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≪D:mode キーアイテムの現出≫



私は司馬如水さんのAIを務める事になったグラフィックデザイン部門に所属しているものです。


ダンジョンの絵コンテ、装備や防具のデザイン。

そのような事柄をデザイン、アレンジしてこのゲームに現出させる役目ですね。

デザイン歴28年。実は立派な三十代女性です。

さてAIという役割を皆さまはどれくらい理解しているかわかりませんが、

勘づいている者もおられるかもしれません。


私達は、プレイヤーを誘導する役目を負っています。

ゲームから興じる事を避けないように、より楽しむ為の緊張感も演出したり、

時にはったりを言ったり、事実を織り混ぜたり、基本はプレイヤーの自由ですが

時にそういう役割が必要だったりします。

その為のマニュアルだってあるくらいなのです。

【鶴姫さん聞いてますかぁ?】

妙にねっとりとした声の若い女性を思わせる口ぶり。

彼女が今も私に尚話しかけてきます。こんなのマニュアルにないのですが。

≪はい、こちらAIの鶴姫ですが≫

【よかった、佐助の声、聞こえてますねぇ】

≪えぇ≫

AI同士の交流などマニュアルにありませんし、方法も記載されていません。

警戒すると彼女は言うのです。いいえ、声色が変わりそれは一挙に違う声になりました。

【セキュリティ部門一班所属副長の認識番号9877004の不破雅之です。

すみません!おそらく通達が行くと思うのですが緊急事態が発生しました。

唯一、プレイヤーに接触できる貴方に是非とも協力をお願いします】

≪え、えっと…≫

【犯罪、ハッカーなどの悪戯を危惧するのでしたら今言った音声はきちんと本部に送られているはず。

私が黒ならば、すぐにこの家に警務官がくるでしょう】

喝舌のよい男の人の声でした。

なんだか目からうろこの気分でそれらのことを聞いているだけでいまいち現実味がわきません。

第一私は、プレイヤーに接触できると言っても司馬さんです。あまり意味がないのです。

だって彼はこのゲーム参加の意味もあまり理解していませんでした。

【鶴姫さん、協力でいますか】

≪あの、事態はどうなっているんですか?≫

【すみません。手短に説明します。現在、全AIがプレイヤーとの接触不可状態です。

クエストリタイアを出しても受理されません。システム内のウイルスが影響しています。

数は二種類どちらともシステム内に侵入しなくては排除できません。

つまり、プレイヤーしか不可能なんですが、

事態を知らせるのが貴方のみでしかできないのです】

ちんぷんかんぷんです。私は言います。

≪すみません。私、グラフィック専門でつまりPCに触れないデザイン者なんです。

だからその、わからないんですが。つまりどうなるのですか?≫

【永遠にクエストが終わらず、プレイヤーはこのクエストから出られません。

本部はあと数時間後にこのクエストの強制撤去を開始します。

開始さればものの5分で消えるのですが、プレイヤーに甚大な損傷を受けます】

≪…どういうことですか?≫

【…最悪寝たきりになるでしょうね】

≪そんな…ふざけないでください≫

司馬如水さんに、私は会ったことがあるんです。

終電を逃さぬように走っていた私は、

駅のホームでずっと座り込んでいる司馬さんを見かけました。声をかけます。

しかし何も聞こえてないように彼はぼんやりと虚空を見つめていました。

もっている持ち物でどこの誰かわかり、交番に連れて行くと迷惑そうな顔で警官は対応しました。

常習犯みたいだったのです。

しばらくしたら家族の人が迎えに来ました。

と思ったらそれは家政婦さんだったみたいです。

御家族の方に連絡したはずなのに、どうして彼等はこないのでしょう。

連れて行かれる司馬さんの後姿を見つめながら私は思わずぼやいていました。

すると警官は鼻で笑いながら言うのです。

「邪魔だからだよ。もう早くお迎えが来てほしいというのが本音だろうさ」

それから数カ月後。

街の抽選で司馬さんはこのゲームの参加権を得ました。

どのようなリスクを負う事なるかわからないこのゲームです。

参加意思を破棄されると思いましたが、意志表明代わりの家族は簡単に承諾したのです。

迎えに来た時、委員会の者が私にこう伝えてきました。


―お孫さんでしょうね。言ってたんですよ。子供部屋ができるって喜んでました―


私は無事に彼を家に返す事を決めたのです。

そして一発殴ってやることを決めていました。

それなのに、こんなことになるなんて。

≪なんとかできないんですか?≫

【時間はありませんが、なんとか。…それよりグラフィック担当というのは本当ですか?】

私は思わず所属の認証を確認しました。

認証票にはグラフィックデザイン原案担当長 三笠 初音と書かれています。

≪えぇ、もちろんです≫

【グラフィック出力担当に連絡付きますか?急いで】

私は手元の携帯電話から担当者の須栗ちゃんを呼び出します。

電話口に出た彼女に、私はグラフィックの出力―つまりゲーム内でその姿を現出できうるコード表を出させます。

【幾つかのバリケードと、砦内のマスターキー。それからキーアイテムを出させます。可能ですか?】

砦防衛クエストの原案をファイルから引っ張りだし、アイテム名を確認します。

樽に酒等の生活雑貨品のアイテムや武器調度品のデザインを確認します。

人物デザインのところは飛ばしました。

アヴァロン制作者が送ってくるものなのですからノータッチです。

マスターキーとバリケードはあります。しかし、キーアイテムは既存ありません。

【新しく認証登録は私の方でできます。その場合、10秒の間に登録ですができますか】

≪む、無理です!私言ったじゃないですか?この歳になってもPCはよく使いません!≫

間違ったら大変な事になるそんな責任負えません。

その時、マイクが何かもの音をたてました。

耳を澄ますと、次に聞こえてきたのは女性の声です。

【もしもし、すみません。私の方でもバックアップしますからお願いします】

事態をなんとかしたいのは私も同じです。でも、けれどできっこありません。

同情もします。なんとかしたい気持ちもあります。

でも限界があります。だって「他人」なんですもの。

【私、不破(ふわ) (えみ)と言います。…システム現出開発第三班です。

コードはわかります。だから…お願いします。直江真穂は私の、妹なんです】

唇をきつく噛みしめ、私はモニターを見つめます。

司馬さんの抱きつきを戸惑いながらも邪険にしない女性。

「和子~」と言うと「はいはい」と言いながら無視をしないそのやりとりを見つめます。

私は…原案の中で没になった武器を一つ取り出します。

アヴァロンというゲームならばこれを外せないだろうと思って作った武器。

私はその原案を出すと、須栗ちゃんに新しい出力コードを聞きだします。

それから「佐助」と名乗る二人の男女に告げました。


≪武器ナンバーXX0315、ポイント7地点でないと難しいですが…やりましょう≫

【了解。鶴姫さん、笑、スタンバイだ。あのクエストの終止符を現出させるぞ】



***


「はぁ、なるほどな。直江真穂のAIは不破夫妻だったか。

で、あの爺さんはカリスマデザイナーの三笠さんねぇ…すげぇすげぇなぁおい、

で接触可能は…三笠さんのみか」

俺は愛用の電子端末をいじくった後、「通信不能」となっている欄をもう一度クリックする。

与六との連絡が取れない。

今さっき、セキュリティ部門者のメールを開けば、

そこに緊急事態の通達と対応が書かれていた。

プレイヤーには今回の混乱は伝えない意向。

キークエストを探しだし、それをオンラインキャラクターに使用させることが

クリア条件であることを伝えるだけに留める、というものらしい。

その通達画面を横にスライドさせて、もう一つのメールを俺は開く。

本部から届いたメールというか文書である。

内容は簡単だ。

「防衛クエスト強制終了後、プレイヤーを救出、必要があれば隠蔽。

後にこのファンタジー試案計画に運用されたアヴァロンを抹消、ね」

おそらくあの本部の勢力一部の一つがこれ幸いにと乗じて決定通達を送ったのだろう。

事後承諾という処理を後日しっかりする算段もついているわけだ。

俺は駄目もとで議員にこれを伝えると、

アヴァロン製作者兼人物グラフィックデザイン者であり、取締役の一人に通達をするように頼む。

できることはした。

そして今、それぞれができることをしている。

外は十分に頑張っている。

管理者からの連絡に寄れば唯一の方法であるキーアイテムの現出作業に

とりかかり、わずか10秒の間にキーアイテムの固定とクエストシステム内に着床させた。

さすが不破夫妻といったところか。

俺はこの後、会議付きが連日はいっているので手助け不能だろう。

「さておっさんたちは結構頑張ったぞ、もう内の奴等が頑張るしかないんだが」

与六のケイへの敵意を思い出す。真穂不在を思い出す。ケイの性格を考える。

そして、司馬という爺さんとマリアを思い出す。

我ながら苦々しい表情を浮かべた後、電子端末を鞄にしまって、次の行き先を

運転手に告げる。

「チームワークだぞぉ、与六よぉ」

と、おっさんなりにエールを呟きながら、車窓から流れる街の景色を眺めていた。


***


現れたのは石の台座に突き刺さった剣でした。

透明な刃に、青と銀の見事な細工の美しい剣でした。

刃にはルーン文字でしょうか。刻まれています。

「どうして…これ没になったんでしょうか」

≪本部からの駄目押しです。これを使えるのはただ一人って≫

「…どんだけオタクなんだよ」

雅之はため息交じりに呟いた後、冷蔵庫の方に行き、冷たいコーラを取り出す。

グラスにいれた二つの内一つを、私に渡してきます。

「ありがとう」と言いながらも、

私は必死に震える手を抑えていたので、飲み物を飲めませんでした。なんとかできたその武器の出力ですが、

美しいことこの上なく、

そしてどこか畏怖を思わせる剣の迫力におさえていたのかもしれません。


「伝説でも、そして今も…運命に連なる聖剣だなんてな」


雅之の言葉を耳にしながら、次に私は視線を真穂のうつる画面に向けました。

司馬さんが無理ながら傍にいる真穂が動かなくてはなりません。

あの剣を抜けるのは司馬さんと真穂に限定してしまいました。

そうでないと例えば与六君が触れるとユダやインフィニティのウイルスに侵され、

あの武器が無効になるおそれがあったのです。

司馬さんは鶴姫さんの話によると期待できそうにありません。

だとしたら真穂しかいないのですが。

「あとはあのお嬢さんが剣を抜く為にクエスト内にストーリーモード状態の方へと

切り替えてくれないと…なんにもならないな」

「…えぇ」

私の不安を察したのか、雅之はぎゅっと肩を抱きます。

私達は真穂をよく知っています。

だから不安で仕方が在りませんでした。

真穂はみんなの為に、剣を探す役目を果してくれるのでしょうか。



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