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【ストーリーモード:終了 金色の船出の出現を確認しました】


ダンテが黒い刀身を振い、メリーが援護します。

その連携のよい攻撃を、そよ風を感じるかのような余裕の表情でリーチェは笑っています。

笑いながら攻撃を避け、高笑いをあげながら反撃を繰り返している。

その様子をしり目に、ケイは私の様子をじっと見つめた後、

戦況のほうへと視線を向けました。


「なぜ?彼がここに来れたの?」

「どうして?あなたはここにきてくれたの?」


ここで私はケイに問いません。

ただ命じました。


「彼女を、眠らせて下さい。できれば安らかに」

「おや、お嬢様のご気分では辱めて殺すのではないのですか?」

「……」

「そう睨まないでください。私の国では女性に対して戦勝者が行うのは当然だったんですよ」


藍色の上着をといたケイは、とても軽装極まりない格好でした。

白いブラウスに茶色のベスト。

同じく何かよくわからない模様の腰巻をしており、茶色のズボン姿。

藍色の裾長い上着を脱いだらこれほどまでにラフな装いでした。

ケイは私をそっと降ろすと小声で言います。


「いいですか?佐助さんの言葉だと、

私とメリー、そしてダンテ君の総戦力を合計しても私達はあのリーチェに勝てません」

「え、でも押しているじゃないですか」

「あれはリーチェさんが遊んでいるんです。本領を発揮されたら負けますよ」

「ならどうしたら」


一呼吸を置いて、ケイはため息交じりに言いました。


「ではお嬢様、私かメリーさんの真の正体を見抜くのですね」

「……じゃあ教えて下さい」

「それだけはできませんね。私はお嬢様のような方に明かす気はありません」

「ふざけてますか?」


これに負けると言うのですか。私がどうなるかわからないのに。


「いいえ、本気です。どうして貴方如きに私を明かさなくてはならないのですか」


ケイは冷淡に言いのけると、私を離して立ち上がります。

そこには普段のケイの気配がなにかありません。

普段ならば容赦のない毒舌を言いながらも、彼はどこか助けてくれます。

でも今は別種の、ひどく人を寄せ付けることも隙もない雰囲気と、物言いでした。


私の甘いところでしょうか。それともケイが私を馬鹿にしているのでしょうか。

真意は分りませんが。

でも今この時ばかりはその全てがなりを潜めて、冷淡だけが一色として彼に現れています。


「貴方はメリーさんの正体を知るメリーさんの真の主人とコンタクトをとることです。

 誰かわかりますね?」

「伊勢…祐馬」


千代ちゃんがいなくなる前に私に教えてくれた誰かの名前です。

「頭がナメクジのような人ではないようです。安心しました」

そういって彼は手に小剣を取ります。


「待って!その間どうするの?」

「……私達は盾として闘うんです。目、大丈夫ですか?」

「貴方だって」


まだ回復してないんじゃないんですか。

私の顔色を見て、実に癪な顔をしたケイは言い放ちます。


「貴方にとって大切にしたのは現実でしょう?それはとても大事な事です。

しかし、どうしてもわからなかったら。リタイヤしなさい。

貴方の痛手は……大変遺憾ですが私が受ける定めのようですのでご安心を」


回復しきっていないはずです。加えてダメージを蓄積すればどうなるか。

「でもそしたら貴方消えるんじゃ……」

するとケイは実に奇妙なものをみるように私に言いました。


「誤解しているようなので断っておきましょう。喋り、触れ、動く者であっても。私はここにあってここにいない。それは、メリーもそして、あのトラントもみな同じでしょう。だから消えることなどになんの恐れもないのですよ。これ、このゲームの常識です」


ケイは言い捨てて、闘うメリーとダンテの方に加わりました。

私はどうしていいかわからず、周囲を見つめるだけです。

累々と積み重なっていく屍の成れの果て。

腐臭がしそうな醜い容態でそこらじゅうを転がっています。私はイヤリングに触れ、呼びました。


「佐助!!居ますか?!!」

【あ、初めてぇ呼んでぇ、くれましたねぇ】

「お願い!!!伊勢祐馬がどこにいるかわかりますか?!!」

【……え、無理ですよぉ】

「なんで!?」

【接触できる可能性があるのは真穂様だけですぅ。だって千代というオンラインキャラクターを創造し、自分はプレイヤーとして参加してるはずなんですぅ。】

「……?あ、そうね……でもなら私、どうしたら」

【真穂様、いいですか?妙な存在がいることに気が付いてますか?それは、メリーです。あの子は千代さんのオンラインキャラクターのはずだったんですが、千代さん自体がオンラインキャラクターである。ということは、誰のオンラインキャラクターなんですか?……それに唯一伊勢祐馬と接触できるキャラクターです。だったら彼女に吐かせるしかない】

「違う。あの人、なんだか違う感じがするの……どっちかっていうともっと別のほうがあやしい」

「じゃあ」

「でもあの中に飛び込めっていうの?」


闘う最中、有象無象に入り乱れる戦いの中に飛びこめと言うのですか?

震えが起こり、足がすくみます。するとイヤリングの向こうから声がしました。


「どうか勇気を示して。貴方の可能性を私は信じています」

懐かしいあたたかい声のような気がしました。


その正体を確かめたくて私は尚も続く言葉を待つのですが

イヤリングはノイズ音をはさんだ後、何も言わなくなりました。

私は立ち上がり、眼前を見つめます。

ケイ達はもうリーチェの前まで辿りついていました。

ダンテの消耗が激しく、遠目から見ても彼は肩を上下させているのがわかります。

ケイは涼しい顔をし、メリーは険しい顔色をしています。


「私の……勇気?」


今まで自分のことと自分の周りのことさえしっかりしていればいいと思っています。

友人も利益関係がなければ交流を生みません。負担に思えば縁を切ります。

上司も踏み台、後輩は駒。家族は無尽蔵な支援者。

そう考えてきたし、間違いではないでしょう。

だから何かを失うとか、守るとかそんな為の努力なんてしたことはありません。

失くしたくないから、消さない為の努力をしたことなんてありません。

方法がわかりません。でももしその方法があるのなら、それは勇気を使うものなのですか。

勇気なんて私にあるのですか?


「……姉ちゃん、雅之さん」


胸倉をぎゅっと握りしめた後、私は思う人のもとへと走って行きました。

足をとられそうになりながらも、一つの確証をもって走っていきます。

リーチェが私に気が付き、目を細めて眺めていましたが

彼女が一振り手をやると、ケイ達が倒してきたすべての屍体が立ちあがります。

構わず走りぬけます。しかし、立ちはだかる者に私が為す術はありません。

でも歩みを止めないのはきっと、どうにかしてくれるはずですから。

眼の前の屍体がばたりと倒れて行きます。

現れたのは明るい茶色の前髪に、厳しい視線をこちらに向けるケイでした。


「その脳みそは飾りですか?」

「ごめん……!ケイ!!後ろ」

「ちっ!」


即座にダガーを投げようとしますが遅い。

リーチェのはなつ大鷲がケイの首を鷲掴むと空に飛び退ろうとします。

しかし、その大鷲の羽根をうちぬく銃声があたりに響きました。


「まぬけ」

「レディ、少し言い方がストレートですよ」


咳き込みながらもケイが言うと、メリーは鼻で笑います。

私はその二人を追い抜いて、勢いよく伸ばした手を肩に置き、振り向かせました。


「伊勢祐馬……貴方でしょう!!」


銀色の髪が揺れ、疲労の顔色がいっきに驚きの表情へとその様相を変えます。

しかし、やがて彼等は苦笑し私に、ダンテは言いました。


「……ばれたか。もう少しだけ彼女といたかったんだけど」


ダンテはそう言いながら、リーチェに視線を向けました。

別の意思だと思っていました。

リーチェと千代が分かたれたのならば、

ダンテも伊勢悠馬も分かたれているのではないか、と考えていました。

でも、違和感があったのです。

観察されているようで観察されることはなく、

ただ滞りもなく淡々とクエストが進められていく。

イベントのスムーズさに、私は違和感があったのです。

まるで誰かがこのイベントの終焉を望み、千代と伊勢悠馬の世界を

静かに閉じたいといったような願いがあるように思えたのです。


諦めの意思がダンテの表情の中にありました。反対にリーチェは言います。

最後の楽園。最後の一時まで彼女はこうだったのかもしれません。

他の誰もがのぞまなくても、たとえふたりの国はとっくの昔の亡国と化していても、

まだ共に。どうか、まだ一緒に。

理知的ぶる大人に最後の子供の心のように。


「貴様等に妾を消せるものか!!消えるものか!!!できるものならやってみろよ!!」


ダンテは剣を、鞘に納めると、それをケイに投げてよこしました。

顰め顔のケイにダンテは「できるだろ?」と言う。

ケイは「無理だな」と笑って捨てようとするがメリーは手でそれを制した。


「もう……いいのか?」


メリーがダンテを真っ直ぐに見て尋ねます。ダンテは応じる代わりにこう言いました。

「父さん、聞こえているだろ?…End of world さ」


ダンテが言うと、次の瞬間。

ダンテ共々メリーが真っ黒い数式の羅列に吸い込まれていきます。

突如この人が前に出てきたのでよく見えませんが、ケイの後ろからでも声だけ聞こえます。


「真穂さん!ごめん……ね」


泣きそうな声でした。




***



システムの隔離状態。

黒と白の数式、電子音が並ぶ中で僕等は二人此処にいる。


「あっさりね……本当に。どうして今までのプレイヤーもそうしなかったの?」


腕を組み、仁王立ちの彼女に僕は苦笑する。

生き生きと動く鷹司さんの姿を見るたびの、決心がつかなかった。

他にはどんな理由があったとしても、これより大きいものはないだろう。

鷹司さんが「架空」と自ら認知しない限り、僕はこのクエストを永遠にするつもりだ。

それを守る騎士になる。たとえ、悪い騎士だとしてもだ。


「だから魔騎士。そしてイミテーションのように私がふるまわなくてはならなくなった。道化にも程がある。なぜ私が」

「でもお前、鷹司さんのこと気にいってたろ。だから、如何なる命令も聞かない」

「……」

「だから鷹司さんの言葉を守ってこっちの言葉全部無視したんだろうが」

「さぁな。正気ではないプレイヤーに対して離反システムが構築されている。

お前はこのゲームにのめり込み過ぎていた。だから千代が自我を持ったんじゃないか。すべてプログラムの範囲内だろ」

「……そうかな」

「別にいい。お前好みの解釈でもいいんだ。私はそれを否定しない」


僕はもう、銀色の髪をしていない。黒い鎧も姿もしていない。

ただの黒髪に、黒い目の、白い白衣の科学者姿。それが僕、伊勢祐馬の本来の姿だ。


「あの黒剣……使えるのか?あいつが」

「使えるはずだ。彼が僕やメリーを一時的に繋いだ力にあの性格……ふふっ本当に伝え話通りだね」

「……私はよく知らない。お前は本当に好きだな、そういう類の話が」


最初詳しくはなかった。でも鷹司さんが好きなので、僕は急いでよくその類の本を読んだ。

恋愛。彼女が大好きなジャンルだったかな。

その中に、彼のような人がいたような覚えがある。

もしかしたら彼か彼と思ったけれど、どれもはずれ。実に単純な答えだった。


「真穂さん気がつくかな?」

「どうだろうな。さ、時間が無い。お前は私が誰かわかったんだろ?」

「うん、多分ね。もし間違っていても…構わない」

「本当に、間違ってほしいんだがな。でも正解だろう。……千代が言っていた。

お前が私の名を呼ぶ時以外。私はお前に従わないという約定を結ばされたのだからな」


鷹司さんの笑み。笑い顔を思い出す。

そう僕はダンテの中に静かに眠りながら、本当は彼女を見ていたのかもしれない。遠い日の彼女を重ねながら。


「我は汝の虚像の主。我はそなたの真の主にあらず。我が従えるのは汝の虚陰の意思なり」

唱える言葉はイヤリングを通して、流れる。僕はそれに続いて反復するだけ。


「されど我はさらなる忠誠を望む。汝、その真陽の意思の中。その断片を我はしめす」

僕の金色の時計が警告音を鳴らす。目を開ければメリーは銃を僕に向けて構えている。

そして不敵に微笑みながら彼女は僕に問う。


「だったらあたしの名を、そしてあたしはなんと呼ばれるようになったかも言えるか?」

銃を構えて不敵に笑う、そんな顔が彼女にはふさわしいはずなのにそれがない。

慈しみ深く、どこか柔らかい笑みを称えたまま僕を見つめていた。

正体を間違えればこのゲームはリタイアになる。

再起不能という言葉が何を意味するのか僕はわかるような気がする。

でもたとえそうなっても、僕はこの僕の身勝手ではじめた世界を終わらせなければならない。


「ダーク・レディ……僕等は君の子供じゃないよ」

「でも、守りたかった。お前達の世界。お前達が築いた儚い領土」

「うん」

「いいのか?千代とお前。リーチェとダンテ。それぞれが表層意識となって再会は果して無い。

最初は千代とダンテが、さっきだってお前はリーチェにしか逢えていない。

お前はあれほどまでに諦められない命だった少女と、一度だって逢えていないままだ」


首を振る。そんなことはない。僕はそれでも十分幸せだった。

ありったけの気持ちを込めて彼女の名を呼ぶ。


「海賊女王グレース・オーマリー……ありがとう」


白と黒の文字列、数式全てがメリー、いやグレースに絡みついた後。

それが勢いよく飛び散った。



***



黒い塊が弾け飛びました。


刹那―大きな白銀の錨が鎖音を鳴らしながら豪快に、花畑に落ちます。

黄金の花びらが宙に舞い、次の瞬間、大きな黒い船が現れました。

ケイは私を抱えると、すぐにその船に飛び乗ります。

黄金の花畑に佇むは、ベアトーリーチェただ一人だけになりました。

飛び乗った船には無数の船員とそれを従える女性がいます。

「…なにこれ」

【どうやらHidden job解放されたようですね】

「えっ?」

【見てて下さい。でも危険もしっかり見る事ですぅ】

佐助が言います。

【真明かしをしてこんな大技を使えばもう何もかも消えちゃうおそれがありますから】

私は、メリーを見ます。そしてその隣にいる白衣の青年を見やりました。


「メリー!!」

「違う」


呼ぶ名を女性はきっぱりと否定して言います。



「我名はグレース・オーマリー!どこいくところも我海路、我領土としてくれる。

手始めにこの煉獄を領土としてくれよう!!!」



するとこの船を中心に、水が飛び出してきます。

無尽蔵に際限なく、海水があたりを満たしていきます。

累々とした屍を洗い流し、黄金の花畑もその海中に沈んでゆきます。

リーチェは佇んでいました。

そのドレスが水を吸い込み、彼女の腰のあたりまできてもリーチェは動きません。

「駄目です!!」

私は船の際まで走って飛び降りようとしました。けれどそれはケイに取り押さえられます。


「馬鹿ですか?」

「えぇ!馬鹿で結構です。ケイ離して」

「……?!」

「一人でいなくならないで!!!消えちゃダメ!!」

手を伸ばしたその先にいるリーチェは、微笑んでいました。

口が動いています。何を言っているか聞こえませんが。


「酷いことを言ってごめん」


ケイが唇の動きを読んで、続けて私に教えます。

「ごめん。でも元気になってほしかった。ごめんね、ごめんなさい」

「えっ」

ケイは言いました。

「……悠馬さんに伝えて。貴方は自分を責めたけれど。私は、貴方に感謝してる」

その言葉はリーチェではありませんでした。


「だからどうか、真穂さんもちゃんと自分を許してあげてね」

「……っ!!!!!」


叫んだのに、声は船の出港の音でかき消されました。

こちらを見上げ微笑んだリーチェの顔を最後に、全ては海水で沈みこんでゆきました。

笑顔も、恨みも、後悔も、感謝も愛情も。

そこにあった全てのかけがえのない感情も、全くの無に、海にかえしていったのでした。

うなだれる私に、

イヤリングから佐助の音声が聞こえます。


【ストーリーモード終了。Sending:金色の船出の出現を確認しました】


顔を上げると、確かにそこには金色に染まる海面が在ります。

それが水面下の金色の花によるものなのか。

今こうして煉獄山にさす、美しい金色の夜明け色によるものなのか。

私にはわかりません。


黒い船はゆっくりと軌跡を描きながら、生まれた煉獄の領海を渡っていくのでした。




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