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勇者物語その2 格闘家エイミーの指南書  作者: 琥珀糖玉


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1/7

きっと来る

ふと。

キラリは目を覚ました。

外はまだ薄暗い。

茶色の短い髪をかきながら起き上がった。


この…見た目は美少年だが、

仲間曰く、中身はただのお人好し

と言われる少女はキラリ。


急に住んでいる世界から

俗に言う異世界に召還されたらしい。


らしいというのは

物語で聞くような

神様や妖精やらから

説明されたりすることもなく

路上に行き倒れていたからだ。

それを通りすがりの

魔法使い、クリスが拾って、

仲間で商人のリョウが介抱して、

同じく仲間のエイミーが

たまに話してくれる。

そんな少女三人組に救ってもらって

勇者という役目を与えられて

今ここにいる。

まぁ勇者と言っても

悪者を退治したりの

仕事をしているわけではないが。


じゃあおとーさん役ね!

と言われてままごとに

参加している気分に近かった。


でも受けた恩義はたくさんあるので、

出来ることは覚えて返していきたいと

心に誓っているキラリであった。

生まれ育った世界から

不意に異世界にやって来て数日。


ここには時計はあるが、

目覚まし時計はない。

家に時計がある者もいるが、

なかなか高価なので、

外の大きな鐘を鳴らすことで

多くの街の人は時を知るのだという。


キラリは決まった時間に

仕事をしているわけではないので、

比較的自由な時間に起きていた。


なのに。


ここ数日は決まった時間に起きている。

パン屋が起きて、掃除人が起きて、

市場の者が目覚める少し前。

まだ明け方だ。

なのにきっちり起きてしまう。

静かに隣のベッドを見ると

クリスがすやすやと寝息を立てている。

枕にこぼれている金髪が絹のようだ。

長い睫に縁取られた

青い瞳は今は閉じられているが、

ころころ変わるいつもの表情がなくても、

ホントに可愛いなぁとナチュラルに思う。

そんな彼女を起こさないように

わずかに身じろぎして扉を見た。


決して古くはない宿屋なのに

ぎし…ぎし…と階段を上ってくる音がする。

普通の人なら聞き逃すかもしれない。

他の人より耳がよいため拾ってしまう音だ。

それでいて足音はとても小さい。

ひたひた…といった気配。


誰かが自分の部屋に向かっていている。


それを認識していながら

毛が逆立つようなそんな感覚。

見たことはないが、

もし幽霊がいるなら

こんな感覚なのではないか。

そう思わせる何かだ。


扉に注意を払いながら

ベッドから起き上がり、

軽く身支度をした。

ひた…ひた…ひたひた…。

そしてその気配が

キラリ達の扉の前で止まる。

ぎ…ぎぃぃ…

軋む扉から青白い指がのぞき

「…キーラリちゃん。遊びましょ」

仲間のエイミーが迎えに来た。


「んで。そのエピソードで

自分なんでそんなにへこんでるん」

ハーブティーを飲みながら

リョウに尋ねられて

キラリは俯いた顔を上げた。

「いやだってエイミーは

善意でしてくれてるのにさ…。

幽霊だとか毛が逆立つ感覚とか…」

申し訳なくて…。

と再び俯くキラリに

阿呆くさ!と溜め息を吐いた。


「いや悪意やろ。純度100%の悪意やろ。

隣の部屋で寝泊まりしとんのに

わっざわざ遠回りして

階段通って怖がらせながら

起こしに来るってどんな嫌がらせなん?」

「いやでも…」

「そもそも遊ぼうって今朝は何したん?」

「あ…なんか宿屋の主人が腰痛めて困ってるから水汲み手伝ってあげないかって」

汲み置きの水瓶に水をいれるべく

棒に桶をかけて何往復か手伝った。

水を組み上げるのにも筋力とコツが必要で、

水を運ぶのもバランスが難しかった。

「それを二人でやったん?」

「いや。エイミーは

この辺持った方がいいとか、

ここで力を抜いたがいいとか

アドバイスくれて」

「自分一人でやっとるやん!

あいつ口だけやん!」

「いやでも教わって楽になったんだよ。」

助かったんだと微笑んで言うキラリに

二の句が継げない。

そもそも手伝わなくていいことを

勝手に引き受けて、一人で作業させられて、

それを横で指示される。

ウザイことこの上ない。

聖人君子か。

お人好しか。

いや知ってたけど。


その時


「…ちゃお」

噂の本人が現れた。

「出たな諸悪の根元。

キラリだけ働かせたそうやないの」

「…お褒めに預かり光栄だわ。

そして私も見守るという仕事はしていたのよ」

「ほおぉぉー」

「あの、俺はホントに大丈夫だから」

揉めそうな空気を察してキラリが慌てて言う。

「…そう…。でも…」

そんなキラリに視線を移し、

エイミーが二の腕に触れた。

「…そんな強がり言って…

ここ筋肉痛でしょう」

上品な仕草で、しかし結構しっかり目に

握られて悲鳴を押し殺した。

「だ…大丈夫…」

「…あとでリョウから湿布を貼って貰うといいわ。口は悪いけど面倒見はいいから」

「口が悪いは余計や」

「え~そんなのぼくが

魔法で治してあげるのに~」

不満そうに呟きながらクリスがやってきた。

手には大量のパンを皿に盛っている。

「はい、これエイミーの分!」

余談だが、エイミーは大食漢である。

いつもその細い体のどこに入るのかと言うくらい沢山食べる。それも驚く早さで。

「…ありがとう。

寝起きの労働でお腹減ってたの」

「労働してから言え」

「…そっくりそのままお返しするわ」

「ほっほーう。表出ろやコラ」

「も~喧嘩しないの~」

二人の間にクリスが割って入る。

「…クリス。

せっかくの治癒の申し出だけど、

筋肉痛は日にちを経て

治した方がいいからそっとしておいて」

まるで怪我をした

当人のようにエイミーが言う。

「わかった~。でも必要なら言ってね☆

ちょちょいと治しちゃうから☆」

息さえあれば大体セーフ♪と

可愛らしい笑顔で言うが

内容は物騒で怖い。


とりあえずご飯食べよ~という

クリスの掛け声で食事を始める。

正直重いものを持つのは

腕の筋肉が悲鳴を上げるが、

数日すれば治るだろう。

そう思うキラリに

そうそう、とエイミーが呼び掛けた。

「キラリ。

明日は薪割りを手伝ってほしいそうよ」




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