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【他のプレイヤーが協力プレイを申請しています】


手を取り、そっと彼女を籠から出します。

触れられるのが意外で、どういう仕組みかと尋ねればオンラインキャラクターと同じ。

佐助が言うにはStory:modeならではの仕様だとか。

手間暇がかかる筆頭のクエストだけど、成功すればいろいろいいものが後に残る、

それが佐助曰くすすめたクエストでした。

効率が悪いと口をとがらしたのですが、加えてこう言うのです。


【このクエスト、吟遊詩人の武器が手に入る可能性大なんですよぉ】


詩編というものが手に入るらしいのです。よくわかりませんが強力だとか。

強力だったらいらない心配をする必要もないでしょう。

あのいけ好かないケイを酷使できるんですからいいんじゃないでしょうか。

長い金色の睫毛、同じく豪奢で綺麗な金色の長い髪。

肩に触れればか細く、少しのあたたかみがあります。

青の光沢あるドレスがよく映えていますが、手首の後を見れば痛ましいものがありました。

何度も、手錠を外そうと苦心した赤い痣が残っています。

「リーチェさん……」

呼ぶと細面があがります。しかし、虚ろな緑の瞳には何も映っておりません。

【心を無くしたお姫様、ですねぇ。これ、依頼達成になりますかね】

依頼主はフードの男で、名をダンテと言いました。

彼曰くこの婦人、リーチェというのは愛称で、名前はベアトリーチェというらしいのです。

彼女は王国のお姫様だったのですが侵攻を受け、城は陥落。

逃走途中に行方をくらましてしまったらしいのです。そしてオークションで見つかったという結果。

なんとも気分の悪くなるような境遇を経てきたのではないでしょうか。

「さ、行きますよ。大丈夫、もう誰も貴方を傷つけさせませんから」

微笑みかけますが、リーチェの顔は能面のように変化はありませんでした。



***



街はすっかりファンタジーよりです。

この光景も、このマスク越しじゃないと味わえないのでしょうか。

外せば興が醒めると言うより、危険らしいのではずせません。

係員の説明は厳守した方がいいですし、AIも真剣に言うので仕方なく守っております。

簡素な石造りの街並み。その裏側を歩きます。

赤いドレスはベルトで動きやすい長さまでたくし上げ、レギンスをはきました。

佐助曰く、

【レギンスなんて黒いすててこですぅ。萎えますぅ】

知りません。お構いなしです。

ただリーチェに履かせるのは抵抗がありました。

それにかなりスローテンポに歩くのにも手間がかかります。

裏道なので何か柄の悪そうな男がこっちを見てにやにやしています。

( 早く通り過ぎたいです )

その時、妙案を思いつき、私はリーチェを呼びます。

【……男前っす。真穂姉さんまじぱねぇ】

お姫様だっこ成功です。だってケイだって抱えられたのですから。

それにオンラインキャラクターと同じだったら質量が恐ろしいほど軽いとふんでみたのです。

絵柄的に私がたくましい女子のようですがいいでしょう。

周りの男達もなにやらどん引きしているようですが、気にしません。

歩いた後、ドライフラワーやらぶら下がっている軒先が見えました。

フローラルな香りと、白い壁に青い屋根の家です。

とても家主とギャップのある外観だと思うのですが、とりあえず、ドアを蹴りノック。

開いたら押し入ります。


「リーチェ!」


黒い服。黒一式。せめて白いベルトと、ライン。そしてモスグリーンの腕章があるだけましです。

銀髪の男で優男ですが、なにやらそれは黒で着やせしているのだと彼は言います。

名をダンテ。ファンタジックかつエキゾチックな魔騎士というわけのわからない職業をしているらしいのです。

彼は私からリーチェを奪い取ると、大泣きで抱きしめました。

二人は知り合いらしいのです。詳しい話は忘れましたが。

「……リーチェ?」

「…………」

けれどもやがてリーチェの心がここに無いと知ったのでしょう。

何度も彼女の愛称を呼んだり、笑わそうと慣れない冗談を口にしますが

一向に変化がありません。


「俺は遅かったのか」

「でしょうね」

「……ありがとうございます。これ謝礼です」

「どうも」


渡された金袋のみ。

リーチェを抱え、そっと揺椅子に彼女を座らせます。

動が無いリーチェですが、彼女の重みがここにある。

それだけが揺椅子に動をもたらし、動いていました。

しかし、ダンテはそれに慰められるような様子ではありません。

天井を仰ぎ見、そして、おもむろに傍の、花々を斬り散らしました。

ヤマブキの山吹色に、ゼラニウムの赤色。木香薔薇のアイボリー色。

花弁が部屋に散ります。

黒い漆黒の刃。その太刀筋も剣も一切を拒絶するように見えました。

虚無感。ダンテの心にもたげているのはそれでしょうか。


【……誰かいます】


佐助の声に、私は振り向きますとドアがあるだけ。

しかしそのドアから控えめなノックがしました。

ダンテは、剣をしまいます。それからドア歩み寄り、そっと来訪者を迎えました。



***



ドア口にたっていたのは、大和撫子を絵で描いたような少女でした。

黒髪長髪は腰にまでとどき、大きな黒い目、整った眉に、端正な顔をしています。

若い女の子ですがどこか色気のあるような侵しがたい神聖さもあります。

服装は期待を裏切らず和服。それも朝顔柄の小袖と、赤の番傘を持っています。

「御免下さい。突然の来訪失礼いたします」

深くお辞儀をしました。顔をあげた彼女と私、目が合います。

微笑みかけられます。私は笑顔をつくってよこしました。

「貴方は誰ですか」

「あ、突然すみません!申し遅れました!(わたくし)鷹司千代(たかつかさ ちよ)と申します。以後お見知りおきを、直江様にダンテ様」

深窓のご令嬢。大和撫子。

どちらにしてもえらく時代錯誤な女の子です。

【真穂様、プレイヤーですよぉ】

「えっ?」オンラインキャラクターと思いました。

「……直江様。オークションの折りは、どうも」

なるほど誰か私に一人だけはりあっていましたが、それは彼女らしいです。

「あのその……ご相談があるのですが」

自信の無さそうな口ぶりで伏し目がちに話し掛けてきます。

「はい?なんでしょうお嬢さん」

「私も、直江様のクエストに別口で参加したのです……」

「??」

柔和に控えめに、彼女は物申します。


「あの……ダンテさんの愛しい君を元に戻す方法、私わかりますの。でもそれにはオンラインキャラクターが必要でしょう?直江様……失礼ですけど誰もご一緒ではないようで」

【真穂さぁん。こいつ私のプロテクトいつのまにか解いてます。

だってケイさん連れてるように疑似映像をプレイヤーには表示していますよ。でも効果なしこれって】

皆まで言わなくてもわかります。

しかしこちらの内心の気持ちなど我知らず、彼女は微笑み尋ねます。


「あの……見当違いでしたか?なんとなくそう思ったんですけど」


佐助のカモフラージュをなんとなくで破るって、どうなんですか。

ニコニコ笑うこのお嬢さんがなんとなく妖狐のように思えてきました。

ですがこちらの年の功。小娘に負けていられません。


「貴方のオンラインキャラクターそんなに強力なのかしら」

「……えっと、たぶん頼りにはなると思います」


ドアの蔭から現れたのは女性でした。

背の高い精悍な顔つきに、彼女のボディーラインの魅力を余すことなく

引き立てる茶色のスキニーパンツに青のジャケット白ワイシャツに、銃が二丁腰にあります。


「メリー、彼女は盗賊です。よろしくお願いします、直江様」



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