第5話 Ability
死闘だった。
俺もルナさんもひたすらにボロボロで。普通に歩く事すらままならない。一歩、一歩歩くたびにとてつもない激痛が体中に走る。
ありえないぐらいの拳をもらったからか、体はすでに悲鳴をあげていた。
それでもなんとか前に進めたのはルナさんのおかげだった。
「応急処置にすらなりませんが・・・私の職業で一時的に一部の痛みを忘れているだけです」
痛みを忘れているだけ。
『忘却使い』という職業のルナさんはその人自身を傷つける事で1つのものを忘れさせることができる、らしい。世間的には嫌な事を忘れたい人がよくそんなお店に立ち入るのだとか。ちゃんと商売になるあたりがすごい。将来はルナさんもお店を開くのだろうか。
しかしそんな忘却にも欠点はある。
まず、忘れさせることが出来るのは1つだけ。他に忘れさせたいことがあるなら、一度他の忘却を消去しなければならない。同時に忘れさせることができるのは1つだけということだ。
そして忘れさせることができるのは小さなものだけ。例えば息の仕方を忘れる、とか自分の職業について忘れる、とかその人の人生、その人自身にとって大事なもの、多くを占めているものは忘れさせることができないらしい。
そして他に人がいたらすぐに能力が削除されてしまうということ。
例えば、先ほどの戦いではアリジゴクバナの居場所を忘却していたが、その居場所を忘れていたのは敵の巨体だけ。他に仲間がいて、そこにアリジゴクバナがありますよ、なんて言われてしまえばすぐに思い出してしまうのだとか。
はっきり言って制限がとても厳しい職業。
「今回も私たちがまだ歩ける程度の怪我でよかったです。さすがに痛みを忘れても足が折れていたりすると歩けませんからね」
「回復能力というわけじゃないし・・・無駄に怪我はできないですね」
俺らはそう確認しながらひたすら進む。
赤い土が風によって漂い、視界を塞ぐ。しばらく歩いていると建物のようなものが見えて来た。あちらこちらにそれが見える。街・・・だろうか。
家が多い。人が住んでいるのだろう。
さらに歩く。
距離的にはそこまで遠くはない。だが、怪我をしているため一歩一歩踏み出すのがとても遅い。痛みは大分軽減されているのだが・・・。
「所詮騙しているだけですから、一刻もはやく移動しましょう」
ルナさんにそう言われひたすらに歩いて行く。
しかし・・・ここに来る前はルナさんにひたすら拒まれ、異世界には連れて行きたくないと言われたのだが、一度こちら側に来てしまうと呆れられたのかそのようなことは言われない。
異世界に行き来することはやはり大変なのか、怪我をした今も帰れ、とは言われなかった。
そもそも言われたとしても帰るつもりはない。
確かに痛いし、辛い。それでもあんな退屈な日々に戻るぐらいだったら・・・。
「見えてきました。あそこに行きます」
俺の思考を遮ったのはルナさんの言葉だった。
指を指している。俺もそちらの方へ目を向けるとそこには家があった。家・・・ではない。大きな規模。果てしない大きさ。なんと言えばいいか分からないが・・・大きいとにかく。
あれは家というよりかは・・・。
「城・・・?」
その認識で正しいと思う。
まわりにある家とは大きさが何倍も違う。何倍も。あれは家では無いお城だ。大きな宮殿。しかしそれにしては素朴というか・・・・・悪く言えば地味、である。
個人的にお城というものは西洋のものであれ、日本のものであれ、それぞれ目立つような、趣深い何かがあると思っている。装飾しかり、構造しかり。
しかし目の前の大きな建物はあまりにも普通すぎた。異常なのは大きさだけだ。
一軒家をそのまま大きくした感じ・・・柱などがあり、そこらへんを見るとまた一軒家とは程遠い何かに見えるのだが。
「少し中途半端なんです、この建物は」
軽く笑ってからルナさんは迷いなくその建物の中へと踏み入れた。まずは門。ルナさんが歩き出した瞬間に門が開き、先に進めるようになる。
そして次に大きな扉。恐らく玄関だろうと思われるそこも綺麗に開き、何事もないようにルナさんは歩み始める。
「あ、あの・・・・・もしかしてこの家って・・・」
「はい、私の家です」
人生で初めて女の子の家にお邪魔してしまった・・・とかそういうことを最初に思い浮かべるあたり俺もまだ余裕があるのかもしれない。それはあくまで精神的な意味で身体的にはボロボロなのだが。
そんなことよりもこの大きなお屋敷が・・・ルナさんの家?本当に?いや、嘘を吐く必要性はないし、そういう面で嘘を吐く人ではないとここ数時間で理解している。
ルナさんってとんでもないお嬢様・・・なのか?
屋敷の中も驚くほど広かった。扉から中に入るとたくさんの部屋のドアが見える。そして目の前には巨大な螺旋階段。2階へとつながる階段だ。
1階は全て土足でいいらしい。2階からがルナさんのご家族の居住スペースというわけか。
2階へあがることなく、1階を進む。
いくつかあるドアの中から1つのドアを目指しているらしい。
「ルナ様!?」
そのドアに到達する前に誰かの声が聞こえた。
聞こえた方を見てみるとそこにはまさに執事といったようなおじいさんが立っている。細身ではあるが、背が高くなんでも出来そうな雰囲気をかもしだしている。
「あ、執事さん」
「あ、ではありません・・・その格好は・・・」
その格好というのは案の定ボロボロな身体のことである。
執事はルナさんと俺を連れ、先ほど目指していたドアを開け、中へと入る。小部屋・・・と呼ぶには大きすぎるその部屋はどうやら医務室のようだった。
「あら、また派手にやったのね」
その中にいたのは白衣のお姉さん。
またそれも憧れの存在ではあったが・・・ボロボロな身体を見ても慌てることはない。心配すらしていない。そんな雰囲気だった。
「イメリアさん、すみません。その・・・外で正義軍と戦闘になりまして・・・」
「外・・・なるほどね。もうここまで来れるだけの人材を揃えてるわけか」
イメリアと呼ばれた医師はルナさんの話を聞いても驚くことはなかった。
何事にも動じない、冷静。
少し怖いが、医師としては必要なことなのかもしれない。
執事は心配そうにしながらも仕事が残っているらしく、その場を離れ医師イメリアに任せる事に。
それでも仕事を優先させるということは、この医師かなりの実力なのだろうと思う。
「私は『薬使い』。その程度の怪我なら簡単に治せるわ。見たところ2人とも骨折はしていないみたいだし・・・というかあなたは誰?」
それはそうだろう。そうなる。
ルナさんの後をひたすらついてきてここに来てしまったが、まず初対面のはずだ。そもそもルナさんと出会って数時間しか経っていない。
「協力者です、この世界を救うための」
「協力者・・・見たところ子供だけど・・・まあ、それを言うならあなたも子供だしね、ルナ」
納得したのか再び治療を始める。
とはいえ、特に何かするわけではない。恐らく薬品であろうものをガーゼに染み込ませ、イメリアはそれを触る。光り出すガーゼを身体にあてていくと治っているというとんでも能力。
治せる怪我には限度があるし、きちんとその怪我にあった薬品を使わなければ治らないという制約はあるもののかなり便利な部類だ。
疲労を治す薬というのもあるらしく、ガーゼをあてられたところは怪我だけではなく、疲れもとれていった。今考えれば色々なことがあったからなあ。
「これで大体は大丈夫。もう数分すれば完治すると思う。それであなたたちはどうするの?」
「お父様に会いに行きます。彼に・・・能力を」
「なるほどね」
イメリアは近くにあったベルを軽く鳴らす。
すると先ほどの執事がまた医務室に入ってきた。彼を呼ぶためのものらしい。
「彼をお父様のところに」
「承知いたしました」
ではこちらに。と言う執事の後をついていこうとしたら、ルナさんがこちらに近づいてきて耳打ちする。内緒話?
「これからお父様はあなたに能力を与えます」
「能力・・・そんな簡単に?」
「いえ、普通はそうはいきません。職業ですから努力が必要なのです。しかし、一時的にならそれを与えることができる。その間に正義軍と戦えば・・・もちろん嫌ならば今直ぐ帰ることもできます」
ルナさんは心配そうだ。
本当に俺を巻き込んでもいいのか。それを迷っているらしい。
「巻き込んだなんて思ってませんよ。そのうち地球にも来る恐怖・・・今のうちに潰しましょう」
「ありがとうございます。使いやすい普通の能力がおすすめです、そうお父様にお伝えください」
お伝えください?
ってことは俺1人なのか?それはちょっと心細い・・・。
しかしそんなことで文句もいえない俺は執事の後をついていき、小さく手を振るルナさんに手を振り返しつつ、医務室を後にした。
予定よりも長くなってしまうかもしれません。
最初にも書いたとおりダイジェスト的な感じで進んで行くつもりです。こうして書いているともう少し本編の方を続けてもよかったかな、と思います。
ではまた次回。




