【 END OF YOUR STORY 】
爆風と共に扉が開きました。
抱きかかえられた腕はそのまま、私をスローングする体勢に入ります。
「やさしく!」
「余裕ありませんね!なるべく早く持って来なさい!!良い子だから!!」
ケイに思いっきり扉の奥まで投げ込まれました。
埃っぽい床に投げ込まれる、滑りこみます。
朽ちた修道院でしょうか。天井から漏れる月光にステンドグラスが輝いています。
私はのろのろ立ち上がると、あたりをきょろきょろ見回します。
誰ひとりいない静かな空間。
外では有象無象にいろいろいるのに、
ここだけなにか神聖で近寄れない雰囲気を出しているのでしょうか。
と言うなり轟音がなり、天井から欠片がぼとぼと落ちてきました。
私はいそいで奥へと歩いて行きます。
地下に続く空洞がありますがそこに…小さなレリーフがありました。
刻まれている文字は読めませんし、なにか遺跡の仕掛けがあるのではないかと思います。
どう思う―と、尋ねようと口をひろげました。
ひろげて止めます。そうです。今私はまた、ひとりなのです。
「……やれますよね、真穂」
ぎゅっと自分を抱きしめた後、レリーフに手を押しやりました。
その時、頭に響く音色に眩暈を感じます。
なんなのか、それはわかりません。子守唄のようにも聞こえていました。
「…誰に歌っているの?」
レリーフが動き、隠れた扉を開きました。
そこに広がるのは地下の湖水でした。しかしそれは遠く、青い海へと繋がる湖水です。
透き通る程の美しいその水の中に、台座がありました。
石の台座の上には剣が刺さっています。
「あれなの?」
走り、湖水の中を歩きます。やがて立ち泳ぎになり、手足を欠きながら前へ進みます。
水浸しになりながらも私はその剣を手に取ると、
思いっきり力を加えて抜きました。抜き去った時、真穂はなにかを落としました。
それは葉っぱです。
一枚の木の葉が両断に切れて、湖水の上に静かにのり、波紋を響かせます。
透明な剣―その刀身は透き通っていました。
綺麗な剣ですがどこか途方もない気配のする剣に感じます。
「よし…これをケイに、届ければいいのね。鞘は…ないのか」
剣を持ちます。羽根のように軽いそれは持って走るのになんの努力も必要ありません。
地下を這い出て、教会に出て、外に飛び出しました。
最初に深く丁寧に礼をする――ケイの姿が飛び込んできました。
彼が何に対して礼をしているのかと見れば、そこには黒い龍の歯牙が目前にあります。
しかし龍にむけてはいません。その騎乗する男にむけられていました。
彼はどうして?
どうしてか、自分自身を自分の手で刺し貫いていました。
「説明をするのも無粋ですが、お嬢様の頭でもわかるように言えば…。
彼がユダを己の中に抑え込んで殺す為にした行動。
そしてそれを可能にさせたのは与六のお坊ちゃんとだけ言っておきましょうか」
「トラント…」
「トリスタンです、お嬢様。金の髪のイゾルデも白い手のイゾルデも愛した彼の名前です」
姿が砂のように消えて行くのを見つめながら礼をすませ、ケイは与六を呼びます。
与六は頷いてケイと私の傍に走り寄りました。
前にあるのは無数の敵。
しかし、オンラインキャラクターはその身の自由を得て、
その姿をもって主の元へと帰っていきます。
あるのは魔物。ひしめき、うごめき、隙間も無く並ぶ敵でした。
傍に来ると、彼は私に「ほら」と手を差し出します。
私はその柄を握らせました。正面でその貰った剣を構えるケイは…どうしてでしょう。
様子がおかしく思えました。
私にも与六君にもその顔色がいつもと違う事が解ったのでしょう。
ケイはこの上なく不快そうに剣を見つめていたのです。
それから自嘲気味に笑った後その剣を私に返しました。
「懐かしい剣です。本当に…懐かしい」
名残惜しくその剣の柄をなぞり、しかし決して再び手に取ろうとしません。
「ケイ…?」
「俺はね。この剣が大嫌いです。もしこの剣を使うのならば俺は身を滅ぼしてでもこちらを使うことを選ぶ」
それはいつかの黒き剣でした。鞘からだせばそれは漆黒の刃。
魔騎士ダンテが扱った禍々しいほどの力を秘める剣でした。
でもそれはケイには使えません。
彼は吟遊詩人。
騎士ではない。
それなのにケイが握ればその刀身に、蒼い字が浮かび上がって行きました。
その途端、彼の腕から血が吹き出ます。
腕だけではありません。頭からも、肩からも、腹からも、脚からも。
血がどんどん流れていき、ケイはあっという間に血まみれになってゆきます。
「魔剣ダーインスレイブ…!!!?無茶だ!規格外すぎる!!!」
与六君が叫びます。
「ケイ!!放しなさい」叫びました。
しかしこの男が人の言うことを素直に聞くわけが無かったのです。
「マイフェアレディ、申し訳ない。私は悪い騎士なのでね」
真っ黒く染まり込んだ闇が、ケイを取り囲みます。
なおも止めさせようとすれば、
剣の風圧かなにかで私と与六君は背後に吹っ飛ばされました。
「あの剣!!カリバーンだ!抜いたものが王者となる剣!これに近い英雄なんて限られる」
与六君が声を上げます。
私はすぐさま彼を拘束するために、そのシステムを叫ぼうとしました。
しかし―
「アーサーは私の名前じゃないですよ。お嬢様にお坊ちゃん」
その言葉に私は、驚愕して彼を見つめました。
「ケイ!!!」
だったら貴方は誰なのか。でも背中はべつのことしか言いませんでした。
「貴方の毎日に…もうお帰りなさい。貴方は本当にここが似合いませんから」
こちらを振り返る事も無く、こちらの気持などお構いも無いいつもの調子。
だったらどうしてまたいつものように毒を吐いてくれないのでしょう。
結局彼のことをわかるわけでもなく、
彼の心も、その言葉の裏の気持ちもわかるわけもありませんでした。
だって私は歩み寄らなかった。
他人と自分と言う境界線を勝手に描いているだけで、
彼を知ろうともしなかったじゃないですか。
そんな私が、ケイの本当の正体を見抜けるわけが…ありませんでした。
名を叫びます。ただ一つしか知らない彼の名前を叫んでいました。
むかつき、この上なく皮肉やな人。でもね。でも。
逆説を繰り返し言葉に出しながら私はその手の先をケイに伸ばしていました。
手を取られたのはケイではない別の誰かです。
「プレイヤー、直江真穂帰還しました。以上で全員のプレイヤー救出に成功です」
「えっ」
インカムを持った技術者風の男が話しています。
立っているのは私の、個室の部屋でした。
暖炉があって、ソファーがあって、いろいろそろい始めた家具が並ぶ部屋。
そこに見知らぬ人がいます。
見知らぬ人は続けてインカムにむかってこういいました。
「了解。これより、ほんゲームシステムであるアヴァロンの削除を執り行います」




