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 Way to Avalon

「悪あがきというものはないか?君の立場を悪くすると思うのだが」

古い友人の心配に男は自嘲気味に頷いた。

それほどまでに彼が最後に彼等に約束した事はリスクが伴っている。

男の名前はモーリー・ジャック。

壮年と言う年齢になった男は普段のラフな格好を失くしてフォーマルな姿をしている。

白人といっても浅黒くやけたのは肌。青い目はただ一つの写真を手に取ってみていた。

今回使用されたゲームの原案者である。

そして男の部屋に無遠慮に入ってきては彼を心から気にかける友人は、

モーリーが生み出したゲームのAIを務めた男だった。

「祐馬君は大丈夫か?」

ふと彼を見て、モーリーは尋ねる。

「なんとなくあの子が棄権するというのはわかっていたからね…」

遠い目をした彼は苦笑しながらも一つに金時計をだした。

それは彼の息子が所持していた金時計だった。蓋を開くとしっかりと文字が刻まれている。

愛している、と。

それが父にへのものか母へのものか息子の最愛の少女に向けてのことか、わからない。

「棄権した皆と同じように、その脳が刻む人間関係の記憶、学習が消滅してしまっている」

棄権を叫んだ人間は、その脳にある記憶に著しいペナルティがかせられる。

慰労金として家族や元築き上げた人間関係者に幾らか支払われる。

かの息子も同様だった。しかし、彼は慰労金を受け取らなかったようだ。

受け取った彼の妻は離婚し、今は第二の人生を生きているらしい。

「…そうか」

規約設定に無関係ではない。しかしこれほど無体な事をしいたのはモーリーではなかった。

「でも私はまだ幸福だよ…。医師として息子に接することはできる。できるんだ…」

父親として彼は息子の最愛の少女を犠牲にした。

しかし、結末は彼を父親として在るのを退けた。なんとも皮肉である。

「辛くないか」

「……辛いのはこの医者をやっていると慣れるものさ」

「…そうか」

「司馬如水が痴呆症から回復したらしいな。成果があったか」

モーリーは複雑な気持ちで「あぁ」とそれを肯定した。

空中庭園での邂逅で一番初めに訪れたのは彼。

そして司馬の口からこう言われたのだ。

随分愉快で魅力的だが残酷なゲームを創造したな、と。

確かにその通りだ、少なくとも家族より捨てられたも同然の司馬にとっては。

理解しなくていい人の気持ちを理解して傷つくことがあるのに。

それは司馬だけではないだろう。

幻想の中に最愛の女性との永遠を創造し、ダンテを名乗った祐馬というプレイヤーも。

ウィリアム・テルと架空の恋をした榊 勇伊という少女も。

トリスタンと心を通わせる中で己の逃避を自覚した樋口与六も。

ケイや多くの他人と関わる中で、弱さと向き直った直江真穂という女性も。

そして今もこりずに、モーリーは自らのエゴの為に行動していた。

「写真…残っていたのだな」

「これが唯一の一枚なんだ」

モーリーはそっと大きな写真を見つめている。

そこにあるのは集合写真だった。無秩序に少年少女が集まって笑っている。

無邪気な笑顔。ここにいる彼等はもう全員生きてはいない。

写真のひとりひとりの顔を、プレイヤー達がみたら驚くだろうか。

全て見たことがあるかもしれない。

「…諜報員、スパイ…そんな人材を育てる為に早期教育を施された『ヒロイック』。

人物デザインの容貌はみんな彼等から」

「彼等は好きだったよ。英雄、勇士の物語を。それが教化教育。刷り込みといっていい。任務の為に己の命を省みない勇気を見せる。それを教えるのに伝説や英雄譚は実に都合が良かった。…でもね、友よ。私は忘れられなかった。彼等があまりにも無邪気に目を輝かせながら、それらの話しに親しんでいたこと。そして、誰20になるまで生きられなかった。

彼等が信じたもの、憧れたこと、親しんだ物語は全て虚飾だ。しかし…永遠に、そしてなにかの形に残したかった。それがあの子達がこの世界に生きていたという証明の残滓になると私は…信じたい」

「本当に勝手だよ。ジャック」

「だと思うよ」

ジャックと愛称で呼ぶ友の言葉に同意する。しかし、友は辛辣な肯定と共に震える肩を抱いてくれていた。

「だから消したくなかった。アヴァロンは、凍結させるよ…抹消なんてさせやしない」

「その為の守護者だろうが泣くな。泣き虫教官…みんなが笑うぞ」

「……あぁ、すまん」

写真を抱え、壮年の男はその年齢に似合わぬくらいの男泣きをしていた。

彼の机の上の端末に文字が浮かんでいる。

Way to Avalon

明滅する文字はまるで心臓の動悸のように規則正しく動いていた。

***


手には一つの剣を持っています。

それはケイに渡すはずのものでした。

透明な刀身に、銀と青の基調とした美しいその剣を抱え、

私達は目的のところへとその身を導かれていました。


完全なる電脳世界。

ストーリーモードで体感し、防衛モードで味わった感覚。

導かれたところは果てなく続く水辺、その水面に浮かんだ睡蓮がたくさん浮かぶ

場所でした。ここがブラックスボックスとよばれる場所。

しかしあまりにも美しく、幻想的な光景に心を奪われていました。

魚は空に飛び、鳥はその水中を飛んでいます。

私達は水面を忍術のたぐいのように滑るように表面を歩けていました。

永遠に続くと思わせるくらい広大なその睡蓮の水原です。

しかし、終りがありました。

ストーンヘッジを思わせるつくりの似た建造物があります。

「真穂さん」と与六君が言いました。

「はやくしてよね」と勇伊さんが口をとがらせました。

「…さ、真穂ちゃん」と司馬のお爺ちゃんが促します。

私は、頷いた後その中央へと歩みを進めます。

中央のその石の棺を押しました。

現れたのは少年。いつぞやに見た不思議な男の子でした。

「その名をティルナノグ」と司馬のお爺ちゃんが言います。

「その名をヘスぺリデス」と勇伊さんが言いました。

「その名をリンゴと意味する豊穣の島に横たわりし者」と与六君が言いました。

私は、その三つのブラックボックス解除ワードに、言葉を連ねます。

「そして円卓を束ねし王、傷はいやされたその長き眠りから覚ます為に汝の運命の剣を再びその手に返そう」

剣をその石棺の中に入れた後、名を呼びました。

ケイと間違えて呼びそうになったその名を、呼びます。


「アーサー」


棺の子供は目を開けます。

剣をその手に握り込むと、私を見てにこりと微笑みました。

それから立ち上がると、剣を天に掲げます。

あたり一面が白色し、私達は目を瞑りました。

すると確かに声が聞こえたのです。幾つもの人の声、

それが乱反射のようにあたりから幾つも聞こえて頭が割れそうになりました。

しかしその数が少なくなり、一つの会話が頭に響きます。


―― ちっ、剣を忘れた。アーサーちょっと取りにいってくれないか ―

―― うん!わかった ――

―― これ、僕が抜いたんだ。父さん ――

―― お前はそれを聖書に誓って言える事か? ――

―― 貴方こそ、ブリテンの真なる王 ――

―― どうせ俺は悪い騎士さ。今更いいものなんかになれないよ ――

―― 品行方正?ふん、裏切るなら同じだろ ―

―― 随分剣を手にしてないんだ。現役のころだろと思うなよ ――

―― もしも俺があの時お前に剣を取らせに行かせなかったら、お前は王にならなかっただろうか ――


「ケイ……?」

名を呼びます。


ただ会いたかった。

特別好きでも無ければ嫌いでもない。

離れがたいわけでもなく、ましてや愛してなどいない。

それでも感謝したかったのかもしれません。


他人をずっと拒絶していた私と、懲りもせず歩み続けてくれたこと。

歩み寄りもせず、また離れすぎず、共にあってくれたこと。



ただ感謝したい。





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