顔にレニーは拍子抜けしてしまった。町の壁を破壊し、自衛の為とは言え最大威力の収束光拳銃をぶっ放した彼女は、少なくとも歓迎はされないと考えていたからだ。
「あれ? オレの言葉変か? 言ってる事解る?」
青年はレニーの戸惑いを勘違いしている。彼の言葉はイントネーションこそ若干違うが、宇宙の殆どで通じる公用語だ。レニーは気を取り直した。
「いや、通じている。おはよう」
彼女の返事に青年の表情が輝いた。レニーよりは幾つか年上に見えるが、仕草は少年そのものだった。
「いやぁ! そうか、よかった。オレはここの守備隊をしてるフリックだ。あんたを待ってたんだよ」
「私を?」
フリックは、数日前から隣町に行っていた為、先日の騒ぎに参加していなかった。町に戻って話を聞くうち、どうしてもその豪快な少女を見たくなり、非番なのに早朝から門で待っていたという。
「今日私が来なければどうするつもりだったんだ」
「そりゃ明日も待つさ」
「過大な期待を持たせたのは悪いが、私は見ての通り普通の人間だ」
「じゃあオレの方が異端ってことになるぜ」
染みひとつない真っ白い肌と、繊細で艶やかな黒髪。それは過酷な大地に暮らすフリックには見た事のない生き物と言える。その少女が、屈強な警備隊の仲間を大喝したと言うのだから面白くない訳がない。
「そうだ。この町の案内を誰かに頼みたいのだけど」
レニーの申し出にフリックは舞い上がって喜んだ。門の傍にある観察詰め所で他の隊員と幾つか言葉を交わすと、脇へ止めてある車にレニーを案内する。
4つのタイヤを履いた頑丈そうな4人乗りで、屋根に開口部が見える。恐らく石油を使った内燃機関だと予想したが、フリックがエンジンをかけると驚くほどの音と振動が発生した。
「これは……、壊れないのか?」
動揺を抑えながらフリックを伺うと、少し照れたように苦笑を漏らした。
「機嫌が悪いんだ。走り出したら収まるさ」
フリックが車を発進させると、観察に座る長髪の隊員が右手を胸に掲げ、複雑なジェスチャーを行った。フリックも同じように返す。
「なんの合図だ?」
「え? あ、いや、大した事じゃない。"いってらっしゃい"みたいな意味だよ」
本当はもっと複雑で、彼らが女性とのデートに向かう時に使う類の、少々下世話な合図だったが、レニーはそういった機微に疎い。特別興味もなさそうに、あっさりと納得したようだった。
「で、どこに行きたいんだ? ハッキリ言って何にも無い町だぜここは」
「水と食料が欲しい。ここの人たちがどんな物を食べているか知りたい」
「……そうか。じゃあアルマ亭だな。あそこなら地下水も売ってるし、この町じゃ一番の店だ」
何気なくフリックは言ったが、"あそこなら"という言葉にレニーは引っかかるものを覚えた。
「……地下水が売っているのか?」
「ああ、どこでも綺麗な水は貴重だからな」
「井戸はないのか?」
「前はあったんだけど、直ぐに枯れちまうから制限してるんだ」
「じゃあ、町の人間は普段何を飲んでいるんだ?」
レニーにとってごく当たり前の疑問だったが、フリックの表情に影が差す。
「……そりゃぁ、金のない奴は川の水をろ過したりして飲んでるよ。でも、この町に沸く地下水は少ないんだ。とても全員には行き渡らない」
段々とレニーの顔が険しくなってくる。
「その水を管理しているのは誰だ」
「そんな怖い顔しないでくれよ。きれいな顔が勿体無いぜ」
フリックはおどけて見せたが、レニーはくすりとも笑わない。仕方なくフリックは声のトーンを落とし、町の事情を語りだした。
ここウッドロックの町は、一本の井戸から始まった。
赤茶けた荒野では浄水が何より貴重で、そこに自然と人が集まり、やがて町が生まれた。
だが、続々と増え続ける人口に対応できる程水は湧かず、住人は常に争い奪い合い、そこへ虫が現れては殺戮を重ねる。もはや治安などあった物ではなかった。
この地方には、他にも清潔な水の湧く町はあるのだが、貴重な地下水はどこも管理が厳しく、一部の人間しか飲めない。その為、そんな町の状況に関わらず、一縷の望みを託してさらに人が集まる。
その中の一人が、すでに壮年期を過ぎていたダニロだった。
彼は余りにも酷い状況を見かねて、武器と仲間を集めて自警団を組織し、荒くれ者達を排除し、住人を纏め上げ、井戸を徹底的に管理した。
守備隊や交易を行う商人、地域の管理者等に水を優先する事で、町はどんどんと発展して行き、ようやく一つの形となった。
しかし、それは水を飲める人間と飲めない人間の格差を広げる事にもなる。
町に貢献する手段を持たない人間は、痩せ細った植物を食べ、病気に怯えながらも汚れた水に依存するしかない。
フリック自身もその水が嫌で守備隊に入ったと語った。
レニーはやり切れない思いを抱えながら、町の光景を眺める。
町を歩く人々はフラフラと車を避け、レニーの姿を見ても騒ぐ訳ではなく、ただ空ろな瞳を向けるだけだった。明らかに活気とは無縁に見える。
大通りでこの有様だ。路地裏などはどんな状況なのだろうか。
時折見える子供たちは痩せ細り、路肩に座る老人は微動だにしない。僅かに寄越す視線だけが生きている事を周りに伝えている。
「そんな水を飲んでいたら元気も出ないだろうな」
レニーの呟きに、フリックは何も返せない。
(折角の絶世の美少女とのドライブが、なんでこうなっちまったんだ!?)胸中の叫びは誰にも届かず、車は大通りを進んでいった。
町の中央に近づくにつれ、大通りの様相は変わり始める。
最初に見た人間より、健康的な人間が散見される。レニーは彼らが地下水を飲める人間たちなのかと思う。
どうやらこの町は、中央に住む人間程地位と金を持っているようだった。
やがてフリックは一軒の家の前に車を停める。レニーからすると他の家と同じに見えるが、看板がかかっている事からここがアルマ亭だと気づいた。
店はアルマと言う中年女性が、一人で切り盛りする居酒屋兼食事所だとフリックは説明した。
中は薄暗いが、テーブルやカウンターは清潔に磨かれている。昼食にはまだ早い為か、客の姿は見えない。
レニーを伴うフリックに、箒で床を掃いていたアルマが大仰に天を仰いだ。
「フリック! あんたは昔から夢見がちな子供だと思っていたけど、ついに妖精を捕まえたのかい!」
妖精とは自分の事だろうかと訝しがるレニーに、フリックは苦笑しながら冗談だと伝える。
「昨日、遠いお空の星からやってきたお姫様だよ。この町を案内してるんだ」
アルマは最初から承知のようで、フリックを押しのけレニーをしげしげと眺めた。
「いやぁ、ほんとに綺麗だねぇ。私の若い頃でもこうはいかないよ。まるでお人形さんじゃないかい」
フリック以上に陽気で、しかも早口で捲し立てられたレニーは呆気に取られる。
「レニーだ。よろしく頼む」
「わたしゃアルマだよ。この店の物が口に合うか判らないけど、良かったら食べてっておくれ」
意気揚々とキッチンに向かうアルマをレニーは慌てて止めた。
「この星の食べ物を侮辱する訳じゃないが、環境の異なる場所の野菜や肉は、私にとって有害の場合がある。失礼だが、食品を検査させて貰いたい」
そう伝えると、アルマは両手を上げ大仰に残念がった。
「そうかい……。私のテペロ焼きを食べられないなんて可愛そうだねぇ」
「あなたの料理の腕や衛生管理を疑う訳じゃないんだ。気を悪くしないでほしい」
「なに、気にする事はないさね」
屈託なく笑う彼女にレニーは好感を持った。陰気な町だと思ったが、こういう人間も居るというのは気持ちが安らぐ。
ひとまずレニーは主要な野菜、魚、肉の欠片を注文した。
この星の紙幣をもっていない為、予め用意していたネックレスを渡す。宝石を散りばめ師匠を凝らした装飾具はどこの星でも女性は喜ぶと踏んでいたのだが、大当たりだったようで、アルマは張り切って、店にあるありとあらゆる食材の欠片を持ってきてくれた。
レニーはそれらを保存用のパックへ丁寧に詰めながら、次に地下水と川の水を頼んだ。
アルマが二つの水を差し出すのを、フリックが怪訝そうに眺める。
「川の水なんかどうするんだ?正直言ってオレらでも余り飲みたくない代物だぜ」
「うん……。なんでも調べておきたいんだ」
レニーは気のない返事をしたが、本当は川の水を調べ、浄水方法を考えるつもりだった。だが、水の状況が判らない限り不用意な希望を与えたくはない。元居た研究所ならどんな毒水でも浄水出来る自信はあるが、星間船には簡易な設備しかないからだ。
一通りの食料を保存し終わり、レニーはアルマに断り水筒から果汁を混ぜた水を取り出した。
「それで、次は何をみたい?」
フリックはコララという豆を砕いて混ぜたという、シュワシュワと泡立つ謎の液体を呷りながらレニーへ尋ねた。
「叫虫について知りたい」
「ああ、それなら専門だ」
得意げにフリックは虫について語り始める。
「あいつらは普段1匹で現れるんだ。そいつは偵察みたいなもんで、常に食い物を探してる。それで、生き物を見つけたら仲間を呼んできて集団で襲う。鋭いキバで人間なんかひと噛みさ」
フリックは両手を口に添えて牙の真似をして見せた。レニーが怯えてくれないかと期待もあったのだが、真剣に聞き入る彼女に見つめられ、ばつが悪そうに咳払いをして話を戻す。
「やつらがどこから来るのか詳しい事は判っちゃいない。ここから北西の山に巣があるんじゃないかって話しだけど、叫虫が多くて近づけないんだ」
「町へはどのぐらいの頻度で来るんだ?」
「そう多くないな。半年来ない時もあれば、1ヶ月おきに来る時もある。その時は町中大騒ぎさ。半分ぐらい減らせば逃げ出すんだけど、毎回何人も犠牲が出る」
仲間の死を思い出し、フリックはどこか遠い目をした。
「姿を見たいのだが、どこかに死骸はないか?」
「死骸?」
虫の死骸を欲しがる少女にフリックは驚きながらも、「んー……」と呻きを上げて考え込む。
「出来れば生きているとありがたい」レニーは要求を重ねる。
「……生きてるのはちょっと無理だな。死骸はあるにはあるんだけど、いつも遠くへ運んで捨ててるんだ。今からだとちょっと遅くなるぜ」
フリックにとって夜の荒野を少女と車で走るのは魅力的だったが、守備隊の車を郊外に持ち出すと後がうるさい。レニーも、出来れば死骸を持って帰りたいが、ウーノにばれたら面倒になる。
結局ドライブは先送りとなった。
丁度その頃、店にお客が入り始める。全員がレニーを興味深げに眺める為、さすがに居心地が悪くなり店を出た。
当面の用事が済んだレニーは星間船に戻る旨を告げると、フリックはわざわざ車で送り届けてくれた。
星間船につくと、ウーノが見知らぬ作業員と一緒に、町から這わせてきた電気ケーブルを、船の後尾に増設したノズルへ接続している所だった。
フリックに別れを言い、レニーはウーノに声をかける。
「サンプルを貰ってきたぞ」
「お疲れ様でした」
ウーノはレニーの無事を喜ぶでもなく、黙々と作業を続けている。
何も問題なかっただろうと嫌味を言うつもりだったレニーは、ウーノの態度が理解できず顔色を伺った。
「なんだ、具合でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫です。もうすぐ休憩にしますので、そしたらお昼にしましょう」
「あ、……うん」
どこか釈然としないまま頷き、レニーは船の中へと入っていった。
すべてを見ていた作業員の一人は、口を尖らせて作業をするウーノの姿がおかしくて仕方なかった。