【 選択にはいります。セーブもロードもありません 】
枯れた土地。
しかし幾人か人は見当たります。
腰を折り曲げるくらいの、重い石を担いで歩く者。
目を縫い止められた人が方々に彷徨って歩いている様。
壮絶な煙の中で、何か幾人もの人々がひたすら色々な言語で祈りを口にしている様子。
先ほどから幾人かの人達が私を後ろから追い越し、先に走っていく後ろ姿、影。
他方を見れば大地には五体を地面に深く伏せ、
伏せている様子がドミノ倒しのように長々と続いています。
ともすれば強大な果実の前で噛みつこうにもありつけない代物を前に、
食べることを節制されている者もいました。
歩いて行けば幾人の人を見た。その誰もが浮かべる表情は苦悶だった。
「……地獄でもない。天国でもない場所。奇妙なところ。どうして必要なの?」
しかし、AIの返答はなんにもありません。
イヤリングに触れて、何度か呼びかけてもノイズ音だけです。演出でしょうか。
とても冷静に私は、なぜでしょう。
静かな心地でここにいました。
「誰もいないのですか?」
ケイがいました。佐助がいました。
そしてこの試験プレイという期間滞在中は幾人ものプレイヤーがいるのでしょう。
たとえ周りが誰も知らぬ人であっても、人がいれば独りじゃないと思っています。
でも今ここは、ゲームの世界の中です。
人であるというものはプレイヤーしかおらず、いるのは千代ちゃんだけでしょう。
「千代ちゃん……?」
そういえば彼女がいません。先を行ったのでしょうか。
こちらを見上げる疑いのない眼差し。あどけなく微笑む顔。優しい声色。
どうしてでしょう。
彼女と話しているととても、虚しい気持ちになります。
くだらない感傷でしょうか。それとも私はあのようなタイプは嫌いなのでしょうか。
「ダメダメ。簡単に人を嫌いになって滅多にいいことなんてないんだから」
頭を振って、私は当たりを用心深く見探ります。
人一人一人を、千代ちゃんの顔ではないかと探しました。
「え……」
その顔のどれもが、私のよく知っている顔でした。
いえ、よく知っているのが当たり前の顔。
だってどれも私の顔です。重い石を負っています。目を縫い付けられている最中の私がいます。
どうしてでしょう。
私はここにいます。
それなのに、どうしてみんなおなじ私の顔をしているんですか。
私の声に反応してそのどれもがこちらを見ます。
無表情の顔。
しかしすぐに苦悶の顔に変わり果て、うめき声をあげたり、泣いたりしています。
罵りを口にしたり、祈りを唱えたりしています。
口の中が乾いてゆきました。
頭の中の芯の部分が急速に冷たくなっていく感覚がします。
震える掌をぎゅっと握り込み、私はあたりに構わず呼びかけていました。
「……佐助?」
でもノイズ音がするだけで何も応えてくれません。説明をくれません。
いつもの呑気で腹の立つ言葉もありません。
「ケイ!!」
彼は今回復療養中です。
全く意識もなく、クエストすら参加できる状態でもありません。
皮肉も毒舌もなにもありません。
与六君の顔が浮かびましたが、すぐ否定します。
彼は私が裏切りました。笑いかける顔は最後に、愕然とした表情をしていたではありませんか。
「千代ちゃん!」
誰でもいい、誰か私に話し掛けて下さい。
これはクエストで、なんの本物もないものだと教えて下さい。
私の頭に「架空」という言葉を含めた説明を下さい。
私の耳に「幻」という言葉を囁いて下さい。誰か、どうか誰か。
「…………」
ダンテの姿を探してもその姿になんの意味もないのでしょう。
彼はケイのような私に関係する存在でもない架空存在。無いような者。
「馬鹿馬鹿しい……!」
どうして在りもしない存在にこれほど悩まされなくてはならないのですか。
彼等が逢えないだろうと関係ない。
所詮はゲームの中の作りものでしょうが。
どうしてこれほどまでに私の心をかき乱して行くのでしょう。
朝、家の中で目を覚ましたらお父さんが珈琲を飲む姿。
母が洗濯機を回す音。
姉が「おそよう」と笑ってこちらをむいた顔。
――「全部、全部贋者よっ!!」――
「私は悪くないっ!」
光景の全てに叫んでいました。
目に映る全てを見据えて、拒絶していました。
私は確かに酷いやつだったかもしれません。
でもあれはそれほど悪いことだったというのでしょうか。
あの罪に贖えるものがあるとするならばそんなものはもう手遅れです。
過ぎ去り二度と取りもどせないからでしょうか。
「そ……なにだから私、ここまで付き合ってるの?」
乗り気じゃないと言葉で並べ、気持ちすら並べていたのに、
結局は付き合いよく付き合ってる今があります。
でもそれは、「報われる」姿が見たかったからでした。
虚像でも、
ダンテの方を見て、微笑むリーチェの姿が見れればなにか私の中で救われる気がしたのです。




