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ファンタ試案計画中間報告



冷房がきいた部屋は涼しいを通り過ぎて寒い気持ちがする。

クールビズで幾分か首元が苦しくないが、やはりメタボリック気味なおっさんには

きつい季節になったわけだ。

電車に乗ればやれ加齢臭、娘にはお風呂は最後にはいれと言われる。

洗濯物を片づける妻すら渋い顔をする。少し気にして香水なんかをつけてみたが、

加齢臭は強かった。

以来、俺とファブリーズはどこいく時もお友達になった。

「山田君、どうしたのかね」

実はかつら歴が長いこの上司が、心配そうに小声で話しかけてくる。

「議員」

俺は少々真顔で尋ねてみる。

彼の耳元にかけよってこちょこちょこちょっと内緒話だ。

女子高生みたいで萌えるだろう?残念ながら絵柄は40歳越えたオジサンだけど。

「山田君」

「はい」

「抜け毛も加齢臭も歳は誰もが巡ってくるもの。苦も喜も享受しなくてはならないんだよ」

懐かしき学校の校長先生の顔をする議員。

そして元学び舎の教え子である俺は、「はい」とかしこまった返事をして、苦笑する。

俺様はこの国家公務員の議員で重要なポストの男の秘書様だ。

彼が行う汚いことを生涯黙っていかなくてはならない。

の、だがこの男。全く持って尻尾を出さないのだ。

潔白なんて言葉は幻想だと思ったのだが、この議員がせいぜい人から受けたお金なんて、

味噌ラーメン特盛り890円。無論、俺からである。

さて、話はさておき、俺様達がここにいることになったのは現在進行中の世界プロジェクトの出資者であり業務責任関係者であるからだ。

そう、みんなは想像できるだろうか。

俺の目の前には無数の外国人が大ホールに集まっている。

さながら民族大集合と言った様子だ。

主役進行役はこの場を持つ国である世界最大人口の国だろう。

俺は隣に座ることを赦されている。なんでかって?それは俺が通訳者だからだ。

「山田君の言い方が一番意訳ではない。それがとても好ましいからね」

笑って俺を指名して来たこのカツラ議員様のせいで俺の仕事が増えたというわけだ。

勘弁願いたい。


手元に配られた資料に手早く目を通す。タイトルはファンタ試案計画中間報告書。

報告が連ねられている中に、既に危険な異常が何件も報告されている。


咄嗟に、あいつの顔がうかんだ。

俺は梵天丸としてサポートしているプレイヤーを思い出す。

最初は単純な奴だと思ったんだ。

青臭くて、自分が主人公だって思って生きている今時のガキ。

個性をいかす教育だかなんだか知らないがあの年代は少々性格を矯正されてもいいんじゃないかと俺は思っていた。

でもあいつは「違う」んだよな。

あいつは「違う」んだよ。この意味に勘違いするやつはそうすればいいんだが、な。

各企業がいろいろなことを言っている。

運用だか、誤算だか、絶望的だか、有効とか。

早い話は流通系に関しては良いが、福祉系には大変な諸刃の刃だと。

教育に関しても同じことがいえる。

プレイヤーに委ねられるのだから、プレイして万華鏡のように見える結果を

統計に直し、分析し、数値を洗い出して完了。

俺はただ言葉通りにイギリスの、格調高いらしい英語という公用語さまを

格調高い日本語に直して議長に聞かせてやる。

結局大ホールで缶詰七日間。

俺たちは数名に絞られたプレイヤーたちに注目しているわけだ。

現在いるプレイヤーは開催島国一国に、7~27名となっている。

だいぶ減少している。

その原因はおそらく「競争」だろう。

賞金がかかっているんだ。人の欲って言うのは本当に業深いものだと思う。

俺様流逃げ口上「洩らしそうです!トイレ」と豪語して、

今はようやく束の間の一時を、煙草をふかしながら青天の下くつろがせてもらっている。

「防衛クエスト……ね」

島一個分の残ったプレイヤーが勢ぞろいするクエストだ。

そんなチャンスを、果して各方面のプレイヤーたちが見逃すと思うだろうか。

確実にプレイ人数が減っているということは、確実に潰そうと考えているやつが少なからずいることになる。直江真穂との件もある。

トラントの今の状態を考え見るに、樋口与六にとっては劣勢に尽きるだろう。

「……時間がねぇな。あいつの望みどおりってわけじゃないが。代替案を手に入れている。

試すしかないだろうが」

トラントと与六の掛け合いを思い出す。すると俺様は柄にもなく、三度目の躊躇を

感じていた。


しかし、ゲームには既に異常が報告されている。

悠長なことも言ってられなくなっていた。



***


子供を相手にするというのは本当に体力がいるわけです。

「僕、遊園地行きたい」

「あるの?そんなの???」

全部のアトラクションを豪遊。

大人で言えば遊園地行くと、それ以降はずっとそのまま同じ場所で遊ぶでしょう?

それなのに。

「次動物園!」

「え、何処にあるの??」

全部の動物を見て回って、もう夕方になりました。

帰る時間だと思ったのですが。

「何の為にお姉ちゃんがいるのさ!成人保護の下だったらこの時間以降も遊べるでしょ」

「え、まだ行きたい場所があるの??」

「夜の学校探検!!」

「無理!無理です!!不法侵入です!!駄目!!やめよう!!」

学校は断固阻止できましたが、

よくわからないことに今現在。

この十五歳の子供同然の男の子と共に、街の中にある巨大な観覧車に乗っています。

夜景が美しい時刻。並ぶ人は皆、カップルばかりの中、私はこの少年と

ゴンドラに乗り込んだわけです。

なんだかとっても残念無念な気持ちになりました。

「あぁ!楽しいなぁ!」

全体重を勢いよくゴンドラに預けたのです。

が、ゴンドラはたいして揺れません。私はこの少年の向かいに座り、どっと疲れが身体を巡る感覚を感じ、溜め息をついていました。しかし、少年は私に気遣う素振りもないです。無邪気にはしゃいでいる様子は15歳よりも幼く見えます。

「お姉ちゃんも楽しかったでしょ?」

にっこり微笑み返します。

悪いですが疲れましたとだけ言いたかった気持ちです。

でもぐっと堪えてここは、子供の言葉を肯定する大人の姿勢が必要だと思ったのです。

「でしょ!だって僕、こんなの全部初めてだもん」

「へ?」

「遊園地も動物園も僕、しーらない!観覧車ってのも凄いよね!僕知らなかった」

そうか。確かこの子はオンラインキャラクターのはずだから知らないのでしょう。

そのことにいちいち感想や感慨を加えるなんて手の込んだNPCです。

「…あっくん?そろそろ気がすんだ」

「え、うーん。そっか。そうだね。お姉ちゃんは暇じゃないのもんね。これからとっても大変なんだから」

「そうですねぇ」

私が今回の件でいろいろショックを受けていること多々あります。

しかし、一番如実にきたのは


一カ月経っていました。


そうですね。道理で都合よくケイがあのクエストにやってきたわけです。

よくよく考えたら最後にあいつの姿を見た時は、死体のように動かなかったじゃないですか。

でもだからと言って、一カ月はありえないでしょう。

一カ月の対価があまりにも満たない気がしてありえません。

加えて後味の悪さは半端ありません。ゲーム、そうあれはゲームなのですが。

「お姉ちゃん…?」

「…え」

目に溜まったものが、顔の輪郭をなぞって落ちていきます。

涙でした。

でもなんですか。どうしてこれが流れるのでしょう。

哀しいとも至るには気持ちが足りない。

嬉しいとも全然違います。悔しいという言葉も違います。

私は、私が泣いている理由が本当にわかりません。

「大丈夫だよ、お姉ちゃんと一緒に頑張ってくれる。きっと守ってくれるよ」

眼の前の子を見つめます。

「だってあの人は」

「あっくん…?」誰のことを言っているんですか。

観覧車が一度揺れました。でも私はその少年から目を離せません。

瞳の奥の光が奥深く、底の見えない暗い色があったような気がします。

15歳より幼い、と思いました。

でも今はそれ以上の、その倍の年齢を思わせる気配がありました。

「あ、ごめんね。教えてあげられない。でも、僕もヒントになるかも」

窓がぴったりと固定されているゴンドラです。

位置も最上の位置に来ています。

それでも、何の前触れもなくまるで幽霊のように男の子はいなくなりました。

空っぽになった相席を見つめながら、ひとひらの、何か葉を拾いました。

楓の葉でしょうか、色づかない緑色のそれを眺めしばらくぼんやりします。


「僕は誰…急にあらわれて急になぞなぞ?……いったいなんだって言うんですか」


消えた少年といい、

リーチェといい、みなは私になにか言葉を残し

想いを残して去っていくばかり。


自分の気持ちさえままならないのに、

貴方達の気持ちなんて知ったことじゃない。


けれども、前のように手放せない。

微かにあった自分の変化に、私はおびえていました。


そんな気持ちなど他人事のように、

回る観覧車のゴンドラが地上に近づいていました。



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