ピンチの合間に
キラリは考えた。
狼よりも強い魔物とはどんな姿だろうと。
熊?虎?でも気候的に冬眠しないのか?
猪ってことも…
とりあえずこのままの道を進むという
エイミーに了承して歩き始める。
雪が残っているから滑らないように
意識しながらの登山は
なかなか体力を奪うように思えたが
エイミーにはエイミーの
考えがあるのだろう。
「…なにか出てきたらすぐ言って。
報告、連絡、相談はビジネスの基本よ」
淡々と告げるエイミーに
ふとキラリは気になって尋ねた。
「そういえば…エイミーも
異世界の出身だよな。それって…」
そこまで言いかけて、
はたして訊いていい話なのかと
思い当たって止まった。
もしかしたら辛い思い出かもしれない。
前の世界が思い出したくないほど
辛い環境だったかもしれないし、
もしくは恵まれた環境から
慣れないこの世界に来たことで
辛い思いもしているかもしれない。
どちらにしても
自分が気軽に聞いて
いい話ではないのではないだろうか。
なんて軽率に尋ねてしまったのか。
先程までとは異なる冷や汗をかきつつ、
キラリは二の句を告げずにいた。
「あー…やっぱいいや、ごめん、忘れて…」
「…お人好しも過ぎるとハゲるわよ」
エイミーが溜め息を吐いた。
恐らくフリーズしたり
青くなったりしている
キラリの顔色から推察したのだろう。
「…前の世界では殺し屋だったの」
「え!?」
「…なんて言ったらどうする?」
エイミーがじっとキラリを見ていた。
白い顔に整った容姿。
緋色の瞳がキラリを映していて、
ルビーみたいでキレイだなぁ、
とキラリは思った。
「え…。多分どうもしない…かなぁ…」
というかどうするとはどういう意味なのか。
「それって軽蔑する?とか距離を置く?
って意味だとしたら…
やっぱりどうもしないかなぁ…」
どういう生き方をして、
どういう経緯でなったのか、
キラリには知るよしもない。
それしか選択のない人生もあると
キラリは前の世界で知っていた。
快楽などからあえてその選択をした
人間もいるだろう。
しかしキラリから見たエイミーは
そうは見えなかった。
「俺から見たエイミーはさ、
急にやってきた俺が
不安にならないように
少しずつ話しかけてきてくれて、
負担にならないように
少しずつ鍛えてくれて、
クリスやリョウが危なくないように
わざわざ二人で魔物退治に来る、
俺から見たら優しい人だよ」
本当に小さく、
エイミーが息をのんだのがわかった。
そしてその後
「…怖ぁ。」
と呟かれた。
「…怖いのよ、
人は優しいものだと思えるその純粋さが。」
「えぇぇ…皆が皆優しいとは思ってないけど」
「…基本、人を疑わないでしょう。」
「基本人ヲ疑ウ…?」
完全に知らない言葉のように
キラリが聞き返してきたので、
エイミーは話題を変えた。
「…鍛えていたの、気付いてたの?」
「途中からだけどな。
エイミーそういう作業好きそうなのに、
俺がしてるときじっと見てるじゃん。
あれって危なくないようにとか、
筋肉とか腕の振りとか
見てるんじゃないかって気付いてからかな」
ありがとな、
と微笑むキラリに溜め息を吐く。
「…お人好しも過ぎるとハゲるわよ」
「2回言わなくてもよくないか!?」
あと、お人好しだからってハゲないと思う!
珍しくツッこんだキラリにそうかしら、
と無の顔でエイミーは返した。
「でも、エイミーの言ってることもわかるよ。俺も騙される方が悪いって
言われることも多いとこだったから。」
「…ならあなたは
それでも優しくすることを、
信じることを厭わなかった人なのね。
少し…羨ましいわ」
エイミーが微かに微笑んだように思えた。
しかしそれも本当にわずかの間で、
直ぐに元の顔に戻る。
「…生憎私は優しくなんてないわ。
善意じゃないから。
簡単に死なれては困るのよ。
クリスが泣くだろうから」
クリスには拾われた恩がある、
とエイミーは言った。




