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【???ルート:『楽園の追放』が決定されました】


銃声を私は確かに聞きました。



引き金を引いた手ごたえも、反動も、硝煙の香りすら匂ったような錯覚もあります。

しかし、今私が立っているところはどうにも煉獄の山でも、

山頂に至ってもいないらしいのです。

私の周りにいたメリーと千代ちゃんがいません。先程からダンテの姿もありません。

在るのは金髪の女性でした。

金糸の睫毛が上にあがり、見えた碧緑の双眸が真っ直ぐこちらを向きます。

その両眼には明らかに虚ろの虚像をみる眼差しとは違っていました。

瞳に私を映し、私の存在を認めています。

青地のフレアの裾ドレス姿の女性は愉快そうにケラケラ笑いました。


「……妾を起こすものがいるとは、面白い。女、名を申してみよ」


妾と称する美女が満面の笑みを向けます。

間違えなくこの前にいるのは私達が探し求めたリーチェの心というものでしょう。

千代ちゃんが言っていました。

胸をさしながら彼女はリーチェの心の在り処を教えていました。

私を殺したらきっと、リーチェの心が出てくるはずだ、と。


「千代ちゃん……」

「……懐かしい名前だ。いや、そなたには馴染みある名前か」

「当たり前です。私がここに来れたのは、彼女と共に来たからです」

だから貴方を起こしたのは私ではなく千代ちゃんでしょう。

そしてきっと彼女に原因があるのだと私は思います。

「くくくっ、全くそなたも奇特な人間よ」

「……なにがですか」

「このゲームを否定しながら、そしてそこに住まうゲームの住人も無下にしながら現実を追い求めるその姿。実に奇妙に映るぞ」

このゲームは高慢ちきな言い方しかできない人物の登場回数が多いのではと、

内心悪態をつきながら、「どうしてですか」と小馬鹿な態度で尋ねてみます。

「そなたは実に愛情を持ってこのゲームをプレイしているのではないか」

「はぁ?なに言ってるんですか、あんた」

「では尋ねよう。どうしてそなたはオンラインキャラクターを変更せぬ?」

「それは……あいつの化けの皮をはがしたい気持ちだからです」

「ふむ、ではなぜ心で拒絶しながらも処々に対して配慮を忘れぬ?これはゲーム。

みなプレイヤーはなりたい自分を演じるものだ。例えばこれだ。ひとつのパーティーがおる。

そこで僧侶である自分を演じ、回復役という役目を与えられ、己の居場所を得て安息を得る。

しかし、代えのきくシステムというのをよくよく知っているからオンラインゲームに頻度高くログインし、興じるというケースがある。このゲームの同じだぞ?皆演じている。

富豪である自分。人の礼節を欠かさぬ自分。人を騙し抜く自分。強者を目指すもの、弱者を選ぶ者。様々だ。しかしお前は?」

「……私はこんなくだらないゲームから早いこと立ち去って現実に戻りたいだけです」

「そのスタンスでお前はこのゲームに興じておる」

「寝言は眠ってからにしてくださいませんか」


私が私自身で懸命に生き抜き、歩んできた人生という今まで。

その結晶たる日常にかえりたいと言うのはそこまで奇特というのでしょうか。


「くく。あれほどの傷痕がある現実にかえりたいというそなたははやり奇特なのでは?」

「なっ」

「残念ながら妾はなんでも知っておるぞ」

「でたらめも休み休みに言わないとつっこみ疲れます。却下です」

ケラケラと笑うその高慢な声に、私は押し黙りました。

人は何か気持ちを追い詰められた時二択ではないでしょうか。

激しく落ち込み嘆くか、烈火のごとき怒りを見せて全てを押し切るか。

私はどちらでもなく、感情を凍らせるのは得意でした。

彼女の言ったことすべて本当であるから、感情がざわめくなんてこともうありません。


「お姫様」私は笑いかけます。


美しく、華やかに笑うその女性に対して話しかけました。


「もうそんな挑発に心を崩すようなほど私は子供じゃなくなりました」


もう六年、私が若かったら違ったのかもしれません。

でも大人というには十分の年齢になったのです。

一つのことを飽くなきまで悩む。

そんな苦渋にも思えるけれど時間がまだ有限と自覚しない若い時節は過ぎ去ったのです。


「時間が惜しい。だから私は、このくだらないゲームに割く時間がひどく焦るのです」

「……ほぉ」

「貴女の正体。ダンテの正体。私が知るには情報が少なすぎます。私のAIもなんだか話しについていってないのできっと助手にもならないでしょう。だからこれは、私の予想です」

貴女は此処にいない。違いますか?」

「どうしてそう言えるのか?」

「千代ちゃんが言っていたもの」


まるで私はここにいてはいけない、と。そして伊勢もここにいるべきではない、と。

たとえそれが自己存在を否定することだとしても、

もしかしたら永遠に続くかもしれない楽土の顕在だとしても、千代ちゃんはそれを否定していました。


意志をもつオンラインキャラクター。

そんなものが在りえるのか。


あの毒舌しか言わないケイも。与六君の傍で笑っていたあのトラントも。

千代ちゃんと語らっていたメリーや、私に話しかけてくれていた千代ちゃん。

そしてリーチェを愛おしそうに見つめていたダンテと、

目の前にいるこのリーチェ自身すらも。



しかし、つきつめればプログラムに過ぎず、私が錯覚しているだけでしょう。

「……貴女は鷹司千代。千代ちゃんは貴女。でも望む心の方向が違う」

「では問うがその差異は?」

「貴女はこの世界を肯定する。自分がいると肯定する。違う?」

「無論。妾はここに居る。自らの存在を否定して欲しいものがどこにいるのか?

妾は亡国と言え、一国の王女だった者。そして、今は虚ろなる抜け殻とかした妾。

それが戻ろうとしておるのだ。そして、妾を虐げた全てに復讐をする」

「……復讐を否定するほど子供ではないです。それが貴女のリスタートになるならいいでしょ、でも虚像だわ」

「ほぉ、そなたにはないと申すか?復讐したくはないと?」

「……貴女には貴女を望んでいる人がいるのに」

「妾を待つ男がいるからか?……ふん、ダンテは妾を見つけられぬ」

「この世界を終わらせる者、だから?」


私の言葉に、リーチェは何も言わず感情をいっさい失せた表情のままこちらを見ます

それはなんだか十分な肯定を意味しているように思えました。


「……そ、やっぱりそうだったんですね」

「…?」


私は一種の妄想だと思っていた仮定を口にします。要素はいくらでもありました。

他プレイヤーが紛れこんでいいストーリーモードにしてはプレイヤーが少なすぎます。

ダンテがどうして、この煉獄山に入った時にいっこうに姿を見せないのか。

メリーがなぜ千代ちゃんに銃口を向けた時、止めなかったのか。

AIの途中のアナウンス断絶。

そして千代ちゃんもメリーもベアトリーチェの自我の前には絶対に現れない現象。


「ダンテは絶対に貴女に会えない。だって貴女に会ってしまえば、千代ちゃんと……伊勢という彼の世界が終わってしまう。違いますか?」


リーチェは、微笑みました。

余裕と言う笑みなのかそれとも、「待っていた」と望み笑みなのか。

千代ちゃんのものなのか。リーチェの演出なのか。


私には分りませんでした。



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