8【戻りました。さてキャラクターは貴方の気持ちなど知ったことはありません】
クエストを受注すると、私の持っている金時計が輝きます。
募集は四人。けれどもう出発することも可能です。
ケイが言うには二人きりの方がやりやすいからその方向でといっていました。
私もそうだと思います。こんな美味しそうなネギ付き鴨を他に渡したくはありません。
絞るだけ取ってあとはポイしてしまいましょう。
「で、では参りましょうか?」
と慣れない敬語まるだしの下手な与六くんの口調に、
心からの失笑を浮かべたいものの、我慢します。
とりあえず微笑ましい小動物を眺める方向で笑うと、良い感じの笑みになったようで。
あとでケイが「お上手ですね」とからかってきました。
ちょろいです。あっちはきっと年下なのでしょう。
少し申し訳ない気持ちも湧きますが、大人の世界は厳しいのですから知りません。
「えぇよろしくね、ナイト様」
「もちろん!」
と胸を張りますが本当に頼りになるのはきっと、彼ではなく傍に控える騎士なのでしょう。
「与六、大丈夫ですか?準備はいいかな?」
「で、できてるってったく!ったく、いちいち頭、なでんなぁ!!」
「忘れもんないのですか?あとで取りに行って貰うことになるかもねぇ」
「うるせぇ、薬草は十分だ!だから食えよ」
「嫌なこったです。私、ええっとなんでしたっけ?草食系男子ではないのでしょう?」
「無駄知識」
なんだかぱっと見れば兄弟がじゃれあっているようにも見えます。
私とケイとは雲泥の差・・・と思ってケイを見たとき、少し意外でした。
ケイはその様子を呆れた顔でも懐かしむといった顔でもなく、
無表情というわけでもなかったのです。怒っている、悲しんでいるというような
一個のこの感情だと言いし難い表情。
これが本当に、ただのオンラインキャラクターができる表情なのかと、
その精巧さに驚いていました。
「さ、行きましょうか?」
「あのさ!貴方もしかして疑似人格搭載とか?」
「はい?」
「だから、貴方を初めオンラインキャラクターは何か嘘みたいな人格を持っている。
そういうことだからこれほど生き生きとしたコミュニケーションができるんじゃ」
ケイは「ふーん」と大して興味なさそうな顔で「どうだとしたらなんです?」と尋ねます。
それではこれは肯定ということなのでしょうか。
【ありえませんよぉ】
けれど、私の言葉に否定を飛ばしたのはケイではありませんでした。
【あ、すみません。でもでもぉ、ちょっと残酷なこと言ってるって自覚ありますぅ?】
全然ありません。その旨をAIに伝えるとため息混じりにこうかえってきました。
【じゃあ、例えばですけど真穂さん?
貴方は実は実際の人物じゃなくてお芝居の中の小説の中の登場人物なんですぅ、
とか、映画の中の死にキャラなんですぅとか言われたらどう思います?】
「それは不愉快だと思います」
【つまりそういうことですぅ。
キャラという自覚は各々ありますけれど、それは保護規定プログラムとかの兼ね合いですぅ。
彼等はちゃんと踏み込んで欲しくない領域を持っている感じですよん】
「本当の正体とか」
【彼等が名乗っている名前も偽名です。真を彼等が認める他者にしか明かさない。
つまりそういうことなんですぅ】
従うと言っておいて実は服従していない、真の意味ではということなのでしょう。
実に馬鹿馬鹿しいですが、少々腹立たしく思います。
なんだかたかだがゲームに馬鹿にされているような気分でした。
( 曝いてやる…… )
この澄ました人を小馬鹿にした物言いしか言わない男。
正体を曝いて心から服従させてやろうと、半分本気で思いました。
「冒険者様、プレイヤー様、ご準備は整いましたか?」
案内役のキャラクターでしょうか。
出入り口とは違う、大きな緑の鉄扉前に優雅に佇んでいるメイド姿の人がいます。
丁寧にお辞儀をした後、彼女はクエスト名と達成条件を口にしました。
それから彼女手ずから渡されたのは、ゴーグルのようなものです。
クエスト中、私たちは観覧ルートで冒険を体感しながら、
キャラクターに指示を送るそうです。
望み在ればとどめはプレイヤーがという演出もあるみたいですが,
よりよく楽しんで貰うためにこのゴーグルは冒険中は外すことができないようでした。
「所詮ゲームですよね」
「すごいですよね!!」
私の感想と正反対の感想をこぼす与六くんを見やります。
その瞳はきらきら光っていて、なんだか純粋に見えました。見てなんだか悲しくなりました。
***
私たちのいる場所は高所続きの大樹道。
深淵の緑深いこの場所は大樹が幾つも育ち、それが大きいものでは道になるような
太い大きい枝を伸ばし伝えています。
「トラント!しっかりな!!」
「ははキノコ探しはほとんどケイさんに頼みますよ。与六、女性に粗相の無いように」
「うっさいな!早くすませろよ!!!」
爽やかな笑い声がエコーになって遠ざかっています。
ケイ達は下にいます。苔と草、視界の慰めに花と色とりどりのキノコが見えます。
キノコとトラントという男の人は嬉々していましたが、ケイがやんわりとめました。
「トラント殿、ほとんどの場合色がすごいのは毒性があるものですよ?
それに幻灯キノコはこのような簡単な場所にはありません。へんぴなところにあるのですよ」
ケイの知識が冴えるクエストかも知れないなぁ、と思いながらも私はこの美しい風景ばかりに心を奪われていました。
私たちはケイ達とは別所にいますが、彼等の視点を借りることが可能です。
彼等が触れるもの、歩く感触すらも自由にオンオフ使えて切り替えることも可能です。
肌に感じる湿気と清涼感のあるこの空気が作りものだというのでしょうか。
目に映る全ての色彩が目に優しく、明暗もよいバランスの景色。
時折垣間見える動物たちも幻想的でいて生きてそこにあるような躍動感があります。
手に取れば感覚も確かにあり、握りつぶすことすらできます。
【五感全てはあるように感じる設定がされていますぅ。けどぉ、さすがに作りものと作りものが直に接するのは出来ないみたいなんですぅ。だから、今真穂様が触れる実とかも、持ちかえるとか無理。持ってても換金されるんですぅ。キーアイテム以外ね】
「キーアイテム?」
【錬金術師に想像して貰う為の材料アイテムですぅ。ね、面白そうでしょ?】
面倒そう以外この上ないのではというのは私だけでしょうか。
どうでもいいですが、目的を探しましょう。
与六に尋ねると、彼のAIはどうやらサボっているようで役に立たないとぼやいています。
なんてラッキーでしょう。
視界が疲れました。とりあえずケイの視点を離れます。
戻ると、自分たちのいる高所の視点と与六君がいる場所に戻りました。
「大人ってなんだかいい加減ですよね」
いきなり子供が何を言うのでしょう。なにかトラントと言っていたのでしょうか。
子供は大人のやっていることを批判ばっかりすればいいけれど、大人はいろいろ大変なんです。
税金払ってます?年齢差ある人間関係でも平気です?嫌なやつとも笑顔でコミュニケーション、できます?稼いだお金をちゃんと運用できてます?貯金にいくら、保険にいくら、そんな分別もできて
なおかつあんたら子供のことまで面倒見てるんです。
たかだか勉強でしんどいいじめがどうのって、馬鹿ですか。
「本当に……そうかな与六君」
言いたいこと多々ありますがとりあえず、一言でまとめました。
「子供と違って大人だって色々あるんじゃないかな」
「ほら、子供だからたいしたことないって言うし」
しまった、機嫌を損ねてしまったのでしょうか。
「……子供だって、いろいろコントロールできない感情を抱えて忙しいんですよ」
拗ねると思いきや以外に大人な言葉がでました。
「教室の中で授業を受ける、それだけでもいろいろ大変なんですから。
子供だってね!大人が思ってる以上に色々と忙しいんですよ」
そんな馬鹿馬鹿しいことで悩むなんて、最近自殺した子供のニュースを見るたび思います。
世の中には教室以上に大変で酷いことの連続です。
それなのに自分を殺すなんて、両親になんとも思わないのかと怒ったこともあります。
けれどそうか……違うかも知れません。
私は彼等ほど、感動も、心も大して躍動しません。
「お嬢様、何無視きめこんでるのでしょうか?失礼ですが、お嬢様の耳は飾りですね」
「……聞こえてますよ。ばっちり」
「それは良かったです。では視点をこちらに」
ケイの呼びかけに、応じて私の視点を渡します。
すると突然の暗闇。天を見ればどこかの縦穴洞窟に落ちたようでした。
トラントの声も上からします。
ドジをやったのかと言えば、「いいえ、私にはお嬢様のような才能はありません」
なんて言葉が返ってきました。ドジっ子と可愛らしく言っておきましょう。
「目的のものは?」と思っていると。
突然目の前に、星のような灯りが一つ。
ふわふわ揺れているそれは、小さな淡いオレンジのひかりを灯しています。胞子でしょうか。
オレンジ色に発光するキノコは、優しい耀き白い粉の発光体を出しています。
呼応するように周りに同じようなキノコが現れました。
光のささないこの縦穴の洞窟です。
その現象は、まるで個室のプラネタリウムみたいでした。
「幻灯キノコは珍しいへんぴなところにありますが群生です。一個見つかればそこにほとんどありますよ」
と、彼は手に持っている袋を持ち上げます。
木綿の袋の中にはしっかりとした重さと、
布越しに淡く輝くオレンジのひかりが見えました。
「綺麗……」
「……?」
綺麗と心から言えます。
心からまだこのつくりものだとしてもその造形に目を奪われます。
駄目でしょうか。これでは。
私はただ技術力を評価しているのでしょうか。
綺麗だと言う言葉は、心からこの光景を「美しい」と思う感動だけなのでしょうか。
「そうですね。まぁまぁです」
ケイは私の気も知らず、適当な答えを言うだけでした。




