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『防衛クエスト第12班に決定だ』


金時計の重さがしっくりこない。

太陽から射す光が地面に複数の人影を映しだす。

それが塊から散り散りになり、やがて二つの影が残る。

その影は動く。

石畳の集合広場を離れ、そのまま右の塔に入って行った。

陽光から離れ、薄らとした頼りない蝋燭の輝きが室内を照らす。

石造りの室内はひんやりと冷たい空気を溜めこんでいた。

同時にちょっとカビ臭い。

佇む男が一人いる。

「やぁ、随分遅くにこのクエストに参加だね。

君ほどのプレイヤーならばすぐだと思ったんだけれど?最後のクエスト参加者だなんて…ふふふっ」

その男は金色の目をしていた。

髪は銀、隆々とした筋肉は浅黒く、纏う衣服は厚手の赤色をしている。

それに白い上着を被せ、天の歯車を思わせるデザインで結ばれているベルト。

「……待ってよ。警戒しないで、僕はローザというんだ。

ねぇ、僕と組まない?僕はウィザードプレイヤーだよ?そして彼女が僕のパートナー」

笑って紹介したのは、銀色の包囲を着た金髪の短い髪の少女でした。

しかし表情はなく、ただ虚を見つめる瞳がこちらを見るだけでした。

「彼女はウィザードのジェーン」

女性だ。後ろを一瞥した。

期待していた。いつものような反応があるのかと思った。

でも、後ろで微動にもしない。俺は頭を振り、それから男を見た。

「組む気はない。…だいたい、プレイヤーメイキングまでしている奴、信用できるか」

「中にはパーティを組んでいる。みんな賞金が欲しいからな。山分けでも構わない額だし」

「……俺はこのゲームを楽しみたいんだ。改造をしたやつになんざ仲間とも思えない」

「なんだよ。お前だってそうじゃないか?そいつだって」

「俺は、お前と違ってステータス変わりしていない」

「黙って従わないから壊したんだろ?人格プログラム、違うか?俺もさ!俺も壊したんだ。

だってこいつさ!言うんだ!魔女じゃない!!私は魔女なんかじゃないって!わけわかんないよな?!

ウィザード職業なのにさぁ、なぁ。魔女じゃん、なぁ?」

胸が熱くなり、相手を睨む。それから歩み寄りその胸倉を掴んだ。

身長さあるし、向こうのほうが大人だ。でも、俺は怒らなくちゃならない。

「俺は、好きこのんで意志を壊したんじゃない!!お前と一緒にするなっ!!!」

胸倉を突き放す。壁にぶつかったそいつは鼻で笑い、去っていく。

『おい、大丈夫か?ったく、無茶するねぇ。若さゆえか』

「……」

『おーい、与六君』

「……おっさん、俺は……俺は!」

イヤリングから聞こえる声は、しばらく何も言わなかった。

やがて声が出てきた。


『おっさんがお前にこの方法を選ばせた。

トラントの人格は既に崩壊を起こしているから、もう…お前さんがこいつと冒険ができるのは…、この方法しかない』


暗がりからゆっくりと出てくる。

蝋燭の光に照らされて浮かび上がってきた顔は精悍な表情。

しかしそこにはガラス玉のような目がはめ込まれているだけの動も生気も感じられない。

女性がいればどこからともなく花を出していた。

恋人がいれば褒め称え、恋の様子を見れば恥ずかしいくらい応援していた馬鹿。

俺のことをガキ扱いするし、頭をぐしゃぐしゃに撫でつけ押す。

命令もそれほどきかず、好き勝手放題するオンラインキャラクター。

最後に笑っていたのは、あの龍を倒して戻って来た時。

集会所で俺に笑いかけた顔が最後だった。

以来トラントは倒れ、ずっと目醒めはしない。

梵天丸のおっさんが言うにはHidden jobの技能を自分から無理やり解放したからだという。

それは最大のオンラインキャラクターが取らない禁じ手だ。

よっぽどじゃないとそんな方法はとらない。取るならばクエスト失敗か深手を選ぶ。

でも、トラントは選ばなかった。

理由なんて考えたくもない。きっと俺が大嫌いな、トラントらしい理由だったんだろう。

ぼんやりと相棒を見ている。

するとトラントはおもむろに、自分の袋から何かを取り出す。

緑色をした味のきつい薬草だ。この防衛クエストが出る直前にやった討伐クエスト。

それで負った傷を治そうとしているんだろう。

機械的にそれをトラントは食べようとしている。

俺は思わずその手から薬草をむしり取った。袋にある薬草を全部俺が掌握する。

「……」

「食べるな…お前、食べないって言ってたじゃないか」

「ご命令ですか、了解しました」

丁寧な口調で俺に物を言い、トラントは沈黙した。

トラントを見る。むこうも俺を見ている。

けれど本当のあいつはもう何も言わず、何も見ていない。

『…12班だ。防衛位置は東の塔。行くぞ?与六』

「…」

『ほら、行くぞ』

頷いた。それからのろのろと、東の方へと続く道を順に歩いて行く。

幾人の者達がいて、いくつの不思議な明かりをともすランプや、

金に銀の調度品。幾つもの鎧や武器が所せましと並んでいる。

西洋の中世の時代が大好きな俺は喜んだであろう。

でも心がどうもついていけなかった。


―― はじめまして。私は、トラントと言います。以後よろしく…?お、子供かい?―

丁寧な物言いが急に柔らかくなる。それから、小さな俺を見て少々笑った。

それを咎めると、思案した後、素直に言い加える。

― すまなかった。男の子だものな、大丈夫、で名前は?――

与六と言えば馬鹿にしたことを謝罪した舌の根も乾かないうちに爆笑する。

笑うなと言ったら納得して。

―そうだな。ご両親が名付けた名前を笑うものでもないね――

と聴いてくれた。

あいつと俺が初めてであった日のことだ。


『与六…おい着いたぞ』

「えっ、あぁ」

辿り着いたのは東の塔の中部。

下も上も螺旋状の階段が続いているその真ん中に位置する。

前に扉が在り、12と彫り刻まれた鉄扉がある。

俺はその扉を開けた。

明るい顔をしておこう。初対面の誰かに気を遣わせたくないものな。

部屋の中にいたのはシルバーブロンドの女だった。

綺麗にお団子にまとめられた髪は編み込みまでされ、ショートにまとめられている。

切れ長の目をしたしかし、あどけない少女の面影を残す顔をしている。

深緑色のシンプルな、服。上下とも同じ色で、茶色のブーツを履いている。

手には長い銃を持っており、腰には剣をおびている。

「貴方も仲間か。プレイヤーがいるのだな」

物おじしない態度に、俺の方がたじろぐ。

しかし、俺は部屋に入り彼女の陰に控える人影に目をやった。

皺の刻まれた横顔。灰色の髪を一つにまとめ、すやすやと寝息を立てて鼻提灯までぶらさげている。

その老齢の男の首からは金時計が見えた。

「………あれがあんたのマスターってとこか」

「…………今起こす。待っていろ」

少女は踵を返す。

それからさっき俺に話しかけた同じ人とは思えない声と態度で老人を起こす。

老人はむずかるが、ゆっくりと起き上がり俺の方を見る。

二カッと笑ってくる。のぞいた歯に、金色の輝きがぴかりと見えた。

「太郎じゃないか!?お爺ちゃんに会いに来たのかのぉ」

と俺に突進してくる。だきつき、頬釣りをしてくる。

「マスター。それはお孫どのではございません。どうか、どうか離れて下さい」

「嫌じゃ嫌じゃー。太郎から離れてくないぞ」

俺は太郎じゃないぞ。人違いだ。

だいたい自分の名前もなかなかだと思うがそんなデフォルトな名前もゴメンである。

「マスター、申し訳ありませんが」

少女は老人の耳を引っ張り、俺から引き離す。

すっかりふてくされた老人は、しぶしぶ俺から離れて少女の傍に行く。

「私はマリア。職業は戦士です。こちらの方は司馬如水といいます。貴方は?」

「俺は与六。そして、こっちがトラントで、騎士だ」

「騎士…なんたる幸運。感謝します。共に守り抜きましょう!」

清々しい物言いに、素直な態度。

普通にさっきの男なんかより好感を持てる。

先程の老人はどうやら少々ぼけているらしいが、俺は安心した。

「ほら、貴方も。仲間ですよ。私達三人、頑張らなくては」

マリアが誰かを引っ張りだす。

腕をぐいぐい引っ張って俺の前に引き連れてきた。

その男の顔を、俺が忘れるわけがない。


「ケイといいます。お初にお目にかかりますね?どうぞ、よろしくお願いします」


全身の血液が沸騰する感覚。

今にもその衝動にかられ、そのまま心に従おうとした。

『やめとけ!…そら、握手だ』

梵天丸のおっさんの声にぐっと、踏みとどまる。

それから俺は無表情のまま、笑顔のケイを見つめて手を差し出す。


「はじめまして…よろしく」


――防衛は今の時刻から、2時間後に開始される。


俺はそれから明け方までずっとこの男に背中を預けなくてはならないのか。

トラントを見る。

しかし、人の気なのまるで感じてないように、ただパーティー結成を祝っていた。

拍手をする。

一定のリズムで規則正しく、拍手を俺たちに送っていた。

淡白なリズムを、俺が止めろと言うまで繰り返していた。



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