【防衛クエスト、スタート!AUTOモードを選択します】
似た熱気を覚えています。
小学校の時は運動会の応援合戦の時でしょうか。
中学生の時は学園祭の後夜祭。
高校生の時はインターハイの打ち上げの日。
大学生の時はなんだったでしょうか。
社会人になったら壮行会とか、新社員とかその歓迎会やらと同じ雰囲気でしょう。
右も左も人だらけ。
目を静かに閉じ、それから一息ついた後目を開きます。
鎧の人や魔術師風の人、筋肉隆々の人や、細身で忍者な雰囲気の人もいます。
みなが一生懸命に最前列に位置する人の演説を聞いています。
今回の場合は指揮官。
「我々ひとりひとりは非常に微力だ。しかし、みなが揃えばそれはただの防壁に成ると信じている」
空気が割れんばかりの拍手に歓声が上がります。
それをため息交じりに見つめながら、私は隣のあてにならない人物に尋ねます。
「私、帰っていいですか」
「おやおや、プレイヤーのお嬢様。これは他のプレイヤーと仲良くなる絶好の機会です。
それに吊り橋効果でもしかしたら、貴方は案外お手軽に出会いが在るかも知れませんよ。
リーチェさんやダンテさんのような仲睦まじい感じが理想ですかね」
「…止めて下さい。本気で」
「かしこまりました」
丁寧に言い方にもいちいち勘に障ります。
私が睨み上げると、ケイは顔色一つも変えず言いました。
「いちいち顔にだしてどうしますか。今更あの二人にどうこうできるはずもない。
クエストは終わったんです。いい加減切り替えたらいかがですか。その為の休日だったでしょ?」
「休日どころか。変な子供にからかわれました」
「子供?」
「…………えぇなんか、僕は誰でしょうって…馬鹿みたいです」
【……それセキュリティホログラフじゃないですか】
イヤリングから声。なにやらいつもより少々深刻さが感じられる静かな声でした。
【気をつけて下さい。私達って一回、ハッキングしたりしてますから運営からマークされているのかもしれません】
しかしみんなしていることなのでしょう。
黙っていると、佐助は察して応えてくれました。
【えぇ、みんなやっていることです。私達以外にも、ばれているものだけですが34件報告されていますから。
でも気をつけて下さい】
「いつもと調子が違いますね。そんな話し方だったら私だっていちいち」
「真穂さん、どうしますか?」
「えっ?」
「クエスト開始前にいったことです。もう、選択できましたよね。そろそろ最終です」
ケイは端的に言い、解答を促します。私は、言いました。
「つきあっていられません。私は見物させてもらいます」
似た熱気を覚えています。
小学校の時は運動会の応援合戦の時でしょうか。
中学生の時は学園祭の後夜祭。
高校生の時はインターハイの打ち上げの日。
大学生の時はなんだったでしょうか。
社会人になったら壮行会とか、新社員とかその歓迎会やらと同じ雰囲気でしょう。
右も左も人だらけ。
私はいつも、こういう場所がわけもなく大嫌いです。
***
白い文字列が消え去り、表示に[ PLAY auto ]が出てきます。
落胆しながらも、心のどこかでホッとしていました。
「どうして君の方なんですか?」
ケイさんが尋ねます。
【ばればれでしたか?】
「私が性の区別がつかないと?それほど盲目していませんよ」
苦笑します。
彼は今、プロジェクトのおかげで手を離せず今回は私が代わりを務める事になりました。
彼がつくりあげた「佐助」を演じようとしますが、時折地が出てしまうのです。
何度か代わってもらった事もありましたが駄目ですね。
あの子のことになると、とても心配なのです。
防衛クエストはストーリーモードと討伐モードの参加スタイルが選べます。
多くのプレイヤーはやっぱり臨場感を味わいたいものですからストーリーモード。
その場合は、自らの身体は捨てて意識を電子化してもらわなくてはなりません。
消えてしまったあの子の跡を見つめました。
【よろしかったのですか?他の方はほとんどプレイヤーが一緒】
「だから、不利だと?貴方は私にあのお嬢さんのお守をしながらクエストクリアを果せと言うのでしょうか?
至難の業ですね。あいつくらい強ければ問題ないですが」
ケイさんはため息交じりに周囲を見渡していました。
「ずいぶんいますね。この島国にいるプレイヤーが集まっています。……19人ですか。しかしずいぶん減りましたね」
【ご想像通りです。当アヴァロンに不正ルートアクセス、及び改造も施されたオンラインキャラクターがありますね】
「どれくらいいるかわかりませんか?セキュリティの彼殿は」
彼は確かにアヴァロンセキュリティ部門一班の副長です。
しかし、セキュリティブラックボックスのことはわかりません。
あの子に接触した少年と言う誰かも、彼の管轄下ではないのです。
調べていますがNPCを含め、あのようなキャラクターは存在しません。
【株式会社シュタイリアンとLLO機関、加えて有限会社オニキスと鋼組も。
後はモリビアンス製薬やヴィンゲート、ゲインズザックも参入しています】
「申し訳ありませんが、私はそちらの世情に疎い。つまりどういうことですか」
【内4人がヴィンゲートの傘下子会社です。大企業が本気で賞金を狙っています。お気をつけて下さい】
私はどうしようもないけれど、とんだ気休めを彼に送ります。
頑張ってと言っても、彼にどうしようもないでしょう。
けれどもケイさんには頑張ってくれなくては困ります。
私は、あの子にこれ以上ここにいて必要以上に傷ついて欲しくは無いのですから。
「姉心ですか?でも、あのお嬢さんにはまだまだ届きませんし、無駄に終わるかもしれませんよ。
貴女の徒労など罵倒されてね」
苦笑し、それからなんだかもう隠すのも馬鹿馬鹿しい気持ちになりました。
本当にこの人はどこでそう気がついたのでしょう。
完璧のつもりだった上、これといった態度など出していないつもりでしたのに。
沈黙していると、彼は言いました。
「おや、適当に言ってみたのにあたりましたか?言ってみるものですね」
【何を言ってるんですかぁ?もぉ、ケイさんたら、エッチ】
私の横に彼がいます。
彼は頷いて、「いいよ、もう」と微笑みました。
しかし首を横に振り、私はこのゲームを今度は全て見つめようと決めました。
後ろの彼の本業のモニターを見つめます。
幾つもの配電盤やモニター。熱を冷やす為の冷房がきいた個室で薄暗い個室。
ピンクの河馬さんのマウスと、子豚さんのモニター拭き。
その中央に位置する黒いPCの画面は蒼白く光を放っています。
― 青いエメラルド ―
背筋に悪寒が走り、私は彼の方を見ます。
音声オフにした後、彼は私にとても震えた声で小さく言いました。
「言語上では青も緑もブルーと捉えるが、実質的には青いエメラルドなど存在しない。
…でも在るんだ。しかるべき基準時と用語を選べば…な。意味することわかるな」
頷きます。
確かにこのような状況の場合、あの子がいないのはベストの選択だったかもしれません。
画面に映る一人だけのケイさんを見つめました。
解散している姿で各舞台に分れて防衛につくそうです。
砦に逃げ込んでいる非戦闘民を守りぬき、魔物の進行を防いで、明け方にくる援軍を待つ。
それまで死守してこれを戦う抜くクエスト。
ケイさんは息を吸い込み、そして吐き出している姿。深呼吸でしょうか。
彼でも緊張しているのかと私は見つめていました。
遥か頂き、砦の天辺に聳え、風に吹かれてはためく旗を見つめています。
笑って何かケイさんは呟いていました。
しかしその言葉はあまりにもささやかで小さく、声にも出さない言葉でした。
読唇術の術なんてわからない彼と私にはケイさんが何を言っているのかわかりませんでした。




