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4【それでは果てない冒険をお楽しみ下さい】



教会から離れ、AIのあいつに導かれながらたどり着いたのは石造建物一軒家でした。

私の家はせいぜい月8万程度のアパート。

実家でさえ古い日本家屋です。

ハイテクなゲーム世界ならばそこは理想のリッチ生活に身を投じたかったのですが。

ぶつぶつ思いながらも扉にいくと、認証エリアというものがあり、そこに一歩踏み出します。

すると瞬く間に、私はこの建物に一室を持っている主と認識され、扉は開きました。

開けば瞬時に、私は自分の部屋の前に来ていました。

表札は液晶表札でMAHO NAOEと書かれております。


そこで一つの疑問が浮かびます。


「説明係。きいていますか?」

【だ・か・らぁ~、サスケってよんで下さいよぉ。ね☆】

「……いいから、もしかして私。このケイさんと同室なのですか?」

【はい。もちろんですよ?】

「いや、いやいやいやないでしょう」

【なぁに言ってるんですぅ。ケイさんはあくまでオンラインキャラクターです。

だからどっちかって言うとペット感覚ですよ?あ、人の形してるから落ち着きません?

そうですねぇ。それがこのゲームの新しい抵抗在る点かもしれません】

「……?」

【だって、たとえオンラインキャラクターを作っても所詮は画面の向こう。まさか、こんなふうに隣にリアルにいるってことなかったでしょ?でもこのゲームは一緒にいます。少し同棲気分でどきどきしちゃいますぅ?】

「論外!!い、一緒に……その……屋根の下にいるってことは……男、人だし」

【え、AI萌えないのにぃ。オンラインキャラクターに萌えしちゃうんですかぁ?】

「黙れ、変態。育ちがいいだけです」

【ひどーい。サスケぇって、硝子のハートなのにぃ】

じゃあいちいち腹が立つ喋り方は止めてほしいです。

少なくとも今まで4度くらいはこのイヤリングを粉砕したくなりました。

「では私はここで過ごしても問題ないですよ」

「え……?どうしたんですか?」

「私はオンラインキャラクターというようなものなのでしょう?ならば特別人間扱いしなくてもいいですよ?暑いのも寒いのも慣れていますし、周りは敵だらけでもない。戦場でもないですし、ここにいても問題在りません」

「……でも」

だからといって、彼をドア外に放り出すってなんだか追い出したみたいじゃないですか。

ケイは穏やかな笑みをたたえたままこう言います。

「なら、貴女はこの腕の中ではぁはぁ荒い鼻息をたてますか?いやぁ、ちょっと申し訳ないですがそんな下品で節操のない痴女の相手など、いくら寛容寛大な私でさえもごめんこうむりますね、はい」

しっかり私を見据えて話してきました。

なるほどつまりそんな気持ち悪い女と私は思われているわけで、彼にとっても一緒の部屋に入るのは遠慮したいという申し出です。

極上の笑顔を私もつくりあげて言いました。

「了解。これで心置きなくくつろげます」

「はい」


ドアを、開いて玄関に入ります。

ケイの上品なお辞儀を見届ける時間なく、すぐに扉をしめました。


【あ、玄関の靴は履いたままです】

「みたいですね」

トイレと浴槽は別々。

中はなんにもありませんでした。

【あ、でも新生活祝いに、ベッドと生活用品だけ支給されてます。まぁあとは自分で】

「……あ、やっぱりそうですか」

リビングのところへいくと暖炉があるのです。

あたたかい焔を湛えながら部屋をぬくめてくれています。

パチパチという音と静かに燃える暖炉を見つめていると、なんだか心が落ち着いてきます。

「これも?」

【あ、いえ。それはオンラインキャラクターごとに支給されるものは違うみたいです】

「え……」

【ケイさんの生活の中で気に入っていたものだったかもしれませんね】

「……そうですか」

少し、ケイのことを考え玄関口を見ました。

でも何にも変化はなく、ただ木のあたたかな手作り感のあるドアがあるばかり。

よく障ればそれは空間遮断をしており、遮蔽物モニュメントとしてあるだけです。

コックは雇えるみたいです。

コックの種類が、屋台の隠し味レベルとかカフェメニューとかランクがありました。

ですが雇えば月額で7万リリーかかるそうです。私の所持金では余裕はなしです。

「……お風呂入ろう」

【そうですね。あ、じゃあ私、マニュアル本を提示しておきますね。ちょっと夜からバイトなんで】

「なにそれは?」

【簡単に言えばここは真穂様にとって本拠地になります。ここで寝起きです。冒険の準備をするのもここ。相談をするのもここです。作戦も、今後の見通しも。それからリアルなご家族等と連絡をとりたい場合もここからです】

なるほど、と気に留めつつ私は生活支給品の中からバスタオルなどのお風呂セットを取り出しました。そして、着替えは……と手を伸ばし、黙り込みます。

服が悪いがまともではないのです。

なにか冒険者の服装をしています。

【あ、それクエスト用です。服装トレーシング仕様ですよ。

でも、オンラインキャラクターはちょっとこっちで用意して強化していかなくちゃいけません。

ケイさんの初期装備値を計測しましたが、執事……でしたっけ?

そんな服装でもちょっと違いましたよ】

「別にいいじゃないですか。なにか問題でも?」

【スキルがついてます。精霊の加護というものがついてますから、ダメージ減少補正がつきます。あ、あと冒険を優位にすすめるこつをひとつ教えます。これ、私が天才だからわかること、なんですよぉ】

もったいぶって彼女は、間をわざと置きます。

私は「あ、そう」と風呂場に向かいます。

【ちょ、興味ないんですか?】

「勘違いしないでくれますか。私はね、このゲームにそれほど興味はない。早く現実に戻って普段通り暮らしたいだけです。だから優位とか、どうでもいいです」

【ちょっと、話させてくれないんですかぁ】

「お気の毒。これ防水ですか?外すますよ」

【防水ですぅ。待って、ごめん!!!聞いて下さいよぉ】

そこまで言わせて、イヤリングから指を離す。衣服をどんどん床に脱ぎ捨てて、私は浴室に入っていく。あったかいシャワーを浴びて、タオルに石けんをつけて体を泡だらけにしてゆく。室内は蒸気で満たされ、あたたかく心地良い温度に上がっていく。

そんな中、ラジオ代わりにAIの話を聞いた。

【オンラインキャラクターには、表向きの職業があります。それはこのゲームでの限られた職種の中で大まかに分けられた職業名です】


ナビのいう話はこうだ。

全部で12種類、キャラクターには割り当てられている。

魔術師、僧侶、盗賊、戦士、騎士、アサシン、考古学、拳法家、吟遊詩人、舞踊家、機械士、道化師。外れは道化師と吟遊詩人。あたりは騎士と魔術師だという。引き当てたプレイヤーは羨望をもってナイトプレイヤーとウィザードプレイヤーって呼ばれ、優位に立ち回りがきくとか。

「ケイはどれも違います」

【いえ、彼は残念無念の吟遊詩人でした】

「はずれなんですね。あの人」

【まぁそう言わず。で、話戻しますよ。表とあるからには裏があるんですぅ。いえ、正直言えば固定職業というのがあるんです。それをHidden jobと言います】

隠れた職業。

内職じゃないんだからと内心突っ込みながら話を聞きました。

ナビによればこれを暴けば一気にステータスが倍増し、

このゲームに決定打を打てる行動ができるらしいのです。

でも残念ながらオンラインキャラクターはこれを明かさないし隠したがります。

ヒントも己で探さなくてはなりません。

「はぁ……で、どうやってあてるんですか?」

【正体を言うんです。例えばそうですね。草薙の剣とくればスサノオみたいな感じ。名前とそのキャラクターが問う質問に正解を用意すればよしです】

彼等キャラクターは、プレイヤーである私の行動や異空間での診断テストの結果によって算出され、具現したものらしいです。彼等は、歴史や神話の中でのものが選ばれていますから、有名が一番分かりやすいんでしょう。けれどもあてるチャンスは一度きり。

それ以上はキャラクター側が二度と正体を開示することを拒否する行動をとるそうです。

知りたかったら本屋さんとか図書館とか行って時々調べてみるのもいいらしいです。

もちろんそんな面倒なことしたくもありません。

それに。

「あんな性格悪い有名人いるんですか?」

【うーん、でもね。オンラインキャラクターはあの教会に行くまでの貴女の行動と異空間に飛ばされたときの貴女の行動から算出され、選ばれたキャラなんですよ。

つまり、真穂様も性格悪です!!あ、やめて!!防水だからってちょっと!!これ壊れるとこっちのPC環境にも大きく影響うけるんですぅ】

水桶につけてやろうかと思いましたがやめてあげました。

頭を洗い、それを流した後、私は思わず本音をぽつりと話します。

「……仲良くできる自信ないです」

【まま、そう言わず。でもいい人じゃないですかぁ?気を遣ってくれてるんですから】

気を遣っているではなく、邪険にされている気がします。

こちらを見る視線に敵意が感じられます。

どうしてでしょう。

なぜたかがキャラクターにこれほど最初から嫌な感情をぶつけられなくてはならないのか、わかりません。私が主ならば駒であるキャラクターなんてものはプレイヤーに媚を売っていればいい、なぜなら私が主なのでしょう。

尊大に思える意見かも知れませんがそうじゃないと、プレイヤーにとってはただのストレスです。ゲームってストレス解消の一環たる娯楽でしょう?

あんなキャラクターなんて、ただのストレスの権化じゃないですか。

腹の立つ複雑な設定を、ゲーム設計者はしたものです。

シャワーをすませ、着替えれば、窓から見える風景は夜に変わっていました。

時間経過のことを尋ねるとこれは、出身国の時間軸にあわせていると言います。

先ほどの街の人々はほとんどがNPC。

実際のプレイヤーは各々の時間の自由に、街や冒険に出ていくというのです。

先ほどの街中でプレイヤーはどのくらいいるのかと尋ねれば、

ナビは「40人はいましたよ」と教えてくれました。だったらもっと、気さくに話し掛けてくれればいいのに、とため息が出ます。

ベッドに倒れ込み、そのまま考え込みます。

こんな馬鹿らしい企画に勝手に参加させられて、相棒みたいなキャラクターはあれほど性格が悪くて、ナビの人とも相性が悪い私です。不運です。

もし代われるならば、代わってほしいくらいです。


(ゲームなんて嫌い……)


時間の浪費でしかありません。

そんなものに、こんな膨大で壮大な愚かしい計画が世界規模で企画されているなんて笑いがでそうなほど呆れます。


かつて、そう前は……好きでした。

美しい幻想的な映像が画面の中一杯に広がっていて、格好いい綺麗なキャラクターが動き回る世界。

美麗なキャラクターだけじゃなくて、癖のある面白い人とか、むかつく悪役とかが登場しても全部まとめて好きになっていました。

エンディングを迎えやり終えるとあの達成感が楽しかったのです。

回想が流れれば感動はひとしおで、格好いい台詞とか共感する考え方等

当時はまねしていた時もありました。

でもだんだん飽きてきて、くだらなくなっていつか嫌いになっていました。

理由はあります。

くだらない、弱い理由でした。


「私はゲームなんて嫌いです」

【はい?どうしたんですか??急に??】

「ただの現実逃避の高い玩具じゃない。そんなことしてるなら、まだエステに行ってる方が無駄じゃないです」

【おーい、真穂様ぁ】

「そんな私に、できるわけがないじゃない。

こんな招待状なんてお姉ちゃんがやればよかったんです」

子供の頃から変わらない、無邪気で純粋で真っ直ぐな姉。

喜怒哀楽が豊かに感情に出て、両親からも凄く大切に思われた娘。

きっとこんな企画があれば楽しむでしょう。

そして、きっとナビともキャラクターとも楽しく冒険しているでしょう。

こんな世界があれば、こんな企画がもっと早くあったなら。

私は今とはだいぶ変わっていたでしょうか。

室内の光が明るくて、私は腕を目の上において光を遮りました。

何も言えません。

言葉が溢れてきて、今まで気を張っていた分の感情も徐々にほぐれて表れていきます。

不安でした。混乱しました。そして、どうして私なんかがと思いました。


ナビは言いました。


【明日からですよぉ!ガンバですぅ】

「嫌です。やりたくもないです。早く、私の知っている日常に帰して欲しいだけ・・・」

【……貴女にとって私は嫌いな人かも知れない。貴女にとってケイさんは、とっつきにくい人かも知れない。でも、私は貴女がこのゲームの、私の相棒で良かったと思っています】

「なんで、ですか?」

【あ、根拠無しです。勘ですよ(笑)】


話になりません。

以来私は閉口してしまいました。

相槌も一切なく、沈黙の部屋に私はただ何もせず、ベッドから、暖炉の火が、静かに

静かに消えていくのを見つめていました。


イヤリングからナビの声が物静かに言いました。


【ふふふ……でもね。私の勘あたるんだよ】


眠気のせいでしょうか。

ナビの甲高いいつもの声が優しく柔らかい声色に聞こえました。


【扉をひらいたら冒険開始。否応なしにはじまります。貴女は無理矢理の参加者だと言います。

でも……これも貴女の人生に意味がある。ただ、プレイに興じてそれを見えない人に、

きっと『陰陽の虚現』なんてものは手に入れらないから】


何か長く話しています。

けれどどうせくだらないことでしょう。

瞼が、重く……なっていきます。


【どうぞ悔いのない旅路を。貴女に意味がある冒険を願っています。そして楽しみにしています。貴女だけの物語を。お休みなさい……それでは果てない冒険をどうぞお楽しみ下さい】



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