ピンチの途中
落ち着こう、
とキラリは思った。
急にエイミーが吐血して倒れたし、
目の前には痩せた狼出てきたし、
なんなら今にも飛びかかりそうに
唸って体を低くしてるけど
…これ、落ち着いてる場合か?
「いやでも」
狼から目線を外さずに
じりじりと移動して
エイミーの前に立つ。
「やるしかないもんな」
手探るとエイミーによって
腰に下げさせられた
片手剣の柄が手に触れた。
そのまま抜くと、シャリンと音がして
白銀の刀身が姿を現した。
金属特有の重みを実感しながら構える。
「ごめんな」
傷付ける事への罪悪感から詫びて、
キラリは狼の跳躍と同時に駆け出した。
着地のタイミングを見て剣を振り下ろす。
当たった、と思ったが
実際は狼が避けたので
軽く切っただけだった。
ごわついた狼の毛は斬り辛く、
出血はしているようだが
傷も浅い。
むしろただ怒らせただけのような気がする。
唸りがさらに大きくなった。
怖い。
怖いけど。
後ろに引けない理由がある。
もう一回。
息を整え、唸る狼をよく見る。
前足に力をいれた。
狼が駆け出す合図だ。
強く剣を握る。
向かってくる狼に合わせて
横凪ぎに振った剣は
狼の足に当たったようだ。
ギャッと呻いて狼が転ぶ。
キラリが狼に向かって踏み込んだ。
剣の使い方なんて知らない。
でも薪割りならエイミーに教わった。
こんな時なのに頭の中に
静かなエイミーの声がする。
足は肩幅に開いて。
背筋は伸ばす。
膝の力を使って、
腰から落とすように振り下ろす。
刹那、狼の瞳に映る自分が見えた。
「ごめん」
剣が風を切る音と、肉を断つ感触。
短い呻きと共に狼が動かなくなった。




