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 お疲れ様でした。これにてゲーム終了となります。


思えば夢のような出来事でした。

時にその夢は無意識下の本当のように、私を苛み苦しめ、

やがて向かい合わせてくれたような気がします。


全プレイヤーが通されたのは一室でした。

この計画の名前をファンタジー試案計画といい、ファンタ試案と呼ばれた数日間の出来事。

多大な冒険を過ごした私達はその危険性や有用性を実証し、

きちんと数値データ化された後付けとしてここにいます。

実録。ログと共に、私はこのことを報告書として書かなくてはなりませんでした。

何を思ったのか、考えたのか、どう行動したのか。


本部最高級ホテルの一室私はふかふかなベッドの上に身体を預け、

ぼんやりとしていました。

胸元に手をやればそこに、慣れ親しんだものがありません。

金色の時計は本部の運営に回収されてしまったのです。

手を持てあまし、私はリモコンへと手を伸ばしました。


連日報道されているのは名前も知らない会社の不正。

アヴァロンに関与し、その利益を独占しようとした会社が叩かれています。

しかし責任をといたくてもその矛先人は自殺。

結局何がなんだかわからない間に、

当事者の私達の手から出来事はどんどん他人事のように話が拡大されて、どこかにいってしまいました。

「…佐助」

イヤリングに呼び掛けても、もう誰も応えません。

「ケイ…」

無遠慮にとんでくる毒舌はもう、ありません。

あれほど、望んでいた現実に私は帰れたのです。

だから、これは喜ぶべきこと。それなのに、どうしてでしょう。

「……すっきりしないな」

リモコンをテレビにむけ、うるさい報道の音を絶ち切りました。

ちょうどその時、電話が鳴りました。

内線電話で、番号が007です。

受話器に手を伸ばし、とると。

「お久しぶり…です」

低い男の人の声だった。

躊躇したような間を開けた後、恐る恐る様子をうかがいながら彼は話しかけてきます。

「真穂さん…俺たちに話がある人がいるって」

元気にこちらに笑い掛けるひとりの少年の顔が浮かびました。

「…与六君」

「……七時に最上階の空中庭園で。入園は…俺たちの」

電話の向こうの彼は言葉を飲んだあと、続けました。


「俺たちとずっと一緒に歩いてきた…あいつらの本当の名前を言えばいいって」


***


エレベーターに行けば監視員の人が私の身分提示を求めました。

クエスト終了以来、私達の行動は限りなく制限され、何不自由なくこのホテルにいますが

非常に自由がない日々が続いています。

移動も彼等の検閲を通らなくてはなりません。

「おい、直江真穂だ…。時間をきいている。さぁ」

「…どうも」

会釈をした後、私はエレベーターのボタンを押します。

12階にいたのですが、高速エレベーターはぐんぐん階層をあがり、50階へと上がります。

耳の中がキーンとおかしくなって、何度か抑えながらエレベータを降り、

回廊を歩いて行きました。

つきあたったのは真っ白い大層なギリシャ彫刻を思わせる精巧な門です。

「……」

門に手をやると、すかさずその手元に懐かし手触りが落ちてきました。

金色の時計です。私の名前が刻まれた時計は、9時を回って止まったままでした。


―― ゲーム最優秀者群 直江真穂様 ゲームマスターがお待ちです ――

清々しい機械音声が金時計からしました。


―― 扉を開ける為には汝が真に陰なる共の歩みし隣人の真の名を必要とします。

それでは 汝、隣人の真なる名を告げよ         


唇を噛みしめました。

残念ながら私は知りません。

彼が何者で、誰だったのか、あの皮肉屋の正体がまったくつかめぬまま、

このゲームは終わってしまいました。


「…ケイ」


彼が私に伝えたたった一つの名前を口にします。

すると、白い扉がゆっくりと開きました。

そこにはひとりの青年がいます。むこうに車椅子の老人がいます。

綺麗な可愛らしい格好の女の子もいました。

最後に見知らぬ壮年の男がいました。

「真穂さん!」青年が声をかけてきます。彼は与六君でしょうか。

車椅子の老人はよくみれば司馬のお爺ちゃんに似ていました。

でも今私の心を占めるのは…別の想いでした。

心配そうに与六君が覗きこんでくるのは私が思わず座り込んでしまったから。

そして涙が止まらなかったからでしょう。

「与六君…」

「どうしたんだよ?真穂さん」

「あいつ、あいつね…。名乗って…た。最初から…私に本当の名前…最初から」

何一つ自分のことを話さなかったのに。

優しい言葉だっていつもお別れか何かの時にしか洩らさない。

毒ばかり吐いて、頼りになるようで肝心の時にはどこにおいなくて。

協調性がなくて、卑劣な奴で。

単純名前だから隠さなくてもいいか、って思ったのかもしれない。

そんな予感がよぎった時、「そうか」と与六君は言う。


「あいつ、最初から心から…真穂さんに従っていたんだな」


思い出すのはゲームの始まり。

彼は執事のいで立ちで、眼鏡をくいっと上げながら私に名乗っていたのを覚えています。

もう隣人として横にいることなど、二度とありません。


***


空中庭園は天国を思わせる作りでした。

50階を思わせない、水道が通り、自然の植林が並ぶ庭園。

鳥たちが鳴き、森が存在し、そして小さな川や、花畑まである光景でした。

その中央に位置する花時計の前で壮年の男は私達を迎えました。


「騎士トリスタン、

軍人ナジェージダ・アンドレーエヴナ・ドゥーロワ。

英雄ウィリアム・テルそして騎士ケイ」


壮年の男が私達の顔をみて、それぞれに名前を言う。

騎士?ケイが騎士だったと言うのでしょうか。

糊のきいた綺麗なフォーマル姿の白人の壮年男。

私のその問いを感じ取るように、壮年の男は苦笑しながらこちらを見つめ返します。

不思議な目の色でした。灰色の中に、優しくとける青の眼の色。

吸い込まれそうなほど透明で、けれど深い湖水の青。

「私は本ゲーム原案者のモーリー・ジャックと言います。皆様には大変の御苦労と御助力を賜りました。

申し訳ない。しかしさすが…皆様は陰陽の虚現をお持ちのプレイヤーだ」

「…えっ?」

「樋口与六君…彼女と彼に、渡してあげなさい」

「……はい」

与六君はポケットから巾着を取り出しました。

そこから丁寧に丁重に何かを取り出します。

黄色いハンカチと、銀色の小さな勲章でした。

車椅子の老人はじっとその小さな勲章を眺めています。

女の子は顔色を変え「なんであんたが持っているのよ!!」と怒鳴りました。

「このハンカチ、弓兵が残して行った。嬢ちゃんって呼ばれてたのか」

「…だからなによ!」

「伝言はきっちり伝えてた。それともう一つ、言ってたよ」

「どうせ碌な事言わないのよ。あいつってばすぐ人のこと…」

「嬢ちゃんと組めて楽しかったし、案外好きだったかも」

「……」

女の子は黙り込むと、ハンカチを奪い取りただ、そっぽを向いたまま。

こちらを決して向く事は無かった。

「ウィリアム・テルと歩みし榊 勇伊。共に歩いた隣人はどうだったかな」

「あいつは馬鹿よ…大馬鹿よ」

「………そうか」

「でも…私あいつのこと、愛していたんだとは思うわ。気持ち悪いことだけど」

素直に言うと、彼女は手元の金時計をぎゅっと握りしめていました。

「軍人の乙女と歩みし、時代の先人よ。どう思いましたか」

「なにも…。ただ楽しい遊戯ではあったよ。随分と酷なところもあったがね」

司馬如水はそう言い添えながら与六君から渡された、銀色の手作り勲章を見つめていた。

「これはわしが作ったもんじゃ。あの子はよくわしを気遣ったから何か即席で作って渡したような気がする。

そしたらな…物凄く喜んで胸につけて見せた。大したことないのにと言えば、いいえと言う。

これは私の為にだけにつくられた私の為の勲章でしょ?そう話していたよ」

「そうですか」

モーリーは次に、与六君を見ます。

「彼は私を見守ってくれていました。私が…現実に戻ることを思うよう願っていたように思えます。

でもこれ貰って笑いました。あいつ、女にしか渡さないのにさ」

与六君の手には薔薇がありました。赤と白の薔薇が一輪ずつ、彼の掌にあります。

頷いた後、モーリーは最後に私を見ます。

「ケイが貴方に名を言っていましたか。

全くルールに従わない者だな。さて、お嬢さん貴方はどのくらい彼のことを御存知かな」

金時計を握りしめ、私は泣いている顔を拭った後、顔をあげました。

「なにも、知りません。いいえ知ろうとしませんでした」

所詮ゲームだと、その登場人物に意味はないと思っていました。

今でもその根本はそれほどぶれてはいないと感じていました。

けれど。

「彼等がその手に残したものこそが陰陽の虚現…。

さて全プレイヤーの中で18人のうちの4人に、

いいや、あのゲームを救った4人に、なんでも与えるつもりさ。だが常識の範囲内にしてくれよ。

さすがに世界征服だの国の代表などは無理だからね」

みんなが黙る中、私は口火を切りました。

モーリーは分っていると微笑みながらこちらを見つめます。

「あのゲームをもう一度したいとは言いません。

 彼に会いたいとも、お金は欲しいですし、でも名誉はあまり要りません。

 願いが二つあります。一つは…姉に会わせて下さい」

「それは困難だ。ひとつ、私の頼みを聞いてくれたら別だがね。簡単さ、やってくれるか?」

「保留します」

「賢明だ」

「さてもう一つは?」

きっと、それは此処にいる誰もが思っていることではないでしょうか。

特に与六君などは切に願っていることではないかと私は、思います。


「ひとつのエンディングを下さい。私達の歩みにふさわしいエンディングをお願いします」

「わかりました。では12までにこのホテル内でそれぞれ人物に従って指示を待ちなさい」

「どういうことです?」

「質問しなくてもまぁわかります。それより、少し言わせてもらいませんか。

 明日の会議の何か閉めみたいな言葉の練習をしたいのです」

少し思案した後、モーリーは言いました。

ぽんと手を打った後彼は、実に慇懃に言いました。


「お疲れ様でした。これにてゲーム終了となります」



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