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【クエスト内で戦闘を開始します。追伸:回復完了です】



私は続けます。


「千代ちゃんは貴女だけどこのクエストの終わりを望む。だってもうあの子はいないから」


私は彼女に問いかけます。おそらく彼女は全てを知っているのでしょうから。

全てを承知でふざけ欺き続ける女性。

しかしその様子は変わっていました。


「貴女も千代ちゃんもここにいない。ダンテはそれを知っている。

でももう一人はそれを認めない。ダンテもおそらくそのもう一人も貴女と千代ちゃんの関係と同じでしょう」

「それはなぜ?」


先程のリーチェの声とはうってかわっていました。

続きを促すように。

例えるならまるで幼子が話したくてたまらない今日の報告を、

優しく聴く母親のようでした。


「全員が同じ気持ちでしょう。永遠のゲーム、その中にずっと一緒にいたいから」


このゲームを私が嫌がっていた本当の理由。

それは「ありえないもの」を存在させることができる可能性をあるからです。

たとえ壊れて戻れない関係だとしても、もう一度在るという架空を築きだせる。

そして、それは「架空」だと認識しない限りは現実となりうる。

でもそれは夢のような魔法に過ぎません。

誰に迷惑もかけない、けれど確実に現実に生きる者の幸せを奪っていくこの夢。

その終止符を打つ者に選ばれた事を私は非常に複雑な心地でここにいるのですが。


「そなたも望んでいたのではないのか?家族と、もう一度あの頃のままで」


母が笑う家に。

父が寡黙ながらも、そこに居る家に。

姉が声をかけてくれるようなあの頃の家に。

(戻りたい……でも)

願っていますがそれは無理なのです。

私だけが救われるだけのご都合のよい話です。


「ご心配無用です。私の気持ちなんてものも家族っていうのも立て直します。立て直し続ける。

これは私の責任ですから」

「ふん、そなたは強情だな」

「お互い様でしょう」

「……そうだろうな。妾も、そして私も」


微笑む彼女の顔に、

ほんの少しだけ千代ちゃんの面影が見えたような気がしました。


「しかし我等を看破したところでそなたは戦えまい。そなたの相棒は?」

「役に立たないので置いてきました。まずかったですか」

「まずいな、あぁまずい。妾と伊勢はこのクエストと言う小さな箱庭を存続させたい者。

 それを終わらせるそなたを無傷で帰すと思うか?」

「ゲームエンド。報酬が減りますか」

「たわけが。永遠を絶対にするために、そなたを完膚なきまでに叩きのめす。

再起不能と言う状態がちょうどいい言葉であろう。平常通りに在ると思うなよ」

「そうですか」


イヤリングは先程からずっとノイズ音。メリーも、ケイもいません。

いるのはリーチェのみ。

そして彼女は今から私の敵になるというのに、私には立ち向かう術がありません。

それでもこの言葉を私は彼女に渡さなくてはならないと思いました。

言えば確実に私への引導の言葉になるのでしょうか。


そうだとしても、言葉にしましょう。

これほどまでに乞うような眼差しを向けてくるリーチェの表情。

千代ちゃんの言葉の数々。

伊勢と言う人の、私の言葉と重なるようなあの、聴こえた声。

ダンテのリーチェを思うあの眼差しの全て。

幾つもの彼等が私の脳裏をかすめ、過ぎ去ってゆきました。

口を開きます。


「リーチェと伊勢はこのクエストを終わらせたくない。

 千代ちゃんとダンテはこのクエストを終わらせたい。

 リーチェと千代ちゃんは同じ存在。伊勢とダンテも同じ存在。

 でも、望む心はそれぞれが真逆でしょうね」


決して交わらない平行線のような存在なのでしょう。

ただ根本の願いは同じはずでした。あなたがいて自分が在れば良い世界。

実に都合のよく、実に単純で自己中心な子供のような願い。


「虚でもあっても共にありたい貴女と伊勢さん。でも応える者は逆を示す。貴方達は真に生きていけるように、本当に幸せであるように」

「そうだろうな」

「ならばもう貴女に向ける言葉はこれだけでしょう。どうか安らかに。貴女はもうここにいない」


私の言葉に、手の音がします。

手を叩く音、それはリーチェからの心ばかりの賛辞というような拍手でした。

彼女の表情はとても穏やかで優しげで、哀しげでした。


「それを、妾が快く受け入れようとも、このクエストを作る者が受け入れまい。

 かのものは、受け入れられぬ。彼女を失くした現実そのものを、な。」


リーチェの青いドレスがみるみるうちに漆黒に変わっていきます。

そして、蒼い色の輝きは彼女を纏い、そっと青い指輪に変わりました。

何処からともなく白い鳥がその指輪に止まり、吸い込まれ、リーチェが触れると輝きます。

飛び出してきたのは白い装丁の本でした。

美しい装丁なのにタイトルがない本。リーチェはその本を持つと不敵に微笑みます。

黄金の花畑に一陣の風が吹き、私の身体を抜けてゆきました。

彼女はまるで黄金の花であしらった劇場の盤上で操られる役者のように、仰々しく言います。

いえ、もしくはその運命を嘲笑い楽しんでいるかのようにも見えました。


「さぁ、虚を望みながらも現への回帰を求める者よ。妾に挑み、示すがいい。

 いっさいの容赦はいらぬし妾もせぬ。妾はここに居ることを永遠に絶対にしてみせよう」


あちらはとてもやる気ですが待って下さい。

見事にお手上げです。私にどうしろというのですか?

こんな肝心な時にケイはいませんし、佐助も在りません。

なにかお助けアイテムや、目覚める新能力を期待したのですが妙なとこだけリアリティがあります。

ならば私にできることはせいぜい口応えしかないでしょう。


「ちょっと勝てるわけがないでしょう?どうしろっていうんですか」


口上をのたまおうとリーチェは待ってくれる気配がありません。

私に指をさせば一斉に彼女が従える青い輝きが私の身体を切り刻みました。

赤いドレスがぼろぼろに切り刻まれ、顕わになっている肌には無数の切り傷が生まれています。

これは、治るのでしょうか。など冷静に考える余裕があっても、痛みがあります。


ゲームです。

すぐにリタイアをしましょう。でも口にできませんでした。

彼女から逃げることは、なんだか自分の言葉が負けてしまうような気持ちだったからです。


けれども私ができることと言えば、「リタイア」と叫ばないように

口をつむんでリーチェを見つめることしかできませんでした。



****



【あぁ真穂様ぁ~ピンチですぅ】


そんな声もどこふく風。

回復した身体の調子を見る為に、軽く飛んだり跳ねたりする様子で、

一向にマスターの主に関心を示さないんですぅ。


【ケイさぁん~助けないんですかぁ~?】

「面倒ですね。さっさと退場すればいいんじゃないですか?」


爽やかに言い放った後、彼は、薪を焚いてますぅ。

どうしたらいいか分からず途方に暮れていると、AIマイクが向きを変えらました。


【ケイさん、このクエスト妙なんです。お願いです。……助けてください】

「……?佐助さん、キャラが変ってますよ?ブレがでればキャラもそれまでですが?」

【真面目にお願いしてるんです。このクエスト、成功者がいない……真穂が危ない】

「…………」


別段心を動いた様子が見られません。

今度は、マイクがスタンドから外され、熱を込めてケイさんに言ってます。


【貴方は助けてくれますよね……だってパートナーなんですから】


言いたいことを言い終えた後、

マイクはスタンドに戻され、いつもの位置二戻ります。

ことの成り行きを見つめていると、ひとりぼっちで本拠地にいるケイさんは、

難しい顔をしていました。


「パートナー……、ね」


ケイさんは、何か掌から紙を出しました。

それがずらっと約定めいたものが描かれた羊皮紙で、

何枚かに分かれると、窓を開けて外に投げました。


投げた羊皮紙に向かい、ケイさんは口笛を勢いよく吹くと、

鳩が飛んできます。

空中で複数に増えたその鳩は、それぞれの羊皮紙を身体の中に溶かして、


空の中に、電算処理された空間を裁断して消えて行きました。



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